第2話 記憶の扉

蒼は未だに信じられなかった。

並ぶ本の背表紙には、確かに「誰かの名前」が刻まれていた。


「これ……人の、名前……?」

「そう。ここにあるのは“記憶の本”。人が忘れた想いや、未練が物語になっているの」


紗夜は手に一冊を抜き取った。

本の背表紙に刻まれた名前が光り、扉のように開いた。


蒼は息を呑み、光の中に踏み出した。


次の瞬間、蒼は古びた和室に立っていた。

畳の匂い。布団に横たわる中年の女性。

少女が泣きながら傍らに座る。


「おばあちゃん……!」


蒼は立ち尽くすしかなかった。


光が消え、蒼は図書館に戻った。

制服姿の少女——由香が立っていた。


「あの……もしかして」

「私は川合由香。亡くなったおばあちゃんが最後に何を言ったのか……思い出せなくて」


「記憶を取り戻せるかは、あなた次第」

紗夜が静かに言った。


蒼は戸惑いながらも頷いた。

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