第3話 いざ、ダンジョンへ!!
薄暗いダンジョンをルンルンと歩くのは、魔族の少女(?)であるレイナ。
魔族は夜目がきくのだろうか。人間ならばすぐに迷ってしまうような薄暗いダンジョンでも、レイナは迷うことなく進んでいる。そのおかげで、シオンはダンジョン内で迷うことはなかった。
(まぁ、たびたび悲鳴が聞こえるのは気がかりだが……)
シオンがそう思う間にも、たびたび人間のものであろう悲鳴がシオンの耳に入る。
何を隠そう、シオンらが足を踏み入れている場所は、一流冒険者ですら犠牲が出てしまうような、危険な場所。何故、レイナが魔法を披露する場所をそんな危険なダンジョンに選んだのかはわからないが、シオンは楽し気にダンジョンを突き進むレイナに茶々を入れるのは忍びなく、黙ってレイナに付いて行く。
「た、たたたたた、助けてくれ――ッ!!!」
しばらくそうしていると、シオンの瞳は、自分たちの進行方向から四人組のパーティらしき人々がそう叫びながら、必死になって走ってきているのを捉えた。
シオンがパーティと思われる者たちの後ろを目を凝らしながらよく見てみると、そこには、二匹の魔獣が敵意を表情に浮かべながら、パーティの者たちに迫っているのが見えた。
「 ! そこの魔獣ども……」
――止まれ!
即座に彼らは襲われているのだと理解したシオンは、魔獣たちを自身のスキルを駆使して止めようとしたが、シオンがそう言い終える前に、シオンの前方にいたレイナが、パチンと自身の指を鳴らした。
すると……。
「 !? 」
なんと、突如として二匹の魔獣はどちらとも歩みを止め、もう一方の魔獣に攻撃を仕掛け始めたのだ。
「これは、私のスキル・
確かに、先ほどまでパーティに向けられていた敵意は完全に消えうせ、その引き換えに、仲間であるはずのもう一方に敵意を向けていた。
「……少し、本当に少しだけ、可哀そうだな」
その様子を見て、ぽつりとシオンはつぶやいたが、レイナは悲しそうな目をしながらも、ふるふると首を横に振る。
「駄目ですよ。あの子たちはどんな理由があろうとも、人間に敵意を向けた。人間がはびこるこの世界で、いたずらに増えすぎた人間に敵意を向ける魔族は、徹底的に排除しなければ」
唇をかみしめ、痛みを耐えるような表情をしながら、レイナは魔獣たちに近づき、懐に隠しておいたのであろうナイフで――魔獣たちを貫いた。
「……ごめんね」
ナイフで体を貫かれた魔物たちは、さらさらと黒い砂のようなものになって、ダンジョンの闇に溶けていく。その様子を見て、シオンはレイナがそうつぶやいたような気がしたが、「もう大丈夫ですよ、皆さん!」という、レイナの明るい声で、シオンの思考は遮られたのであった。
♢♢♢♢♢
その後、シオンとレイナはパーティの者たちが無事かどうか確認した後、ダンジョンの最奥へと進んだ。しかし、シオンらが進んでも進んでも新たな魔族の姿は見つからず、すぐに引き返すことになった。
「……どうして、君は魔獣を倒す瞬間、悲しそうな表情をしたんだい?」
帰路につく途中、シオンは先ほどのダンジョン内の様子を思い出し、レイナにそっと聞く。
すると、先ほどまでにこやかな笑みを浮かべながら、シオンに一方的に話しかけてきたレイナは、急に、怖いほど真剣な表情になる。
「……そんなの、決まってるじゃないですか……殺したくないから。ただ、それだけですよ」
そのレイナの答えは、あまりにも単純で、当たり前で、それでいて、シオンにとっては何よりも意外なものだった。
魔獣だって、魔人だって、どちらも魔族であることに、仲間であることに変わりはない。仲間を倒しておいて良い気になるはずがないのに、シオンは、レイナが魔獣を殺したくないと思っているという考えにいたらなかった。なぜなら……。
『いたずらに増えすぎた人間に敵意を向ける魔族は、徹底的に排除しなければ』
その言葉は、シオンには嘘とは思えないほど芯の通った声のように聞こえ、レイナは自分の意思で、殺したいと思って魔族を殺しているのだと、そう思っていたからだ。
でも、今、シオンの目に映る彼女は、魔族を――仲間を殺すのに抵抗を覚えていた。
――何故、やりたくもないのに仲間を殺すのか
そんなシオンの疑問を読み取ったかのように、レイナは言葉少なげに自身のことを語りだす。
「……私、とある人物に頼まれたんです。私のその強力なスキルを使って、人々に危害を加える魔族を倒して、と」
そう語りながら、レイナは遠い昔を懐かしむように目を細める。
「その人は、私を絶望の淵から救ってくれて。だからこそ、私は自分自身が傷ついても、その人の願いを叶えるのが私の使命だって、そう思ったんです」
レイナが過去に何があったのかはわからない。それでも、シオンの頭には、先ほど、仲間を殺したくないと語ったレイナの表情が、こびりついて離れなかった。
「……俺なら、危険な魔族を倒すことなく、人々の危険を取り除くことができる」
思わずこぼれ出たそのシオンの言葉に、レイナは一瞬、どういう意味か分からず、キョトンとした表情になるが、すぐに、シオンが何を言わんとするのか理解する。
(きっと、この人は私の使命を自分が代わりに引き受けてくれようとしているんだ……)
「だから、一人で抱え込もうとしないで。俺を、頼って……」
「それはできません」
シオンの思いやりを理解してもなお、レイナはシオンの申し出をきっぱりと断る。
「シオンさんだって、やりたいことがあるから、王都に来て、ギルドに加入したのでしょう? そんなシオンさんを、私の使命に巻き込みたくなんてないんです」
「……なら、俺らは互いを、利用し合おう」
少し前までのシオンならば、レイナを自身の目的に利用するためにそう提案したのであろう。でも、今は違う。出会ったばかりでもわかるほど、彼女は悲痛な運命を背負っていた。そんな彼女を、エゴでも何でもいい。ただ、救いたいと、そう思ったのだ。
「俺は、勇者パーティの奴らに、唯一の家族である妹を殺された。俺は、そんな勇者パーティの奴らに復讐するためにここまで来たんだ。……その復讐に、君のスキルを利用したい……だから、君も俺を利用してよ」
まっすぐとレイナを見つめながら、シオンが彼女にそう告げると、レイナはシオンの発言が予想外のものであったためか、驚いた表情になる。
だが、シオンの真剣さが伝わったのであろう。すぐに柔らかい表情を浮かべ、そして……。
「ありがとう、ございます」
短い、感謝の言葉。それでも、それは彼女なりの了承の言葉であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます