届いた宝に君がいない

Side エドワード


目の前から二頭の馬の影を見つけた瞬間、誰もが警戒した。しかし、その姿に見覚えがあった。


「エドワード叔父様!」


聞こえてきた声が、間違いなく我が姪だと分かり、攻撃しないように、と手でサインを送った。馬は目の前に停まり、そして騎士が馬から降りる。エレノアを抱き上げて降ろし、跪いた。追従するように侍女も同じ形を執った。そして騎士が持っていた剣と、もう一つ王印を捧げる礼を執った。


「カーティス・べモート。王妃様の命で、王印、王剣、そしてエレノア様。我が国の3つの宝を届けに参りました。」


王妃様の命。その時点で彼女は王城に残ったのだと理解した。国としては正しい。王妃としても正しい。エレノアとこの王剣、王印さえあれば正当性の主張は可能だ。

だが、私にとってはそうではないのだ。


「ご苦労だった。ベモート卿それと、サラ嬢。」


労いの言葉を掛けた騎士と侍女は頭を下げた。侍女の方は堪え切れずに泣き出していた。エミリアがエレノアに付けた護衛が二人なはずはない。つまり、犠牲を払ってここまで来たのだろう。侍従が受け取った剣を差し出した。


もう、迷うことなどない。


私は結局、『気弱な王子』。だけど、彼女の為ならいくらだって勇気を振り絞ろう。頭の中でそんな私に笑いかけてくる姿が浮かんだ。


「これより、4つ目の宝、エミリアを奪還する。」


剣を掲げて高らかに宣言した言葉に、強行軍で追従してくれた騎士たちは雄叫びを上げた。そして目の前にいたエレノアは泣き出した。ぽろぽろと落ちていく涙に少なからず動揺した。


「お義母様を、おねがいしますっ。」


彼女の呟いた言葉に思わず驚いた。そして隣で並んでいた馬の主に視線を向ける。


「オクレール公爵。」


「なんでございましょう?」


ニコリと笑うオクレール公爵はその笑顔の下に氷のような視線を見せた。オーウェン王国から借りてきた騎士団。それを統率するのはオクレール公爵ステファン。彼が来ているのは助力ではなく、見定めに来ているのだと分かっていた。


つまり、我が国は自力で国を奪還しなければ、オーウェン王国に同盟相手として認められない。


「貴公たちには、我が国の宝、エレノアを守っていただきたい。」


この言葉が時間稼ぎだということは騎士たちも、多分であるがエレノアも分かっていたようだ。


「ほお、そんな脆弱なありあわせの軍で宝は取り返せるのか?」


意地の悪い、と言いたくなるが、その言葉は飲み込んだ。そして彼と同じように仮面を被って笑うのだ。


「私は、ケルビー侯爵を信じておりますのでね。」


「分かりました。これより半日。その間は待ちましょう。それ以内に『宝』を取り戻せない場合は、オーウェン王国は参戦いたします。よろしいですね?」


その言葉に頷いた。地面に跪いたままのベモート卿は悩んだ顔をしていた。


「ベモート卿、サラ嬢。エレノアを守ってくれ。」


いざ人質にされたときは、連れて逃げてくれとの意味で伝えれば、彼は強い目で頷いた。後ろの侍女も涙の跡を拭き取りながら頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る