第4話 彦根

「青龍、道合ってるよな。海が見えるんだが…」

 摺針すりはり峠から視界いっぱいに広がる水面に、雪之丞は不安になって青龍に聞いた。すると呆れ声が、盛大なため息とともに降ってくる。

『あれは、琵琶湖です』

 ああこれが、と雪之丞は琵琶湖を仰いだ。

 江戸を出てから、すでに二十五日が経っていた。

「琵琶湖、ということは彦根はもうすぐか」

『鳥居本宿を過ぎたら、中山道から外れて彦根城に向かいます』

 峠を下り、その鳥居本宿にたどり着く。ここから先は街道からそれるので、どこかで昼餉を取ろうと宿を探していると、

「雪之丞殿」

と声がかかった。声の方を振り向くと、そこには雪之丞の見知った男が立っていた。井伊直弼の側近だった宇津木六之丞の部下、佐伯だ。宇津木に彦根藩に寄ると文を出してはいたが、鳥居本宿まで迎えが来るとは思わなかった。懐かしい顔に、雪之丞の顔もつい緩んだ。

「佐伯殿、お久しぶりでございます」

「お疲れでしょう。まずは休憩いたしましょう」

 そう言って、佐伯は本陣へと雪之丞を案内した。仰々しくも個室に通され、昼餉が出される。至れり尽くせりの歓待に、雪之丞は少々恐縮した。

 食事の間に積もる話をしていると、佐伯が思いもしない人物の名を口にした。

「小栗殿は息災ですか」

 その名を聞いて広い額がてらてらと光る小太りの男が思い浮かぶが、まさか佐伯が知っているとは思えなかった。

「小栗殿、ですか?」

「はい、南町奉行所の小栗殿です」

 驚く雪之丞に、佐伯が笑いながら言った。

「あなたを心配なさった直弼様が、誰か頼りになる者を付けるよう宇津木に命じたのです」

 庶子で次男の雪之丞が江戸城で肩身の狭い思いをしているのを気に止めて、吉原の仕事を与えたのが井伊だった。弱冠五歳を市井しせいに、しかも吉原に出すのである。一般庶民ではその年での丁稚でっちはよくある話だが、雪之丞は江戸城で育った箱入り息子。心配もする。

「そこで宇津木は道場で一緒だった小栗殿、当時はまだ下っ端役人でしたが、彼にあなたの保護を依頼したのです」

 そんなこととは知らず、出発前に少々邪険に思ったことを雪之丞は後悔した。彦根に着いたら、下宿先をしたためた文でも出そうと思った。

 食事が終わり人払いがされると、佐伯が重々しく口を開いた。

「彦根城に入る前に、少々話したいことがございます」

 改まった佐伯の言葉に、只ならぬ雰囲気を覚えて雪之丞は背筋を正す。なるほど、それで個室なのか。

「雪之丞様は事件後の彦根藩の現状を、どこまでご存じでしょうか」

 現状。どこまで。質問の意図が分からないまま、とりあえず井伊直弼の暗殺事件後の彦根藩の扱いを振り返る。

「井伊殿が暗殺されたことを伏せることで、後継ぎの指名を取り付けられた、というのは聞いております」

 宇津木は切り落とされた井伊の首を取り戻し、負傷により大老職を解かれたというていで時間を稼いでその死を徹底的に伏せた。何故なら、後継ぎを指名せずに逝去した藩主の藩は、掟によって取り潰しとなってしまうからだ。

「はい。おかげさまで廃藩は免れました。しかし、全てが円満に解決したわけではございませんでした」

「といいますと?」

「藩主が暗殺された上に石高は減らされてしまい、その怒りは暗殺した水戸藩へ向かいました」

 それは当然のことである。藩内は水戸藩への報復に立ち上がった。そうなれば松の廊下の赤穂浪士の乱の再来、内戦ぼっ発は待ったなしだ。それを恐れた幕府は、被害者である彦根藩に堪えてくれという、将軍直々の文を送りつけた。彦根藩は渋々それを受け入れたが、水戸藩はおとがめがないどころか、安政の大獄で隠居となった慶喜は現将軍の後見という立場にまで復活している。

