第6話「勇者たちの凋落と魔王軍の脅威」

 佐藤拓海の名が、Sランク冒険者として王都にまで轟き始めた頃。

 かつて彼を追放した勇者パーティは、深刻な状況に陥っていた。


「くそっ! なぜだ! なぜ俺の聖剣が効かない!」


 勇者・東堂克也は、魔王軍の小隊長クラスの魔族を相手に、苦戦を強いられていた。

 聖剣の輝きは本物だったが、彼の剣筋はあまりにも単調で、力に任せた大振りが目立つ。

 敵に簡単に見切られ、防戦一方となっていた。


「東堂くん、援護します! ファイヤーボール!」


 大賢者となったクラスメイトが放つ魔法も、敵の魔法障壁に阻まれて届かない。

 彼らは、召喚直後に与えられた強力なスキルと、王国の手厚い庇護に完全に驕りきっていた。

 基礎的な訓練を怠り、仲間との連携を深めることもせず、ただスキルの力だけで勝ち進んできた。

 その結果、少しでも格上の敵が現れると、途端に脆さを露呈するのだ。

 さらに、彼らの態度は民衆の心をも離れさせていた。

「自分たちは選ばれた勇者だ」という傲慢な考えが、言動の端々に現れていたのだ。

 食料を徴収する際には高圧的な態度を取り、民衆の助けを求める声には耳を貸さない。

 いつしか、彼らは救世主ではなく、厄介者として見られるようになっていた。


「聖女様、どうかこの子の病気を……!」

「ごめんなさい、今は魔族との戦いで忙しいの。後にしてちょうだい」


 聖女・白石莉子もまた、疲弊していた。

 仲間が戦いで負った傷を癒やすだけで手一杯で、民衆一人一人にまで手が回らない。

 彼女の治癒魔法は強力だったが、万能ではなかった。

 次第に笑顔が消え、その瞳には焦りの色が浮かんでいた。

 王国全体に、そんな不穏な空気が流れ始めていた矢先のことだった。

 魔王軍が、大規模な侵攻を開始したという報せが届いたのは。

 そして、その前線に、魔王軍の中でも最強と謳われる幹部の一人が姿を現した。


「我が名はリリア。『氷結の魔女』。勇者よ、あなたたちの遊びはここまでです」


 銀髪をなびかせ、見る者を凍てつかせるような美貌を持つ魔女、リリア。

 彼女が右手を軽く振るうと、王国騎士団の精鋭部隊が一瞬で氷漬けになった。


「ふざけるな!」


 東堂が激昂し、聖剣の最大の力を解放してリリアに斬りかかる。

 浄化の光を纏った渾身の一撃。

 しかし、その刃はリリアの目前で、ピタリと止まった。

 彼女の周りに展開された、薄い氷の膜のような魔法障壁に阻まれて。


「それが、あなたの全力ですか? あまりにも、つまらない」


 リリアが指を鳴らす。

 その瞬間、東堂の聖剣が根本から凍りつき、彼の体は氷の柱に閉じ込められてしまった。


「東堂くん!?」

「きゃあああ!」


 パーティはなす術もなく、リリアの絶対零度の魔法の前に踏みにじられた。

 誰もが深手を負い、命からがら王都へと撤退するのがやっとだった。

 勇者パーティの、壊滅的な敗北。

 その報告は、王国中に衝撃を与えた。

 王城では、国王と騎士団長が苦虫を噛み潰したような顔で、新たな報告書に目を通していた。


「馬鹿な……嘆きの森に捨てた、あの無能の小僧が……Sランク冒険者だと?」


 騎士団長が、信じられないといった様子で呟く。

 報告書には、アークライトの街を拠点に活動するSランク冒険者「スキル・コレクター」佐藤拓海の驚異的な活躍が、詳細に記されていた。


「【模倣】スキルは、劣化コピーしかできない外れスキルではなかったのか……?」

「我々は、とんでもない逸材を自らの手で手放してしまったのかもしれん……」


 国王は、玉座で頭を抱えた。

 魔王軍の脅威は目前に迫り、頼みの勇者パーティは壊滅状態。

 そして、かつて自分たちが見捨て、役立たずの烙印を押した少年が、今や伝説的な英雄として名を馳せている。

 皮肉な現実に、彼らはただ打ちのめされるしかなかった。

 王国は今、まさに滅亡の危機に瀕していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る