こっちは泥臭く積み上げてでも勝つんだから!!!

 響いていたのは、私の絶叫だった。


「あああああああああ!!!!!! ちょ、なんで逃げてるのよイングリットぉぉぉぉぉ!!!!」


 思わず立ち上がって叫んだ私に、技術班の数人がビクッと肩をすくめる。大丈夫、怒ってるわけじゃないの。取り乱してるだけよ。


 だって。


 だって。


 モニターに映っていたのは、私のECSの誇る最強の武闘派幹部――イングリットが逃げてる姿だったのだから。

 画面越しに何度も瞬きする。

 私は機械に詳しくないけど、あまりの光景に思わずバグを疑ってしまったわ。


 だって、イングリットよ?

 あの闇の斧をぶん回して、ビルを一撃で粉砕する、あの“暴斧”の異名を持つ彼女よ?

 私の数少ない幹部の中でも、信頼度MAX、暴力係(物理)筆頭。

 そんな彼女が――くるくる避けてる。飛び跳ねてる。焦ってる。完全に逃げてる。


「なにこれ!?!? イングリットが……イングリットが“被害者”側になってるんだけど!?」


 私は必死に心の中で現実を否定し続けた。

 ……だって、イングリットが逃げるってことは、つまり“それ以上のヤバさ”に出くわしてるってことじゃない。

 モニターの映像が、さらに切り替わる。


 そこには――にっこにこで剣を振り回す、銀髪の魔法少女。


「やっぱり戦うの楽しいよね!」


 天真爛漫に、爽やかに、地獄のような笑顔でそう言ってた。


 たのしいよね、じゃないのよ!!!

 なに? この子、何? どんな育ち方したらそんな楽しそうに“元侵略者幹部を追い回す”ことになるのよ!?

 というか、私の中で戦闘ってもっとこう……威厳とか殺気とか宿すものじゃなかったの!?

 なのにあの子、文化祭のチュロスくらいのノリでイングリット追ってるんですけど!?!??!?!


 私はモニターの前で膝から崩れ落ちた。


「…………うそでしょ。なんなのよこの新魔法少女たち……!!」


 その動きには、一切の迷いがなかった。

 イングリットの攻撃を見てからかわす――?


 違うわよ!?!?

 あの銀髪魔法少女、見てから避けてない。避け終わってから攻撃が来てるの!!


「……待って待って待って、ちょっと一時停止していい!?!?」


 私はモニターの前で慌てふためいた。映像は止まってくれない。現実って非情ね。

 だって――あれ、見覚えあるのよ。

 あの動き、完全に私の“魔力予測読み取り戦術”じゃない!?!?!?!?!?

 私が3年かけて魔力の流れを研究して、膨大な実戦経験と修行を経て、ようやく体得した唯一無二の神技!!


 それを!!! 本能で!!!! 使ってる!!!!!! なにそれはぁ!?!?!?!?


 ちょ、待って、何よあの子!!

 天才? いや、超天才?? いや、もはやバグ!!!


 私は思わず立ち上がって椅子を蹴飛ばしかけた。クルツが後ろからそっと椅子を押さえてくれた。ありがと、クルツ。でも今はそういうのいいから!


「これ……私の技術だったのよ……。3年かけて……私が作った……!!!」


 もう戦場を直視できない。

 でも映像は無慈悲に次のカットへ。


 ――赤髪の魔法少女が、静かに呟く。


「魔法演算の精度をさらに高めたわ」


 その瞬間、私は悟った。


「やめてええええええええ!!!!!」


(※心の声です)


 彼女の周囲に展開される、複数の魔法陣。

 詠唱はない。詠唱どころか息すら吸ってないんじゃない!?ってレベルの速度。

 一瞬、ただの空間だった場所が、魔法の演算式で埋め尽くされる。

 しかもそのすべてが、完璧に整ってる。


 どゆこと!?!?!?!?!?!?


 私、ちゃんと覚えてる。

 並列魔法演算処理。

 それは、私が3年かけて構築した夢の魔法技術。

 本来、魔法ってのは一つずつしか処理できないものなのよ?