「彦根藩は幕府の所業に対して不満を抱いている、と」

「早い話が、そういうことです」

 思った以上に事は深刻だった。このままでは佐幕派の代表だった彦根藩が、反旗を翻しかねない。まつりごとに疎い雪之丞でも、赤穂の例があるのでそのくらいは想像がついた。

「あの時、無理にでもお引止めをすれば良かったと、宇津木は悔やんでも悔やみきれないと毎日言っておりました」

 あの雪の日の朝に出した文は、朱雀が宇津木に届けていた。彦根藩邸から桜田門までは約四町(約四百メートル)。それに対して警護の人数は六十人弱。本来ならじゅうぶん過ぎる数だ。宇津木は雪之丞からの文で警護の増員を進言したが、井伊本人は「大げさな」と一笑に付してしまった。

 悔やんでも悔やみきれないのは、雪之丞も同様だった。

「あの日雪でなければ…」

 六十人ほどの警護の者は、雪のため刀に柄袋をかけていた。そのため抜刀が遅れ、あの惨劇となった。雪之丞はそう思っていたが、佐伯がそれを否定する。

「襲撃は短銃ピストルでしたから、雪でなくても変わらなかったでしょう」

「短銃だったのですか」

「第一撃がもう致命傷でした。ほぼ即死と言ってよいでしょう」

 そうなると、警護を増やしたところで防げたかどうか怪しいところだ。防げたかもしれない、と後悔していた雪之丞は複雑な気持ちになる。

「その宇津木様は息災ですか?」

 すると佐伯の顔がみるみると暗くなる。

「宇津木は昨年、粛清されました」

「粛清? 何ゆえ?」

 井伊の死を伏せて、廃藩を逃れた言わば功績の第一人者だ。その人が何故粛清されなければならないのか。

「彦根に戻られてから、暗殺の責任を取らされ斬首されました」

 斬首。切腹もさせてもらえなかったということだ。それは武士にとって最も屈辱的な最期である。見せしめとしても、あまりにもの処遇ではないか。

「宇津木だけではありません」

 桜田門の事件以降、藩主を守れなかった罪で事件時に護衛していた者たちが処罰されていった。事件で軽傷者は切腹、無傷の者は宇津木のように斬首だった。

「雪之丞様、他人ごとではございません」

 佐伯の声が一段と低くなる。

「雪之丞様は彦根藩の人間でこそありませんが、藩主を守れなかった同罪人と思っている者もおります。彦根藩滞在中は、くれぐれもお気を付けください」

 

 彦根城は、琵琶湖のほとりの小高い彦根山に築かれた平山城だ。しかしその山すそは断崖絶壁で、三重のほりと石垣に守られた盤石な城塞じょうさいだった。体力のない雪之丞は、急こう配の階段に息があがってしまう。しかし登り切ると、眼下に陽の光を浴びてきらきらと輝く琵琶湖の美しい景色が広がっていた。

 そんな光景とは裏腹に、藩の人たちの視線は想像以上に厳しかった。

「おい、見ろよ。あいつ将軍付き陰陽師の息子だぞ」

「直弼様を見殺しにした陰陽師か」

「将軍の犬め」

 皮肉なものだ。江戸城内では将軍付き陰陽師の息子はあくまで義兄であり、庶子の雪之丞は後継者としての土御門の名すら名乗れないでいる。しかし吉原での仕事をきっかけに江戸城を出てから今まで、市井で一町民として生活をしてきたと思っていたのは雪之丞だけだった。思っている以上に雪之丞は「将軍付き陰陽師の息子」と見られているのだ。

