⑧ 〇・一パーセント以下の成功率
「ほとんど正解だよ。君、推理力あるね。その想像力は凄いよ。こっちに来ない?」
「え、いや、お断りします・・・・・・」
珍しく感心してしまった。同時に目の前にいる符抜けた顔をしている刑事、自分の親友と同じ姿をした警察官に悪寒を感じた。
本当はこんな子は誘いたくない。怖い、怖すぎた。
何故、何も知らないのに全て、予測がつく?
「ま、いいや。この話はまた今度ね」
表向きだけ、いい顔をして話を続ける。
「今は宇紘くんの答えと僕が言えない理由の話を続けよう」
「・・・・・・」
「まあ、基本的には宇紘くんが言った通りのことに僕が君達に情報を流したらなるだろうね。九十九・七パーセントの確率で。となると僕は死にたくないから言えないんだなあ、これが」
二人は僕にまさか、とでも言いたげな視線を向けた。僕が死にたくないと言ったことがよほどビックリしたらしい。
「僕は真実も正義も大好きだよ、大好物だ。だけど、それよりも結局は自分の命の方が大切な人間なんだよ、
こうして言葉に出してみると意外と僕も人間だね。死にたくないなんて。
「ああ、内務局で働いてるからといって、この国のために命を賭すことはあっても議員や官僚、大臣のために命は賭すことはないよ。あんな奴らに命を預けようなんて思いたくもないね。
それこそ、反吐が出るほど嫌だよ。それなら死んだ方がマシかもね。実際問題、内務局自体が皆、そんなこと考えていたりするかもしれないね。実際、僕がそうだし。まあ、分かんないけど」
僕は死にたくないし、死なれたくない。きっと内務局に勤めている人の大半は同じことを思っているはずだ。
「んで、僕は内務局で数年働いてきた。そんなにもグレーゾーンにいるんだから、君達が何をしようかなんてお見通し。だから宇紘くんに会ったとき、宇紘くんが僕の名前を蓮也がいつも呼ぶときのように呼んだから、それに反応したんだ」
まあ、癖で反応してしまったのもあるんだけど。
「そうして、君達がしようとしていることが如何に困難なことかを教えようと思っていた」
死なれたくないんだよ、君達に。
「だって、僕は国政の中枢に近いところにいるんだよ。そこがどれだけ危険な場所か、君達が行こうとしている場所がどれだけ得体の知れない場所か、知らせようと思った。来てしまったらもう二度と戻れないからさ。戻ろうとしたら、消されるから」
事実、彼らも消された。
僕は昔から自分の命が大事だった。常に自分の命が一番だ。
でも、彼らに会ったときから、あの二人の方が大事になっていってあの人達の子どもはあの人達が消えた今、何よりも大切で大事なものだ。勿論、自分の命も三番目に大切。
でも、一番は彼らの命。
「海里」
「ん? 何、蓮也」
視線を蓮也がいる方へと動かす。
「如何して、九十九・七パーセントの確率なんだ?」
「はい?」
僕が真剣な話をしている最中、突如、蓮也はそう言った。くそ真面目な顔をして僕をその目は見ていた。
・・・・・・ふざけるな。今、その眼をするな。
そして今、それを聞くか。
ふっと何処か気が抜けた。呆れてしまった。
それは聞くのはもっと後でもいいじゃんか。今である必要がある? 何で今、なの?
「・・・・・・まあ、言ってしまえば、宇紘くんが予測した可能性の他にあと三通りくらい可能性はあるってことかな」
これは嘘ではない。嘘ではないが、言わないことがあるだけ。
「それなら!」
蓮也は希望が見えたような顔をする。純粋なやつ。そこは昔と変わらない。
裏がばりばりあるのに気付け。それでも公安か。
宇紘くんの方を見れば、彼は怪訝そうな目つきで僕を見ていた。今までの僕の発言からして嫌な予感を察知したよう。
「君の耳は飾り物かな、蓮也」
冷たい言葉に蓮也が目を見開く。
本当はこんなこと言いたくないけど。
「九十九・七パーセントは死ぬんだ。そして〇・三パーセントの確率の三通りということは、一つ何パーセントだよ」
「〇・一パーセント?」
ほら、みた。すぐに絶望的な顔になる。ここまで表情がコロコロ変わるとちょっと面白い。
僕は〇・一パーセントでも何でもやるよ。やってみせるよ。それがやらなくてはいけないことだとしたら。やると決めたことは絶対に成し遂げる。
「その通り」
流石に計算くらいはできるか。小学生でもできる計算だものね。
「ま、一つは成功率と発生率が〇・一パーセント以下でその分、他一つが〇・一何とかパーセントになるだけなんだけど」
〇・一パーセント以下の成功率と発生率の可能性は上手くいっても、奇蹟にも等しい確率のものだから、ほとんど成功しない。幸運EXくらいの豪運ですら、出会えないし、成し遂げられない。もしかしたら、何もかもが完璧でこの世界の中で五本の指に入るくらいの天才ならば、成功するかもしれないけれど。
『あの人』達は奇しくも、その可能性には出会えなかった。
だから・・・・・・。
「お前の予想でいいんだ」
お前の予想でいいんだ、か。
こんな状況でも僕のことを信じてくれるのか。
真っ直ぐな言葉に困り顔をしてしまう。言われる側はこんなに小っ恥ずかしいんだなと思ってしまった。
「俺達がお前の予想していることをしたら俺達はどうなる」
どうなる、か。
「いや、言い方を変えよう。俺達はどの事象に出会えることができる?」
僕は彼の言葉に考え込む。間違えないように確実な僕の予測を彼らに伝えられるように。
彼らは国政内部のことに首を突っ込もうとしている。国家の根底に関わる部分を確実に揺らがそうとしている。本人にその気がなくても確実にそうなることが分かるのだ、この場合。
そのために僕に協力を仰ごうとして僕と蓮也の地元に彼と外側はそっくりな宇紘くんを僕に仕向けてきた。
「どの事象ってねえ・・・・・・」
だが、奇しくもその作戦は内務局勤務の僕には効き目がなかった。それどころか、彼ら自身はそれが目的とははっきり認めてはいないが、彼らの思惑であろうことも僕は本人達の目の前で言い当ててしまった。
プラス、僕は宇紘くんにもしも、正義感だけで動いて真実を見つけ、共に国家の存亡に関わることを見てしまった場合に何が起るのかを予測させた。
「面倒なことに首を突っ込んで・・・・・・」
そこまでしたら彼らは何をこれからするのか。
彼らはこれからどのように動くのか。
僕の警告をどう受け取るのか。
僕に対してどんなことをするのか。
僕のこれ以上関わったら死ぬかもしれないという警告をどう受け取ったか。
「・・・・・・まったく仕方のない親友だねぇ」
そんなの簡単だ。一瞬でそんなものは分かる。
彼らはそれでも正義を信じ、真実を貫き、仲間を信じて、誰も裏切らず、それでも真実を見つけようとするのだ。
そうでなければ、蓮也は僕にこんな質問を問いかけては来ない。
「・・・・・・君も欲張りだねえ、蓮也」
いくら断っても断っても、彼らはしつこく僕に協力を要請してくるはず。いくら言わないことがあっても僕が嘘をついていても、きっと彼らは僕を信じているだろう。
心苦しいことだけれども、そうなることが予想できた。
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