第4話 神に乞う

 幸せな思いは突如として消え去った。

 恋した彼との時間は、瞬く間に終わってしまい、抜け出した部屋に戻ってきた頃には、父はカンカンに怒ってた。


「お前の姫としての自覚がないことはよくわかった。しばらくは神殿で暮らしなさい」


 父は一度決めたことは曲げない性格だ。

 またね、と言ったのに、こちらから破ることになってしまうなんて思いもしなかった。

 私は途方に暮れながら、それでも父の言葉に従うしかなかった。


 神殿での暮らしは、とってもつまらなかった。

 決まったサイクル。途切れない人々、終わらないお祈りの時間。

 あまりの忙しさに私は肩を揺らして息を吐く、あの日を思い出して慰めにしなければ、とっくに私の心は折れてただろう。


「姫様、次の謁見があります」

「姫様、お祈りのお時間でございます」

「姫様、」「姫様」「姫様」


 なんで私は盲目なのだろうか。

 私の目が正常なら、彼を追ってここから出ていくことができたのに、王宮内ではないことが惜しまれる。王宮であったのなら、盲目なんて関係なく、私はどこでも知ってるから、好きな場所に行けるのだ。


 でも、神殿となると話は変わる。

 入っては行けないところや、人が通る場所など頻繁に来ているわけでも、探索したわけでもないからわからない。


 もし、彼があの約束の場所で、ずっと私を待っていたら…。


 その心配が私の顔から血の気を引かせた。

 もしかしたら彼が害されてしまうかもしれない、もしかしたら彼が去ってしまうかもしれない。それは恋が叶わないことよりも辛くて、私の足元がグラグラと揺れているような感覚に襲われる。


 好き、好き、私は彼のことが好きなの。


 でも、彼が私のせいで苦しむのは、嫌だ。そんなことを私は避けたいと願ってしまう。


 彼に恋をしてからと言うものの、私は彼のためだけに祈り、彼のためだけに歌っている。他の人のために歌うことができなくなった時から、私は自覚していたのだ。


 あの日のように、全てを愛することなどもうできない。


 もう私は彼に恋をしてなかった時の私にはなれないのだ。例え父に止められても、護衛に呆れられても、神に見放されようと、私は彼のためでしかあれないし、それでいいとまで思ってしまう。


 私は神殿の奥で神様に祈る。

 春の神様、優しい春の神様、どうかあなたのように愛した人と結ばれますように。

 そのためならばこの癒しの歌の力もあなたにお返しいたします。

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