ショック受けてるの、誰よりも私なんだからね!!!!!!!!!!!

 翌週。私は、いつもどおり死んだ魚のような目で、幹部会議に出席していた。

 議題?

 聞かなくてもわかるわよ。



「新魔法少女たちが強すぎる問題」



 ――いや、問題って言い方どうなの!?



 まるで「うちが被害者」みたいじゃない!?


 ……まぁ、実際けっこうな被害出てるけども!!!


 技術班トップのクルツが、無表情で資料をめくりながら言った。



「現状、ECSの魔法武器は、魔力伝達効率で1.5倍程度の出力強化に留まっています。それに対して、魔法少女たちの武器は――」


「3倍近くあるって言うのよね!!!!!?」


 私は思わず立ち上がって叫んだ。

 だって、地味に傷つくのよ!?!?!?

 こっちは血の滲むような努力で1.5倍なのに!?!?!?

 あっちはキラキラ笑顔でぴょーんって飛んでドーン!!って勝ってるのよ!?!?!


 ゼーベインが腕を組んで溜息をつく。


「それよりもヤバいのは……アイツら、昨日より明らかに強くなってるってとこだ……成長速度、バグってるってレベルじゃないぞ。何なんだ、あの二人」


 イングリットも眉間に皺を寄せて頷く。


「ねえ、それってさ、もしかして……一晩寝たらレベルアップするタイプの主人公じゃない?」


「やめて!? それめちゃくちゃ嫌なパターンじゃない!?!?!?!?」


 私は会議机に突っ伏しながらわめいた。


 だって、そうでしょう!?

 こっちは汗と涙と魔力と(あと技術班の命を)削って、ようやく1段階進化したのよ!?

 それを一晩でポンと超えられたら、もはや努力とは!?ってなるじゃない!!!


「……しかし、どうします? 技術差が埋まらない限り、戦うたびに負け続けることになりますが」


 ヴェルトがぼそっと言ったその言葉に、場が静まりかえる。


 ……ええ、わかってるわよ。

 一番わかってるのは、私なのよ!!!!!!!!!!!

 だって、だって――。


「……昨日より強くなってるとか……どんな物語世界のチート主人公よぉ……」


 私は泣きそうになりながら、ジュース入りのワイングラスを口に運んだ。

 くっ……くやしい……でも憎めない!!!

 でも、これだけは言わせて。


「ショック受けてるの、誰よりも私なんだからね!!!!!!!!!!!」(机バン)


 幹部たちは、私の叫びに一瞬だけ沈黙したあと――。


「……まぁ、ボスがそう言うなら、きっと何か対策はあるんでしょう」


「……ああ、ボスなら、また変な天才ムーブで突破するかもしれん」


「頼みましたよ、煉久紫アーカーシャ様」



 ……うん。

 言ってやろうじゃないの。


「やってやろうじゃないの!!!!!! 次こそ勝つために、さらなる強化プラン始動よ!!!!!!」


「で、どうするんだ?」


 ゼーベインが腕を組み、じとっとした目で私を見つめる。

 よし、来たわね。この“次の一手どうする感”満載の空気。

 私はふふんと微笑んで、脚を組み直しながら椅子の背にもたれかかった。

 優雅に。冷静に。そして、堂々と宣言する。


「決まってるじゃない。また、聖霊界にスパイしに行くわよ!」


 ……会議室が、止まった。


「……え、今、スパイって言った?」


 クルツがピタリと手を止め、ドン引き顔でこっちを見る。


「いやいやいや、参考にしに行くって言い直しなさいよ。響きが違うの、響きが!」


「でも中身は完全にスパ――」


「言葉の響きが!! 大事なのよ!!!」


「……ボス、また堂々と潜り込む気なんですね」


 クルツは遠い目をした。ごめん、でもそういうことなの。

 だって、こっちがようやく1.5倍まで仕上げたのに、あの銀髪と赤髪のチートペア、あっさりその上を行ってるんですけど!?!?!


 こっちが汗と涙と人員の命を削って1.5倍強化したのに!!

 そしたらもう、次の情報取りに行くしかないでしょ!!!

 私は机に肘をついて、わざとらしくしっとりした声で幹部たちを見渡す。


「ただし、それだけじゃ不十分ね」


「また何か増やす気か……」とゼーベインが呟く。


「幹部と戦闘員の精鋭は、私の技術を習得しなさい」


「ボスの技術……?」


「ええ。疑似未来予知と、多重並列演算処理よ」



 ド ン 引 き。



 会議室に響く沈黙。おい誰か空気にエフェクトかけた?


「ま、マジかよ……」


 ゼーベインが肩を竦めて苦笑する。


「まぁ、それを身に着けて、ちったぁ差が縮まればいいんだがな」


 イングリットは無邪気な顔で言う。


「……その頃にはまた、あの二人がもっととんでもない能力を身に着けてそうだけどね」


 おい、やめろ。

 その未来予測みたいなこと言うのやめろ。


 ――あーあー聞こえない聞こえない!!!!


 そんなこと、あってたまるかーーーーーー!!!!!!!!

 私は内心で絶叫しながら、手元のスケジュールに「再潜入計画」の文字をこっそり書き加えたのだった。


「まぁ、武器の改良も必要ですが……技術班は今の戦力強化の方にリソースを割くべきでしょうか」


 ヴェルトがいつものように顎に手を当てて、賢そうな顔で言ってくる。

 ……まぁ、参謀だもんね。


「いえ、武器の改良は一時中止よ」


「……は?」


 クルツが不審そうに眉をしかめた。ふふん、来たわね、この反応。


「代わりに“あれ”を仕上げなさい」


「あれ……?」


「そう、“あれ”。ほら、私に隠れて作ってた“ARMS”。」



 ――ピタ。



 技術班の動きが止まる。ざわつく空気。


「な、なぜそれを……」


「ふふ、私を誰だと思ってるの? 天才よ?」


 会議室が沈黙した。完璧な演出。私、天才。三回目。

 ゼーベインが小さくつぶやく。「天才の定義、また変わったな……」

 さて、問題はここからよ。


「……しかし、魔法少女のデータがまだ足りません」


 技術班トップ、クルツが弱々しく言った。

 はい、出ました。いつもの「足りません」芸。


「そりゃそうでしょうね。新魔法少女たちは、こっちが戦う前にチートみたいな勢いで強くなってるもの。まともに戦闘データ取れるわけないじゃない?」


「そうなんですよ!! だから今のままでは――」


「なら、私のデータを取らせてあげるわ」


「……は?」


 クルツが完全にフリーズした。いいわね、その顔。最高のリアクション。


「私は元・魔法少女。近いサンプルにはなるでしょ?」


「でもボスのデータって、すでに何回か取ってますけど……」


「“本気の私”のデータは?」


「…………あの」


「ねぇ、取ったことある?」


「……いえ……」


「じゃあ、決まりね」


 私はドヤ顔でバンと机を叩いた。


「さあ、今すぐ準備しなさい! 本気の私を見せてあげるわ!」


 クルツの目に涙が浮かぶのが見えた。


「……生き延びられますかね?」


「まぁ、ほどほどに抑えるわよ?」



 ――こうして私は、ボロボロの技術班を引き連れて、“灯の本気の戦闘データ”を撮影するための地獄の訓練へと突入するのであった。


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