神様はみている

Side エミリア


幾つもの轟音が聞こえる。ゆっくりと目を瞑った。マグリットもまた、小さく深呼吸をしたようだった。


「王妃様、わたくしは貴女様の意志に従います。名誉の死でも、不名誉な生でも。」


気丈にそう言ったマグリット。さすが宰相の妻にして、侯爵夫人。ポツリと、自分の胸の中にある言葉を発することにした。


「……下賜を望んでくれる人がいるの。」


その言葉に彼女は驚いたようだった。その意味を理解したらしく、優しく笑った。


「私が白い結婚だとは伝えていないの。でも、王のモノになっていても良いってことだと捉えているわ……。」


マグリットは優しく笑った。彼女の手の震えは止まっているようだった。


「私は、どんな形であれ、生きて、あの人に会うわ。」


私も震えているのだろう。唇が、手が、足が、力が入らない。それでも、立ち向かえる勇気を振り絞った。


「大丈夫でございますよ、王妃様。私の夫もどちらかと言えば生きていることを喜んでくれ

る人です。だから、王妃様のお相手も、きっとそうです。」


勇気づける言葉。彼女の震えは完全に止まった。そうか、彼女が恐れていたのは名誉の死を私が選ぶこと。どんな形であれ、彼女はケルビー侯爵のもとへ帰りたいのだ。


傾れ込んできた兵士はこちらに向かって来た。覚悟を決めて、私は歩き出した。マグリットもまた、一緒に歩く。そして、兵士たちは私達の姿を見た途端に武器を向けてきた。


「私はこの国の王妃、エミリア・マリア・サンチェス。抵抗も、泣きも叫びもいたしませんわ。」


その言葉に、兵士たちは戸惑ったように見回している。


「拘束をするなら、しなさい。そして私を指揮官の元へ連れていきなさい。」


「ほぉ、王妃とだけあって勇敢だ。」


「皇子!」


私と歳の変わらなそうな男が出てきた。舐め回すようなその視線に気持ち悪さを感じた。


「はじめまして、お前の旦那は無様にも命乞いをしたぞ?噂に聞いていたが本当の屑だな?」


その言葉に返す言葉などなかった。表情を変えずにいたら彼は私の腕を掴んだ。遠慮なく強く握られた腕を、遠慮なく引っ張りそして外へと連れて行かれる。


そこに居たのは地に臥した王の姿。


「え、エミリア……。」


絶え絶えの声で私の名前を呼んだ。彼が私の名前を呼んだのは数えるほどだ。


「助けて、くれ……。」


呻くようなその声、私に手を伸ばす。その身体には多くの傷が、そして多くの血が。その懇願するような姿に笑いたくなった。


「神様は見ているのね。貴方に助けを求めた少女たちのことを思えば、いい気味ね。」


そう冷たく言い放った。思っていたよりもスッとはしなかった。私の言葉に真っ先に笑い出したのは私の腕を掴んだままの男だった。


「アハハハハハ!いいね、その言葉!自分の旦那にそこまで冷徹になれるのは。」


「どんな形にしても罰は受けるものよ。」


「何それ、俺に言っている?」


その瞬間、掴まれた腕は引かれ、そして男は顎を掴んでジッと見下げてくる。到底、女性を触るような手付きとは言い難い。


「貴方でなければ誰に?」


ニコリと笑いかける。その瞬間、男は愉快そうに笑う。


「いいね、そう言う気の強い女、嫌いじゃねぇな。」


その足先から頭の天辺まで舐め回すような視線。その視線に覚えがある。王が子供に向けていたあの視線だ。


「安心しな、俺が楽しんだら他にも分けてやるさ、そのお付添の女も一緒にな。」


男は楽しそうな表情のまま、腕を引いて、そしてあの部屋に来た。初夜の日、誰も来なかった私の寝室。力任せにその男はベッドに私を投げ込んだ。ドサッと大きな音を立てて私はベッドに沈みこむ。身体を起こせずにいれば、その男は上に乗り体重を掛けてきた。そして、首筋に舌が這わされる。


「皇子。」


突然響いた第三者の声。騎士らしきその男は私に乗っている皇子に声を掛けた。


「普通なら、少し楽しませてから呼びに来るもんじゃないか?」


「ここが占拠したばかりの場所でなければ私はそうしますが?」


「ちっ、わかった。」


皇子はこちらを見ることなく、そのまま部屋をあとにした。入れ替わるように乱暴にマグリットが部屋に投げ込まれた。


「ま、マグリット!!」


「王妃様。ご無事、のようですね……。」


震えてはいるが、彼女のドレスに乱れはない。同じよう彼女も私のドレスに乱れがないのに安心したようだった。ドアの外でガチャガチャっと鍵ではなく、鎖か何かで閉められたような音がした。


「どういうこと?」


「わかりません……。」


私の疑問にマグリットが答えられるはずなどない。ただ、窓から見える光景。兵士たちが慌ただしく動いている様子だけは見えた。


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