リスと陽だまりの窓辺
オカン🐷
第1話 もれなく付いてくる
「マリちゃん、何してるん?」
紀子が覗き込んだ。
「リスさんにご飯あげてるん」
「ハハハッ、可愛い、ようけ食べるんやで」
この家でリスなんか飼っていたか?
訝しく思った駿太郎は二人が窓から離れるのを待って近付いた。
そこには2匹のリスが向かい合ってアーモンドを食べていた。
ふ~ん、マリちゃんはこういう生活に憧れているのか。
着飾った海と紀子がバッグを持って出かけようとしていた。
「何だ、おまえたち今日は休みと違うんかい。どっか行くんか?」
と言う駿太郎の背中を押して玄関に向かった。
「マリちゃん、僕の朝飯は?」
「お隣のお家に帰ってママのご飯をゆっくりと召し上がれ。うちらはクロキでモーニングやねん」
「僕も連れてってくれや」
「やったら家庭教師のバイトでもして生産性のあることしたらどない。医大卒なんやからバイトの口は引く手数多やろ。人にたかるばかりでなく」
「うん」
「これっ、こんな所でシュンってうなだれていないで」
「うまい」
「おおきに、って嬉しゆうない」
駿太郎を玄関先から押し出すとキーをロックした。
「ハーバード大卒の先生が来てはるかもしれんから急がな」
「そんな先生とどこで知り合うたん?」
「ヘヘヘッ、それはヒ・ミ・ツ」
海は血色のいい唇に人差し指を当てた。
「何か腹立つけどマリちゃんが言うと可愛いな。ヒ・ミ・ツやて」
駿太郎は自分の唇に人差し指を立てた。
「ドラたん」
ベッドの上で寝返りをうった海はいつも左側に寝かせている縫いぐるみを抱き締めた。
あれっ、いつものモフモフ感があらへん。それにこんなにゴツゴツしてたっけ。
「おはよう、マリちゃん」
「何でここで寝てるんよ。しかもしれっと挨拶して。ちょっとドラたんはどこ?」
「おお、これか?」
ベッド脇の床に転がるモスグリーンのドラゴンの縫いぐるみを引っ張り上げた。
「ちょっと何してくれてんねん」
「痛っ」
ゲホッ。
蹴り落とされた駿太郎は慌ててトイレに駆け込んだ。
「ひどいねえ、ドラたん、お仕置きはしといたからね」
ベッドメイキングしてドラたんを定位置に寝かしつけた。
トイレの水音をさせながら出て来た駿太郎。
「ひどいのはマリちゃんだろう。みぞおちを蹴らんかて」
胃の辺りをオーバーに撫でている。
「人のベッドに入り込むのは悪くないん?」
「そやから家の鍵を忘れたって言うてるやろ」
「鍵なら玄関の棚に……」
夕べと同じ不毛な会話が繰り返された。
夜中に人を叩き起こしておいて、悪びれた様子さえない。
紀子と駿太郎の叔母であるクッキングスクールの学長の空き家に住まわせてもらっているから苦情も言いにくい。
「マリちゃんのことが好きやねんて。あの子の面倒もよろしくね」
と言われてしまい海は駿太郎を溺愛する雇用主に何も言い出せずにいた。
駿太郎の面倒までみんとあかんのかって思っていたら、駿太郎がある日忽然と姿を消した。
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