第1話 叶わぬ恋

 彼女に恋したのは、彼女が足を擦りむいた少年をその歌声で治している所を見た時だった。


 恋など無縁だと今まで思っていたのが嘘のように、俺の脳裏には焼けつくように彼女の横顔が写っていた。


「もう、大丈夫よ」


 小鳥のような声が響く。

 周囲の喧騒なんて、彼女の声の前では無意味だった。ただ、彼女を呼ぶ「姫様」という言葉だけが耳に残り、その時になって彼女がこの国の姫だと初めて知る。


 これは、叶わない恋だ。

 唐突に理解した恋の終わりの予感に、胸が締め付けられるような痛みを覚えて、思わずその場から逃げ帰る。俺は今まで負ったどんな痛みよりも辛く苦しい思いをしながら、その日は泥のように眠った。

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