『空気がぴり付いてやがる』

『ああ、殺気があちこちに感じられるな』

 前後を警護している朱雀と白虎が口にしなくても、雪之丞にもそれを感じられた。それほどまでに、雪之丞は歓迎されていなかった。

 雪之丞が定番である東海道を選ばず中山道を選んだのは、井伊の故郷であるこの彦根藩に寄って墓前に手を合わせるためだった。しかしそれは、佐伯に余計な気を遣わせてしまった。これではまるで、自己満足のための寄藩ではないか。

『来なかったら来なかったで、あなたは後悔をしたでしょう。後も控えておりますので、やるべきことをやったら速やかに出立しましょう』

 今日は三月二日。雪之丞に残された時間は少ない。青龍の言う通りだ。

 覚悟を決めて入城し、現藩主井伊直憲と対面する。さすが藩主だけに感情をむき出しにはせず、淡々と井伊直弼との生前の交流と来藩の礼を述べた。しかし脇に居並ぶ面々は、そんな気持ちではないことは分かる。針のむしろの上にいる時間は長い時間に感じられた。

 やっと解放されたのは、西の空が朱に染まり始める頃だった。雪之丞は琵琶湖の砂浜から陽が沈むのを眺めていた。たなびく雲と沈みゆく陽が複雑な陰影となり、美しい夕景を作り出している。

「思ったより状況は厳しいな」

 雪之丞は夕日から目をそらさずに言った。厳しいのは雪之丞に向ける視線だけではなかった。想像以上に幕府への恨みが募っていた。

『井伊様の側近だった宇津木と長野を斬首したのも、尊王派に鞍替えしようとしているということを藩外に知らしめるためでしょうか』

「そうかもしれんな」

 政はよくわからないと今まで目を背けてきたが、今回の件で自分の立場と言うものが良くわかった。幕府側の人間であることが、自分の身にどう降りかかってくるのか。これからはその点を考えて行動をしなければ、と心に刻む。

 茜色の空が黄昏たそがれてゆき、やがて逢魔おうまが時の薄暗闇へと刻々と変わっていく。まるでこれからの幕府の行く末を表しているかのようで、不安が募ってくる。

『今宵の準備もあります。もう戻りましょう』

 青龍が持っていた羽織を、雪之丞の肩に掛けた。

「そうだな」

 見えぬ未来に憂いていても仕方がない。雪之丞は今できることをするしかなかった。


 今夜の雪之丞の宿は、井伊が藩主となる前の不遇の時代に過ごした「埋木舎うもれぎのや」と井伊が呼んでいた北の御屋敷。城の中堀に面した、静かな屋敷だった。

 世の中を よそに見つつも うもれ木の 埋もれておらむ 心なき身は

――十四番目のしかも庶子に産まれた井伊様は、どんな気持ちでこの歌を、この屋敷で詠んだのだろうか。

 雪之丞は庭に出て、満天に広がる煌星きらぼしを仰いで井伊に思いをはせた。

『どうした。ずいぶんと辛気臭ぇ顔だな』

 縁側から朱雀が顔を出す。いつもなら青龍がそばに控えているのだが、今青龍は江戸に使いに行っていた。朱雀が手にした盆の上には、徳利と二杯の盃が乗っている。

「井伊様はここで三十二になるまで過ごされたそうだ」

『お前は五つでいっちょ前に働いていたな』

「僕は恵まれていたんだな」

 素の雪之丞は一人称が僕に変わる。それはよほど心を許した者の前でしか使わない。四獣でも青龍の前では言わないし、朱雀もそれほど聞いたことはない。四獣の中では玄武が一番多く聞いているだろう。人間では片手で足りるくらいで、父と母の前では当然使わなかった。

 雪之丞は縁側に上がり、盆をはさんで朱雀の隣に座る。

『勘違いするなよ』

 朱雀が盃に酒を注ぎながら言った。

『それはお前に能力があったからだ。周りに用意されたものじゃない。自分自身でつかみ取ったんだ』

 雪之丞は能力が高すぎてそれが当たり前だと思っているが、陰陽師などそう簡単になれるわけではないし、まして四獣を従えることなど稀なことだ。それをなかなか理解しない雪之丞に、朱雀はじれったさを感じる。

