④再会
[まったく、とんでもない奴だな、お前って男は]
目の前にいる青年のポケットからその声は聞こえた。
聞き覚えのある、目の前にいる青年とほぼ同じ声質で不機嫌そうで面倒なことになったことを悟った声。もう隠しきれないと覚悟を決めたらしい。
テーブルに肘を付いて言い返す。
「そっちこそ、とんでもないことをやらかしてくれたよ」
青年は僕と蓮也のらしい声(多分確実に蓮也だが)のやりとりから察してくれたのか、ポケットから少し動揺しながらも自身のらしいスマホを取り出すと机の上に置いた。
「君、そのスマホからワイヤレスイヤホンで彼に色々返答とかの言葉を伝えてたんだ」
[まあ、な]
「・・・・・・僕らの周りにいる数十人いる彼らも同じなのかな?」
一瞬の逡巡の後、そう尋ねる。
[・・・・・・その通りだよ、糞野郎。何でもかんでも分かってやがって]
あちらも一瞬の逡巡の後、悔しそうな声でポツリと呟いた。
こちとら内務局で仕事してんだよ。それくらい分からなくてどうすんだ。
「それで君は今、何してるのさ」
[それを聞くか]
嫌そうな声が聞こえてくる。
こっちも嫌だよ。
「聞くともさ。どうしてこんなことを僕に対してするのさ」
僕がそう言うと、前にいる青年と蓮也のらしい声は一瞬、言葉に詰まった。二人が言葉に詰まった瞬間、周りから殺気が幾つも飛んできたことは割愛しておく。
いや、まず、警察官が一般人に殺気をそんなあからさまに飛ばすなっていう話なんだけど。まあ、僕が一般人じゃないから許される話だけど。
[・・・・・・言うしかねえかぁ]
懐かしそうに面白そうに声は言う。
「れ、蓮也さん!? 何言って?!」
「警察庁警備局警備企画課、通称公安所属、
「ふ~ん。そうか、君が警部補か。それもハム所属の警部補の北原朱琉、ね。中々珍しいもんになったねえ、そっちも」
どこからともなく姿を現した蓮也。その姿は最後に会ったときとあまり、変わっていなかった。昔と大して変わらない姿に苦笑いを浮かべる。変わったと言えば、身長が伸びていたことくらい。
「そうだ、驚いただろう。警部補だぞ。この歳で大出世だとは思わないか」
「うん、ネーミングセンスがないことの方にだけどね」
本っ当にネーミングセンスないよね。北原朱琉って。
本名で働いている僕が言うのもあれだけど。
「は?」
蓮也はきっと僕が自分の地位に驚くと予想してドヤ顔で登場してきた。だが、僕の素っ気ない予想していたこととは違う返しに間の抜けたような声でそう反射的に返事をした。
確かに二十代のノンキャリでハム配属で警部補に昇進しているのは出世組とか、色々、吹っ飛ばしてるから凄いと思うんだ。けれど、僕の内務局での立場も君の警察内での立場と比べたら大概じゃなくなるからなぁ。そんなに驚けないんだよなぁ。
僕の立場を君が聞いたら君が望むような反応を君自身がすると思うけど。
「いや、北原って苗字は君が好きな北原白秋から取った苗字だろうし、朱琉は
「え、」
えって何だよ。えっ、て。
「琉生は君の弟の名前だから別にいいんだけど、朱里は僕の妹の名前なんだけど。知ってる人から名前借りるとかないんだけど」
蓮也は僕の言葉に無言。
「・・・・・・何。何か言ってごらんよ」
まさかそこまで予測がついていたなんてな、と小さな声で無言の後に呟く。
いや、その名前聞いたら誰でも関係者なら気付くだろ。まあ、関係者じゃなかったら気付かないだろうけど。
「完敗完敗。やっぱお前凄いな」
蓮也の面白そうに何かを考えているときの声が聞こえる。
「どうも」
僕は素っ気なくそう返した。こんな時に唯一とも言える友人に褒められても大して嬉しくない。
「流石、俺の元相棒だな、海里」
低くて聞いただけで圧があるようにも思える声。冷たいようにも思えるが嬉しそうなことが隠し切れていない声。そして確実なのは、僕を疑っている声色だ。
「久し振りだな、海里」
「・・・・・・そっちこそ、蓮也」
人の悪い笑みと面倒臭そうな顔、その二つの視線が互に相手の視線と交わる。
さぁ、
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