閑話
『あーはいはい、もちろん知ってるよ』
ハルキが『餓鬼の棲む家』という名前を出すと、電話の向こうで拓実──
ハルキはテレビ局で働いており、とある番組のオカルトコーナーを担当している。番組で『餓鬼の棲む家』について取り上げようと思ったのだが、調べてみると気になる点がいくつかあったので、このスジに詳しい拓実に電話してみたのだった。
「ちなみに拓実さんたちは、そこ行ってみようとか予定あります?」
『いやー、ないね。っていうかさあ、なんかちょっと、あの噂……うーん、気になるんだよねぇ』
「あ、やっぱりですか」
『ん? やっぱりって?』
「色々調べてみたんですけど……まず大元の掲示板の書き込みですけど、何かちょっと自演臭いんですよね」
大元になった書き込みはまだネットで見ることが出来る。その中で『餓鬼の棲む家』について知っていると書き込んだ人間は、最初に書き込んだ者を入れて6人。IDはバラバラだが、口調や句読点のクセなどがかなり似通っている。
『うんうん、それわかる。俺も思った』
「ですよね」
『あとさ、動画あるじゃん? あれも元動画見つからなくてさ』
「ですよね。まあ明らかに不法侵入っぽいから消したのかも知れませんけど」
『まあね。でもあのキャプチャされた動画もさ、何か捨て垢みたいので伸びてる投稿に便乗するカタチで貼り付けられたりしててさ、どうも意図的に流行らせようとしてる感じがあるんだよね』
それについてもハルキは気がついていた。SNSでの広がりを調べるために古い投稿に遡っていくといくつかのアカウントにぶつかるのだが、それらのアカウントは『餓鬼の棲む家』に関する投稿や引用しかしていなかった。もちろんそれだけで自演とは断定出来ないが『流行らせようとしている誰か』の存在をハルキも感じていた。
「タクミさん、そちらの界隈では何か噂になってたりしませんか? その『餓鬼の棲む家』について」
『いや、それがさ、ぶっちゃけ無いんだよね。こういうのってSNSとかで話題になる前に、既に界隈では噂になってたり、それ系(心霊スポット)の掲示板とかまとめサイトとかには情報あったりするんだけど。これに関してはほんと、そういうのすっ飛ばしてSNSで広がった感じなんだよね』
「なるほど……」
『その噂の家って、場所は特定出来てるの?』
「あ、はい。それは、もう」
『さすが』
「いえいえ。普通に住所わかっちゃうような投稿もけっこうあって」
『マジで?』
「マジです。それも捨て垢っぽいのが書いてますね」
『まあ掲示板の段階から■■■ってとこまではバレてるしね』
「ちなみにあの家、今売家なんですよ」
『マジか。え、でもさ、こんな噂たってたら売れないでしょ?』
「少なくともまだ売れてないみたいですね」
昨日、不動産サイトで確認したが売れていなかった。そのサイトには中の様子を写した写真も掲載されていたが──、
「気になったのは、不動産サイトの写真だと家具とかは全部出されて、クリーニング済になってたんですよね」
『あれ? 動画だと違ったよね?』
「家具とかそのまんまでしたね」
『だよね? えっ、何か怖い』
「ですよね……」
『個人的には気になるけど、もしこれヒトコワ系だった場合、テレビじゃ使えないんじゃないの?』
「報道案件の可能性ありますね」
『でも調べるんでしょ?』
「です、ね……」
オカルトコーナーを担当していてなんだが、ハルキはオカルトを信じていなかった。少なくとも幽霊がいるとは思っていない。だからこそこういった噂を調べるとき、ついついその裏にあるものを探ろうとしてしまう。悪い癖である。
「まあちょっと、個人的に、調べてみます」
『ほんとオカルト好きだよね』
「別に好きじゃないですよ」
『はいはい。じゃあ何かわかったら教えてね』
「はい。お時間いただいてありがとうございます」
『いいえ〜、じゃあまた』
拓実との電話を切ってすぐ、ハルキは昨日控えておいた不動産屋の番号へと電話をかけた。
(明日は現地に行ってみるか……)
コール音を右耳で聞きながら、ハルキはこのネタがボツになった場合に代わりになるネタを頭の中で探していた。またしばらく、残業が続きそうだった。
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