『もっと自信を持て』

 とは言うものの、世間一般的には実力より土御門の名が重要視された。一般人にとって陰陽師の仕事は胡散臭いものだ。その中で土御門の名は陰陽師の象徴であり、信頼なのである。確かに名乗れない不利はあるが、それを覆すだけの実力が雪之丞にはある。それを理解してくれる人間は必ずいる。井伊や松平容保のように。市井で出会った人々のように。

 朱雀はいつになく真面目に雪之丞を諭した。

『と、青龍みたいな堅苦しい話はここまでだ。さ、井伊と宇津木に献杯しようぜ』

 朱雀は雪之丞に盃を渡した。雪之丞は盃を受け取ると、

「献杯」

と言って酒に口を付けた。

『くー、やっぱり水が良いところの酒は美味い』

『お、やってるな』

 白虎が酒の匂いをききつけてやってきた。雪之丞の夕餉を手にしている。頼んでいた精進料理だ。

 三月とはいえ、まだ夜風は冷たい。白虎は四獣の姿になり、雪之丞を包んで丸まった。体長約十尺(三メートル)ほどの白いもふもふは、寝そべりながら平皿から酒を舐めた。

「白虎はあったかいな」

『ああ、あったけー』

『おい朱雀、どさくさに紛れてお前までくっつくなよ』

『いいじゃないか、俺も寒いんだよ』

 二人と一頭の宴会は、何だかんだと夜四ツ(午後十時)まで続いた。


 夜四ツを過ぎた頃、江戸から青龍が戻ってくる。

『さぁさぁ、宴会はお開きですよ。仕事を始めてください』

 朱雀と人形に戻った白虎が庭で準備を始める。

『雪之丞がをやるのはいつ以来だろう』

『最後はいつだったかなぁ』

『そう簡単にするものではありませんよ』

 青龍は浮かれ気分の二人をたしなめ、桶を手渡す。

『早く水を汲んで来てください』

 青龍に言われて渋々と水を汲みに行く二人の後ろ姿を見送りながら、

『青龍よ、そう邪険に扱うでない。わらわも楽しみぞ』

と、平安稚児姿の子供がのんびり茶をすすりながら言った。衣もおかっぱの髪も胡粉ごふん色で、瞳は紅梅色をしている。色白の額にはなかごに刻まれた梵字と同じ「バン」が瞳と同じ色で記されていた。白梅兼定である。

『そう思うなら手伝ってください』

『だそうだ、風雅、雷鎧よ』

 白梅が兼定兄弟に顔を向ける。兼定兄弟も人形ひとがたになっていた。

『力仕事は任せたよ、兄さま』

『任せろ弟』

 雷鎧が切ってきた太い幹の木を軽々宙へ投げ、拳でたたき割るときれいな板状となった。その板を風雅が扇で仰ぎ、きれいに並べる。息の合った作業で、あっという間に即席の舞台ができあがった。やがて朱雀と白虎が神社から戻り、汲んできた湧き水をたらいに注いだ。松明に火が灯り準備が整うと、白梅が祈りを捧げて仕上げに庭一帯に結界を張った。

『雪之丞。準備ができました』

 青龍が呼びに戻ると、雪之丞は白装束に着替えていた。

「後は頼む」

『承知しました』

 四獣と刀たちが屋敷に戻ると、雪之丞はたらいに張られた水を浴び始めた。

 みそぎは半刻(一時間)をかけて念入りに行われた。時はすでに四ツ半(午後十一時)を回っている。青龍が手際よく雪之丞の体を拭いて、衣装の着付けを始めた。青龍が着付けをするのはこれが初めてだった。前回まではこの役目は玄武が担っていたからだ。着付けの後は髪結い。仕上げの冠を刺した時には、夜四ツ(午前零時)目前であった。

