第6話 本音と建前
「最近痩せた?」と職場のスタッフから声をかけられた。
確かに以前に比べると細くなった気がする。
胸元のあいた服を着ると、肋骨の形がわかるくらいだった。
あまり体調は良くないが、仕事は簡単に休めない性格もあり、毎日出勤していた。
大丈夫、大丈夫。
毎日かけられる心配の言葉に、毎日返す同じ言葉。
誰かに言っても仕方ない。
それに、仕事は仕事。
やるべき事をやれば、それでいい。
その考え方が自分の首を絞めているという事にも気付かず、毎日笑顔で過ごしていた。
そうやって過ごせば、トラブルは何も起こらない。
私が笑顔でいることで仕事が上手くまわるのなら、スタッフの皆と仲良くいられるのなら、患者さんが喜んでくれるのなら、、、願ったり叶ったりだ。
「あんまり無理しないでねー」と凄く優しい笑顔で返してくれる。
皆、優しくてあたたかい。
そんなこの場所が凄く好きで居心地が良くて。
ここに居ていいんだと思える。
ありがとう。
いつものように笑顔で返し、仕事をする。
ん?
何か、感触が変だな、、、。
器具を持つ自分の手に違和感を覚える。
器具を持つ感触がいつもと違う気がする。
仕事は出来るけど、不思議な感覚だ。
その後も何人か患者さんを診たが、やっぱりおかしい。
そう自覚した時だった。
両手が震え出した。
あ、器具が持てない、、、。
目に見えて手に持つ器具が震えている。
患者さんが口を開けて待っている。
喋らなきゃ。
仕事をしなきゃ。
ちゃんとしなきゃ。
でも、怖い。
患者さんを傷付けてしまうかもしれない。
怖い。
怖い。
怖い。
胸がザワザワしてきた。
息がしにくい。
あ、これ、ヤバイやつだ。
何とか声を絞り出し、患者さんに口をゆすいでもらっている間にスタッフルームに逃げ込んだ。
その途端に涙が溢れてきた。
止まらない。
その場にしゃがみ込み、耐えるしか術がなかった。
大丈夫、大丈夫、大丈夫
言い聞かせる言葉とは裏腹に、身体は正直だった。
今はただ、この身体に「大丈夫」と言い聞かせる事しか出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます