ふわりふわりと浮く幻に
こー
入学式
ㅤ4月7日 朝 家
ㅤ桜に囲まれている夢を見ていた。
ㅤそうだ、今日は学校に行く日だ。
ㅤ別に高校なんて行かなくても、なんて思うけど、妹も母もそういうのだから仕方ない。
ㅤ妹は私に比べてしっかりした子だ。勉強もできるし、運動だってできる。
ㅤそれに比べて私は、家に帰ったら死んだように寝るだけの毎日。
ㅤのらりくらりと躱してきたが、親に高校に行くならいいところに行きなさいと言われるもんだから、軽く勉強していい感じの場所に行った。
ㅤ特待生制度があるから費用も対してかからないために、文句を言われることもない。
ㅤさて、そろそろ起きようか。目を開けば、空時計が6時を示している。
ㅤもうこんなものもすっかり見慣れたものだ。部屋のドアを開けると、階段から黄色い煙が見える。今日の朝ごはんはトーストらしい。
「あ、お姉ちゃん起きてきた。おはよー。今日は入学式なんだから、しっかりしてよ?」
ㅤ階段を降りると、頭から歯車が飛び出ている妹が出迎えてくれた。
「おーおー、よしよし、いい子いい子」
「お姉ちゃんがいい子にならなきゃだめなの!」
ㅤ外に出ず肌が真っ白な私と比べ、ほんのり温かみのある人の肌を見るのは2週間ぶりだろうか。普段引きこもっている私にご飯を作り、持ってきてくれる優しい妹だ。
ㅤ今日は頭の歯車の調子がいいようで、ぎゅんぎゅんと回っている。ああ、実際にある訳じゃなくて、私に見えるだけの幻だけれど。
ㅤ窓の外を見ると、地面が砂だらけだ。今日は雨は降らないだろう。
ㅤけれど砂は滑りやすくて迷惑だ。少し不吉に思いながらも、外に出る支度をする。
ㅤ新品の制服は張り切っているようで、星の
「お姉ちゃん、傘もってってね。」
「今日は雨降らないよ」
「そうじゃなくて、日光が肌に悪いから。お姉ちゃんの肌が太陽光に触れたら大変なんだよ。」
ㅤ別に私の肌が黒焦げになって不味くなっても私は困らない。でも、我が可愛い妹がそういうのならきっと持っていった方がいいんだろうと思い、それを手に取った。
ㅤ家を出ると、靴がじゃり、と音を立てる。
ㅤ幸い風は吹いていないから、目に入る心配はなさそうだ。
ㅤあ、トビウオだ。そう思って横を見ると、トビウオの大群が床を跳ねている。
ㅤよく見るとその周辺にパンの欠片が落ちているみたいだ。とすると、あれが妹の言う「ハト」だろうか。
ㅤ最近、私の中で飛ぶもの=トビウオのイメージが強いからか、最近はトビウオばかり見える。以前私の世界で飛んでいたものがなんなのかは分からないし、トビウオが飛ぶのか、飛ぶからトビウオなのか分からなくなってきた。
ㅤまあ、そういう難しいことは全部妹が考えてくれるさ。それよりも学校に行かなきゃ。
ㅤそもそもなんで私が行かなきゃいけないんだ、別に夢の中で通ったっていいじゃないか。そんな文句を垂れる前に、私は足を前に運ぶ。
ㅤ久々に動くのは身体に堪えるが、家族は自業自得だといって車を貸してはくれない。いっその事、私が運転出来ればいいのだけど。
ㅤやっと学校につく。校門は、受験の時の厳つい雰囲気から全てを迎え入れんとする神父のような雰囲気に変わっていた。
ㅤピンク色の光が沢山落ちている。ちょっと眩しいのでやめて欲しい。
ㅤ道を見渡すと、様々な推定人間が居る。赤紫色のオーラを纏っているのもいれば、胸に穴が空いているのもいる。頭に卵がバランスよく乗っているのもいれば、大量の文字が頭の上から噴水のように飛び出しているのもいる
ㅤ全部全部見慣れた光景で、全くもって味気ない。そう思いながら入学式会場まで歩みを進めた。
ㅤ式にいる生徒たち、そして何名かの職員の頭の上からZの文字が浮かび上がっている。隣のはもっと滑稽で、夢の中の自分の姿まで晒している。
ㅤ入学生代表スピーチは荒唐無稽で夢見がちな内容だった。種から萌え出た芽を咲かせるなんて、大抵の人間はできていない。その芽を埋めて、粘土でそれらしいものを練り上げるだけだ。
ㅤあるいは芽も種も無く、何も考えていないような人間だっている。
ㅤそれでも拍手されるということは、きっと私以外はそうは思わないのだろう。そう思い、ホールを後にした。
ㅤクラスに行くと、私の番号は16番と書いてあった。
ㅤ20人しかいないらしく、教室は平原となっていて広く感じられた。
ㅤ緑の匂いがする。そよそよと吹く風が自然の呼吸を感じさせる。
ㅤどこまでも続く平原に、辺りを見渡していると、私のすぐ前に私より少し背の高い少女が立っていた。
「こんにちは!」
「...誰ですか」
「私、一時 雪菜っていうの!これからよろしくね!」
ㅤそう彼女が言った瞬間、突然辺りに雪が降り始めた。
ㅤ私にとって耐え難い時期が始まるのだろう、そう予感せざるを得ない。私は目の前に映る雪だらけの女をみてそう思った。
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