『…』

 縁側に出ようとする雪之丞を青龍が制した。

「どうした?」

『いえ、何者かの視線を感じたような気がしたのですが』

 青龍が精神を澄まして赤い光を感じた辺りを探るが、不審な気配はなかった。

『気のせいのようです。それでは行ってらっしゃいませ』

「参ります」

 雪之丞が気を取り直して縁側に現れると、今宵の観客たちが声を上げた。

『雅ですね』

『いつ見ても美人だなぁ』

 風雅と朱雀がため息をつく。

 白衣はくえに緋袴、白衣の上には千早ちはやを重ねている。千早は本来、鶴や亀の縁起物が刺繍がされているが、雪之丞の千早は金糸で白蛇が描かれていた。髪は丈長たけながで結ってあり、その手には神楽鈴が握られている。

 雪之丞はゆっくりと舞台に上がると、大きく息を吸った。時が夜四ツを回り、日付が変わって三月三日、井伊直弼の命日となる。空には美しい弧を描いた三日月がのぼっていた。

 星月夜にしゃらんと鈴の音が響くと、巫女神楽が始まった。

 井伊直弼への鎮魂の舞だった。

 しゃらん

 しゃらららん

 幻想的な舞と鈴の音が異世界へといざなう。神楽鈴が鳴るたびに、鈴に付けられた五色の紐が優雅に夜空を舞う。白い千早がひらひらとひる返り、金色の刺繍が松明の灯りにきらきらと星のごとくまたたいた。

 どのくらいの時が経ったのだろうか。

 しゃらん

 最後の神楽鈴が鳴り終えると、舞台は静寂に包まれた。

 静寂を破ったのは白梅だった。白い小さな手を鳴らして雪之丞を褒めたたえた。

『腕を上げたのう』

『うん、前より鈴の音が澄んでいたね』

 耳の良い風雅らしい感想だ。

『しかしうまく化けるものだな』

『化粧とは恐ろしや』

 無粋な感想は白虎と雷鎧だ。雪之丞はおしろいをはたき、うっすらと紅を差している。どこから見ても美しい少女だ。ただ。

『しゃべらなきゃ本当に美人なんだがなぁ』

「余計なお世話だ」

 雪之丞はこの旅路の間に声変りをし始めていた。しゃべるときちんと少年だった。その差が観客を現実へと引き戻した。

「母上に返しておいてくれ」

 雪之丞は着替えると、衣装を青龍に手渡した。

『承知しました』

 雪之丞の母は、由緒ある神社の巫女だった。本来なら母から娘へ引き継がれる巫女神楽だが、残念ながら子供は息子だった。息子だった時は息子が見て覚え、娘が生まれたら口頭で教える。だが雪之丞は自らが舞うことを選んだ。雪之丞いわく、口頭で教えるよりやって見せた方が早い。それは吉原で禿をやったり、人手が足りない時には舞いを舞ったりしていたので、抵抗がないせいかもしれない。

『さぁ片付けたら出立しますよ』

 青龍の一言で、余韻に浸る間もなく片づけが始まった。いつの間にか赤い瞳の何者かも姿を消していた。


「もう出立されるのですね」

 佐伯が申し訳なさそうな声で言った。

「元々今日中には京に着かねばなりませんでしたので」

 彦根藩の雰囲気のせいではないことを強調する。ただでさえ佐伯には気を遣わせてばかりだった。それなのに。

「馬まで貸していただき、大変助かります」

 大津宿の手前に彦根藩と荷の取引のある商家があるので、そこまで馬を借りることになった。かなりの時間短縮になる。この分なら昼には二条城に着けるだろう。

 最後に小栗宛の文を託して別れを告げる。

「お世話になりました」

「お気をつけて」

 次に佐伯と出会う時は、恐らく同じ旗の元にはいないだろう、と確信に近い予感がした。もう会うこともないかもしれない。

 しかし数年後、下総流山で敵として対峙することになろうとは、今の雪之丞には知る由もなかった。


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