第22話 ユナ将軍

 さっそく最低限の荷物を纏め、シオンと一緒にサキュバス騎士団本部を出た。

 シオンによれば第一騎士団の建物は、王城を挟んだ反対側なのだという。

 王族専用区域を通ってショートカットしましょう、などとのたまうシオンにチョップをくれつつ先を進む。


「それにしても急だよね。しかもシオンはともかく、なんでぼくも?」

「なに言ってるんですか師匠。メインは明らかに師匠ですよ?」

「はぇ?」

「わが国の軍上層部で、今一番ホットな話題は師匠なんですから」

「なんでさ!?」

「当然でしょう。──今までサキュバス以外は上級貴族でも門前払いされた騎士団に初入団した男性、しかも騎士団員の能力を次々と開花させた、御前試合での完全勝利の立役者。これで注目されないわけありませんよね?」

「どうしてみんな、ぼくのことに詳しいのさ!」

「そりゃあわたしが統合騎士本部会議で、常日頃から師匠のことを自慢しまくってますから」

「犯人はすぐ横にいた!?」


 そんなことを言い合いながら、第一騎士団本部に到着。

 筆頭騎士団の団長なんて屈強なオッサンか歴戦の老人に違いないというぼくの予想は完全に外れて、なんとシオンに勝るとも劣らない美少女だった。

 褐色の肌、耳元が尖っていて背は高め。ダークエルフだろう。

 腰まで伸びる銀髪にハイレグレオタード、胸元はスイカを二つ詰め込んだより張り詰めている。

 尖った耳さえなければ、サキュバスだと間違えたに違いない。


「第一騎士団長のユナだ。今回は要請に応えていただき嬉しく思う」

「こちらこそ」


 初対面のぼくとユナ将軍が、互いに自己紹介する。

 なんで団長じゃなくて将軍なのかというと、第一騎士団は騎士団の中で最上位なので階級だの権力だのが違うんだとか。詳しくはよく分からなかった。

 あとシオンと仲良しなのはともかくとして、王女のシオンを呼び捨てにしていたのは正直驚いた。

 いくら親しくても王女を呼び捨てというのは、よほど周囲にも認められている証拠だろう。

 ちなみにぼくもシオンのことは呼び捨てしてるけど、王女だからと様付けしようとしたらシオンに滅茶苦茶キレられたので仕方ないのだ。


 そのあと話を聞くと、ユナ将軍はダークエルフとサキュバスのハーフとのことで、年齢は秘密だが百歳は優に超えたとのこと。

 ぼくの横ではシオンがこそっと「この前、ついに年齢がバストサイズと同じになったって嘆いてましたよね……」とかなんとか呟いていたけど、聞かなかったことにした。

 あと気になったこととして、ぼくたちとユナ将軍の距離が妙に離れてるんだよね。

 初対面の人間が離す距離よりも、およそ二歩くらい遠い感じ。

 やはりぼくとシオンの関係は例外として、騎士団長は偉いのであまり近づいてはいけないのだろーか。

 そんなぼくの感想は、ユナ将軍によって否定された。


「ああ、それと最初に言っておくことがある。──わたしは男が苦手なんだ」

「はい?」


 そっちから呼んでおいて男嫌いとは大概だな、などと思っていると。


「申し訳ないとは自分でも思うんだが、幼い頃から身についたクセでな。よければ理由を聞いて欲しい」

「はあ」

「先ほども言ったように、わたしはハーフのダークエルフだ。そして今と違って、わたしが物心を付いた時代はダークエルフに対する風当たりは、そりゃ強いものだった。それに加えて、わたしはサキュバスの血も色濃く出ていたからな……」


 エルフだのダークエルフだのという種族は、美男美女ばかりで知られている。

 もっともサキュバスとは違って男もいるし、体型はスレンダーなことが多い。

 けれど幸か不幸か、ユナ将軍の体型にはサキュバスの特徴が完璧に具現化していた。

 しかも話によると、どうやら滅茶苦茶早熟だったらしく。

 子供の頃には既に、大人顔負けに発育しまくっていたのだという。


「そうなると必然的に、男から襲われまくった。自分で言うのもなんだが、わたしは滅茶苦茶美少女で胸も大きいうえ社会的立場も弱かったからな。それで得をしたことなんて一度もないが」

「それは……」

「というわけで、わたしは必死で鍛えて鍛えて鍛えまくった。──その努力の結果、わたしはこうして第一騎士団長にまで上り詰めたわけだが、副作用として男が近づくと反射で攻撃するクセがどうしても抜けないんだよ」

「とてもよく分かります」


 極限まで反射速度を磨いた結果、無差別に動くようになってしまうというのは正直、武人あるあるだと思う。

 ぼくも亜空間ではよく悩まされたものだ。

 あれってヘタすると、矯正するのに百年とか千年単位の時間が掛かるんだよね。


 そんな風に、ぼくが感慨にふけっていると。

 ユナ将軍は、なぜか衝撃を受けた様子で固まって。

 やがて小刻みに震え始めながら、そのまま静かに涙を流したのだった。


「──ちょ!? 将軍、いったいどうしたんですか!?」

「そうかっ……! 貴方は、貴方は分かってくれるのか……!」

「ええ? いやそりゃ分かりますよ、ぼくらみたいなタイプの人間あるあるですし。でもそれが──」

「わたしは今まで、星の数ほどこの話を繰り返してきたんだが、誰からも本心からの同意を得られなかった……! だからわたしは一生この感情を共有する相手は現れないと思っていたんだが、まさかこんなところで出会えるなんて……!!」

「……はあ」


 すわ何事かと思ったけれど、どうやら理解者を得たことの感動の涙らしい。

 そんな大した話じゃないんだけどなあ。

 武人として更なる高みを目指すとき、どうしても躓きがちな部分と言うことで。

 まあ一つ言えることは、この経験があるってことはぼくと同じで、本質的に才能よりも努力タイプということだろう。

 直感的に身体の動かし方を習得する天才タイプは、こういう躓き方はしない。


 ──そして、そんな天才タイプの代表例ともいえるシオンが、ぼくにキラキラとした目を向けて。


「さすがは師匠です! わたしは何度聞いても、全然わかりませんでしたから!」

「うん、シオンはそうだろうね……」

「わたしももっともっと修行して、いつか師匠のその感覚を手に入れてみせます!!」


 いやあ、手に入れない方がいいと思うけどなあ。

 そう思ったけれど、はらはらと涙を流し続けるユナ将軍の前では、さすがに言えなかった。


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