 だってそれが魔法の原理ってやつで――それを“同時に複数処理”とか、ふざけんなよって話!!!!!


 でも、やってる。

 彼女は、やってるの。個人の努力で。

 天才とかいうレベルじゃない。これ、宇宙の法則を殴ってる。


「……っ!!!!!」


 私は、震える手で机の角を掴んだ。

 体が、冷える。耳鳴りが止まらない。

 私が血の滲む努力と涙で築いた“革新”が――数週間で、抜かれた。


 数週間。


 “彼女たちの数週間”が、“私の3年”を超えたのよ!?!?!?


 いやいやいやいや。

 ありえないでしょおおおおおおおおおおお!!!!!!!


 こんなのおかしい。

 私、天才で、最強で、誰よりも努力してて。


 ……なのに。


 何この絶望的な格差社会。誰がバグ持ちプレイヤーを許したの。

 いや、私が許すまい!!!!!!!!!!!!


「……いや、待って」


 喉がカラカラに乾くのを感じながら、ごくりと唾を飲み込んだ。


「まさか……私って、天才じゃなかったの……?」


 その言葉を、自分の口で言った瞬間――背筋に、ゾッとする冷気が走った。

 寒い。物理的じゃなくて精神的に。

 脳内に警報が鳴る。

「その発言は危険です!あなたのアイデンティティが崩壊します!!」って。


 だって、私は天才なんだよ!?

 誰が何と言おうと、世界がそう定義すべき存在なのに――。

 今、私はそれを自分で疑ってしまった。


 3年。

 私が血の滲むような努力で積み上げた技術。

 魔力の流れを読み、予測し、演算して、重ねて重ねて重ねて――ようやくたどり着いた高度技術たち。


 そのすべてが。

 たったの数週間で。

 たったの、数週間で。

 抜かれた。超えられた。塗り替えられた。


「………………」


 認めたくない。認められるわけがない。

 私は夜城 灯。かつて魔法少女として世界を救い、歴史に名を残した存在。

 その後は悪の組織のボス、煉久紫アーカーシャになってもっと特別になろうとして。

 天才で、カリスマで、無敵で――最強であるはずの、この私が。


「……そんな、わけ、ないじゃない」


 自分の声が、震えていた。

 いつもなら堂々と響くはずのこの声が、今はあまりにも頼りない。

 心が、ぐらぐらと揺れている。


「お前、本当は天才なんかじゃないんじゃない?」


 そんな囁きが、頭の奥から聞こえてくる。



 と、そのとき。


「……いや、ボス、強くなることはECSにも言えることでは?」


「…………え?」


 ヴェルトの何気ない一言に、私の思考がピタリと止まる。


「魔法少女たちが確かに強くなってるのは事実ですけど、ECSの戦闘員たちも日々成長してるじゃないですか。ボスの指導のもとで」


「………………え?」


 私は彼の顔をまじまじと見た。

 嘘でしょ。

 今それ言う?

 ていうか、そんな……冷静で正論みたいなセリフをこんなタイミングで言ってくる!?


 でも――言われてみれば、確かに。


 うちの戦闘員たち、今や実践訓練もこなせるようになってるし、魔力量の制御も格段に良くなってきたし、最近じゃ技術班ともちゃんと連携してるし――全部、私が鍛えたからじゃん!?!?


「……私」


 私はすっくと立ち上がり、胸に手を当てた。


「そうよ。私の指導が完璧だから、ECSもどんどん強くなってるのよ!!」


 自分で言ってて思うけど、これすごく正しいことじゃない!?

 幹部たちが、横目で「はいはい出た出た」と言わんばかりの顔で頷いてるけど、いいのよ、そういう“お約束の目”!


「ふふっ……そうよね……!」


 私は天才。私が教えれば、誰だって強くなれる。

 そう、魔法少女たちが“バグ”なら、こっちは“育成”で対抗するのよ!

 才能? 生まれ? そんなの知ったことか!

 こっちは泥臭く積み上げてでも勝つんだから!!!



「チート相手に、負けてられるかああああああああ!!!!!」

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