第7話
「署、署長が2人?え?え?」
2人の署長の顔を交互に見る大介を2人の署長は面白そうに見返す。
「お前な、署長だけちゃうで。」
隣からの声に振り向くと萬田の横にいつの間にか男が座っていた。男は髪が赤いだけで萬田とうり二つ。
「萬田さんも2人…」
大介はパチパチと目を瞬く。すると大介の隣の萬田がフッと大きな虎になった。虎は愉快そうに大介を見た。
「お前、目ん玉落っこちそうやな。俺の名前は暁。こちらの毘沙門天様の眷属。」
「け、眷属?」
「まあ、家来みたいなもんよ。で、だな主様はご多忙ゆえ普段は俺がお前のバディだ。ちなみに部屋も一緒な。」
「部屋?」
「お前は今日からここに住むんだよ。寮のお前の荷物はもう運び込んであるから心配すんな。」
暁は大きな前足でポンポンと大介の肩を叩く。
「虎が喋ってる…」
何が起こってんのや?大介は必死に頭をひねる。その様子をおかしそうに2人の署長がながめている。
「ハハハ、悩んでるね〜」
その声に大介が署長の方へ顔を向けると、署長の隣に署長と同じ大きさの狸がエプロン姿で座っていた。
「私はこちらの本物の署長である観音様がお忙しいので普段は影武者をさせてもろてる狸の三郎ですわ。」
「今度は狸…」
「あら、それだけじゃないんよ。」
観音様の署長の右隣にはいつの間にか南淀川署のマドンナである上白川蓮音が2人並んで座っている。
「も、もしかして上白川さんも?」
大介が青い顔でつぶやく。
ウフ、2人の蓮音が微笑むといつの間にか蓮音の隣には蓮音と同じぐらいの大きな白蛇がチロチロと舌を出して鎮座している。
「うそやろ!?」
大介は目をひん剥いた。白蛇は赤い瞳で大介を一瞥すると淡々と話し始めた。
「こちらは上白川蓮音様こと私の主、弁天様だ。主は観音様、毘沙門天様と同じく大変ご多忙なので普段は私、白夜が代わりに上白川蓮音様になっている。ちなみに私もここの住人だ。」
大介は自分で自分にビンタする。が、残念ながら痛い。
「こ、ここはいったい何の集まりなんですか?俺、なんでここにいるんですか?」
おびえて後退りする大介に署長の後ろに座っていた老人が顔をのぞかせた。
「そりゃ訳分からんわの〜。こんな事になったのは烏丸君があの時、死んだからじゃ。」
「エッ?俺死んだんですか?ここ、あの世?俺、幽霊なの?」
大介はみるみる涙目になっている。すると萬田こと毘沙門天が違う違うと手を振った。
「じゃなくて。この人、覚えてないか?お前が助けたじいさんだよ。」
「あ!」
目の前の老人が申し訳無さそうに頭をかいた。
「南極普(なんごく しん)と名乗っているが、ワシは本当は寿老人なんじゃ。酔っ払ったワシを助けて、お前さんは命を落としてしもうた。ワシは人に長寿を授けるのが仕事なのに。」
南極はガックリと肩を落とした。
「長寿の神様を助けて若者が命を落とすのはマズイだろ?だから俺たちの力でお前の命を助けたんだよ。」
「助けるって…え?」
署長は引き気味の大介に優しく微笑んだ。
「つまり、その場にいた毘沙門天の髪の毛で烏丸君の魂を烏丸君の体に結びつけてあの世にいかないようにしたんだね。毘沙門天の髪の毛だけで君の魂はこの世に留まっているわけ。だから普通の魂よりあの世に行きやすいんやな。君の魂が当初の寿命まであの世に行かないよう私たちが見守ることにしたんや。」
「私の髪の毛が切れそうになったら、また新たな髪の毛で魂を結びなおさねばならぬ。だから暁をお前につけたのだ。大介、安心するがよいぞ。」
毘沙門天は力強く大介に頷いた。
固まる大介を置いたまま、観音様の乾杯の音頭で楽しく宴会が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます