▶PLAY『くらげのできるまで』Ⅲ

 舞台は夜の宿に移る。ゲームコーナーでは参加者の男女がクイズゲームで盛り上がっていた。

「ほら! 『スーパーウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐』じゃん! 正解っ!」

「おおっ、勘が冴えてるな、真柴ましばさん」

「わたし、間違ってばっかでスミマセンね」

「いや、えーと……そちらも流石です。全問不正解、なかなかできることじゃない」

「殴るよ?」

 そこにカントクが声をかけた。

「ちょっといいかな? きみだ、きみ」

「おれ? ナイスタイミング!」

 呼ばれた一人が胸をなで下ろしながら立ちあがる。「こら、逃げんな」言い合っていた女子が追い、他の者もついてくる。

 ロビーのソファに移ると、皆が見守る中でカントクが一人の男子にカメラを向けた。

「で、きみは何を捨てる?」

「なんだよその喋り方……似合わねえな。おれが捨てるのはこのチケットだ」

「なんのチケット?」

「兄貴のだよ。バンドの」

「へえ。バンド名は?」

「は? スットコ&ドッコイズだけど」

「……若いねえ」

「何か文句が?」

「あ、いや。お兄さんは何してんの? 仲はいいのかな?」

「仙台の大学に行ってるよ。仲はどうだろ。いまはいいと思うよ。会えばフツーに。でも兄貴が家にいた頃はなあ……ウチの王子様だったから、おれはいいようにこき使われたな」

「家族のヒエラルキーとか、いいね。リアリティあるよ!」

「どこのご家庭にでもあるだろ。家族の中心にいる奴とそうじゃない奴って、外での振る舞いも違うよな。おれが何かと部外者っぽい場所に立ちがちなのって、そのせいだと思う」

「へりくだらないで! きみにだって中心で輝ける場所があるって!」

「おまえ、ふざけてるだろ。やり直さなくていいのコレ?」

「もう何回もやり直したからいいんだよ。まともにやらないと何回でもループするからな」

「そんな世界設定なんだ」

「だから話を戻そう。その兄貴のバンドは解散しちゃったの?」

「そ。解散したときにフライヤーとかステッカーとか全部捨てたみたいだから、兄貴のバンド関係のモノで残ってるのはレアかも」

「いいの? そんなの捨てて」

「だって見ろよ。クシャクシャじゃん。しかも思い出とかないし。たまたま残ってたんだ。……いや、ずっと机の引き出しに入ってるのを見て見ぬフリしてたわ。でもいい機会だし捨てるよ。兄貴、元気かな」

「それはきみの『疎外感』の塊なんだな。じゃあ、そいつをこの箱に入れてくれ。それできみは名前を思い出す」

「おう。あー、思い出した。おれは三輪みわ貢也みつなりだ」

「よし! じゃあ次は、スットコ兄さんへの愛情をラップで表現してくれ! このキャップを被って、さあ」

「ドッコイの方なんだけどな……ええと、YO! アラララァ、アァ——って、やんねえよそんなの」

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