人類滅亡の予言を信じていない俺、幼馴染に告白される
みつぎ
1.予言の日 一週間前
今年の11月11日、人類は滅亡するらしい。
どこかの国の有名な占い師が、何年か前にそんな予言を自著に記したらしく......まさに今年が、その予言の年らしい。
日本では今年に入って、オカルト系のインフルエンサーたちがこぞってその話題を取り上げ、SNSで大拡散された。
隕石衝突説、新型ウイルス説、太陽爆発説など巷では様々な噂が流れ、予言の日が近づくにつれ、いよいよワイドショーでも取り上げられるようになり……。
まあ要するに、よくある話だ。
「やばっ。そういえばあと一週間で、人類滅亡じゃん」
「勘弁してくれ、
ある日、たまたまタイミングが合ったため、幼馴染の花音と一緒に下校することになった。一緒に帰るなんて随分久しぶりだというのに、実につまらない話題を花音は挙げた。
「高校生にもなって、そんなの信じてんのかよ」
「べ、別に信じてないもん。ただ
「そりゃ悪かったな、気を遣わせて」
少し会わない間に、変な誤魔化し方を覚えやがって。
「ていうかこんなのもう、何回目だよ。ついこの前も、日本のどこかで大災難が……とかあったし、確か俺らが生まれる前も、似たようなことあったんだろ?」
「『恐怖の大王』でしょ? 私もパパから聞いたことあるよ。でもあの時何もなかったからって、今回もないとは言い切れなくない?」
「……やっぱ信じてるじゃん」
「信じてないってば!」
昔から花音は、オカルトとか都市伝説の類を信じやすい傾向にある。流石に高校生になって半年近く経つわけだし、そういうのは卒業してるものだと思ってたが……。
「とにかくもううんざりなんだよ、この手の話題は」
「良介は昔から、占いとかも全然信じないタイプだもんねー」
「お前は信じすぎな」
「じゃあ話、変わるけど」
「おう」
「もし人類滅亡の日がきたら、良介は最期になにが食べたい?」
「変わってないな」
「変えたよ! これは別に、予言とか関係なくて、単純に興味あるだけだから。よくあるテーマでしょ?」
それにしても今どきの高校生が、予言も関係なしに興味持つようなことか? よっぽど話題に困っているであろうことが伺える。
「いいから、答えてみてよ。あ、ここでふざけるのは寒いからね」
「えー……」
まあ、ふざけるまでもない話題なので、逆にちゃんと考えてみる。
「こういうのって、なんでもいいのか? 例えば高校生じゃ手が届かない、高級料理とかでも」
「別にいいんじゃない。死ぬ前くらい、誰かからお金借りてでも食べにいけば?」
「これから滅亡するかもって時に、誰かに金を貸すやつも、料理作るやつもいなそうだけど」
「そんな細かいこと考えなくていいから!」
「なるほど、細かいことは考えなくていいのか」
だとしたら俺の中で、答えは決まっていた。
「彼女の手料理かな」
せっかく俺が答えてやったというのに、花音は何も言わず、その場で立ち止まった。
「……おい、どうした」
「……良介、彼女なんかいたの?」
花音は見たことがないくらい、驚いた顔をしていた。予想外の反応だったので、少し楽しくなってしまった。ちょっと泳がせてみることにする。
「あれ。言ってなかったっけ?」
「……聞いてないけど」
「そっかー。つい一ヶ月前なんだけどな、できた」
「へー……。聞いてないけど」
「いや、そもそもお前に報告する義務ってあるか? ただの、幼馴染だろ?」
「そうだね、ないかも……。ただの、幼馴染だし」
「だよなあ」
「……うん。でもね、言ってほしかったな」
花音は少し寂しそうな顔をして、言った。
「良介は、家族みたいなものだと思ってたんだけど。私だけだったんだね」
「ごめん、彼女はいません」
流石に耐えきれなくて、白状してしまった。
「えっ……そうなの?」
「はい、いたこともありません」
「経歴までは聞いてないけど……なーんだ。先越されたかと思って焦ったぁ。やめてよー」
「ははは……」
なんか無性に心が痛くなって正直に言ってしまったけど、別に家族が相手だとしても、恋人の存在を隠すくらいこの年頃なら普通じゃないか? いたことないから知らんけど。
「ていうか、ふざけるのはナシって言ったじゃん」
「いや、ふざけてないから。彼女の手料理を食べるなんて男の夢だし、死ぬ時くらい食べたいだろ」
「でもいないんなら、無理じゃん」
そもそも人類滅亡なんてのが無理のある話だろうが。と言いたいところだが、野暮なのでやめておく。
「じゃあ、花音は? 最後の晩餐はなにが食べたいんだよ?」
「私はやっぱり、おふくろの味かなー」
「ベタすぎるな」
「良介のママが昔作ってくれた、ハンバーグ」
「それは俺のおふくろの味だ」
「小さい頃食べたあの味が、忘れられないんだよなー。うちのママと違って良介のママ、料理上手だしね」
こういうの普通、味で選ぶのか? 思い出で選ぶだろ。
いや、花音にとっては俺の親の料理だろうが、思い出の味か……子供の頃はずっと一緒で、お互いの家に泊まるなんてしょっちゅうだったからな。今じゃ考えられないが。
懐かしいなあ、と笑う花音。どうやら、機嫌を直したようだった。
花音とは三歳からの付き合いだ。物心ついた時から一緒にいるため、もはや家族みたいな存在だった。
ただ、中学にもなると、一応異性というのもあり、周りの目が気になり始めてきた。そして高校まで一緒となると、流石に『俺(私)ら一緒にいすぎじゃね?』感がお互いの間で出てきたのだ。
そういった事情で、高校からはクラスも別というのもあり、自然と一緒にいる機会は減っていった。このまま疎遠になっていくのかもな――と思っていた矢先、
「良介じゃん、今帰り?」
「花音?」
「一緒に帰ろうよ。なんか話すの久しぶりー」
たまたま下校するタイミングが合い、校門を出たところで後ろから声をかけられたのだ。
花音の言うとおり、久しぶりなので確かに最初は若干の気まずさがあったものの、会話をしていくうちに、昔とそう変わらないノリで楽しく話せた。
結局、花音と一緒に帰ったのはこの日だけだったけど。その後はまたいつも通りの日常を過ごして、あっというまに一週間が過ぎて――
予言の日が、やってきた。
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