悪魔のゴスロリ

 ダイニングテーブルの上にママの買ってきた芸能雑誌やファッション雑誌が数冊あったので、ポテチとコーラを持って自分の部屋に行った。


 ママはナイトクラブでは和装なんだけど、最新の情報とか言って、雑誌をしこたま買い込む。経済誌だって、政治向けの雑誌だって買ってきて、斜め読みしている。お客さんの話題についていけるように心がけしているんだそうだ。ティーンのファッション雑誌まであった。その雑誌にティーンのコーデの特集が載っていた。


 ペラペラ雑誌を見る。少年院に6ヶ月入所していただけで、世の中はドンドン変わっていくもんだ。


 今年のトレンドは、Y2Kリバイバルがアツくて、ローライズジーンズ、ミニスカートやクロップトップがキテるらしい。フローラルパターンのショートドレスやムーディーレースがイケてるらしい。けど、私には大人っぽいのは似合わない。


 私じゃあ、ボイッシュに決めたローライズジーンズもダメだね。それに、セクシーさが足りないだろ?金を持ってる男を釣るんだったら、脚をガッツリ出すミニスカートで攻めなきゃね。Y2Kなプリーツミニスカートという感じで攻めたらどうだろう?


 トップスはクロップトップのへそ出しでロリ感マシマシ、なぁんてね。貧乳の胸は揺れないけどね。


 足元はプラットフォームブーツ、黒で5センチ底上げしてチビを隠し。アクセはチョーカーとバタフライクリップで、フローラルパターンのミニバッグ持つ。こんなの着て歩けば、ロリコン学生やおっさんがガン見確定じゃん!


 私だって流行りの服で盛ればロリコンの野郎どもがメロメロになるのよね。


 そういやぁ、去年行ったコミケで着たゴスロリのコスプレもめっちゃバズったな。カメラ小僧、30人くらいに囲まれたっけ。トップは、黒のレースのアップコルセット、フリル爆盛りのミニスカート、クロス柄の網タイツ、プラットフォームブーツ。頭にリボンとヴェール、赤リップでアクセント。


 誰をモデルにってわけじゃなかったけどね。漫画のロゥリィ・マーキュリー張りの流し目をくれてやったら、カメラ小僧ども、みんなモッコリしてやがんの。笑っちゃったね。


 そんなのが終わって、着替えて外に出たら、私を夢中で撮影していた若いヤツが寄ってきて、個人撮影会はどうだろう?と言われた。


 う~ん、個人撮影会ってスタジオ?って聞いたら、どこでもいいけどホテルじゃどうだろ?なんて言われた。こいつ、金持ってんのかな?と思って、ラブホなんてヤダよ、拘束時間とギャラは?って聞いたら、シティーホテルで、一時間渋沢三枚?って言う。


「ホテルの部屋で見知らぬあんたと、拘束一時間で渋沢三枚って安くない?変なこと抜きだよね?ね?」と答えてやった。格好は学生じゃなさそうだった。


 チノパンにネイヴィーブルーのボタンダウンという真面目な格好。カメラはソニーの最新型。金はありそうだもんね。渋沢三枚って、実は、人気人気コスプレイヤーの値段なんだよ。


 諦めるかと思ったら「拘束一時間で渋沢四枚じゃあ?」と段階的にネゴしてくる。ふんだくれそうじゃん?と思って、「ちょっとセクシーなポーズをしてやってもいいから、拘束45分で、渋沢五枚、ちょうだい」と言ったら、『セクシーなポーズ』で反応したのか、コクコク頷いた。ケチじゃないね。


 ホテルの部屋で話を聞いたら、リーマンだった。入社三年で会社も一流企業。賞与がしこたま入ったんだそうだ。


 ただねえ、今の御時世、一流企業だって、犯罪者が多いからねえ。襲われたら股間を蹴っ飛ばして逃げるつもりだった。でも、彼の場合は襲う度胸はなさそう。大人しそうなロリコンのコスプレオタクなんだろうね。


「ポーズ、どうする?」と聞いたら、窓際の椅子に腰掛けてだって。自分で椅子を窓際に移動させた。カーテンも閉めた。「撮影に、逆光がね……」とかブツブツ言ってる。部屋が薄暗くなって、彼はベッド脇の調光装置をイジって、窓際の間接照明だけをオンにした。


「服はどっち?この普段着のプリーツスカート?」とスカートの裾をピラっと広げてやる。「それともゴスロリ?」と聞くと、彼は生唾をゴクリと飲んで「ゴスロリ」とボソッと呟いた。


「じゃ、着替えるわ。見る?渋沢五枚だもん。見るくらいならいいわよ。ハイ、今から45分ね!」と私はチラッと腕時計を見て時間を確認した。彼は、またこっちまで聞こえるくらいに生唾を飲み込む音がしてコクコクと頷いた。


 私は、小賢しい小娘でなんの才能もないけど、服を脱いだり着たりすると微妙にエロいって言われている。そう言われて更衣室で観察すると、美少女と評判の女子がO脚で着替えていたり、なにか拾うときも脚を広げていたりする。


 私のは、脱ぎ方も着方もエロいそうだ。目線も関係するのかな?これはママの和服の着付けなんかを見ていて自然に身についたんだと思う。


 リーマンが真剣に見つめる中で、スカートを足を揃えてゆっくり脱いで、トップスも袖を抜いてから脱ぐ。椅子に座った。脚をリーマンに突き出して、ボストンバッグにしまっていたクロス柄の網タイツを左右数センチずつ膝上までたくし上げていく。


 お金があったら、ロゥリィ・マーキュリーみたいなガーターベルトにシーム付きストッキングを買うんだけどな。リーマンには立膝になっているからパンツ丸見えだよね。


 下着はコスプレの時のままの黒のGストリングとフリルのついたブラ。順番に、黒のレースのアップコルセット、フリル盛り盛りのミニスカートを着ていく。プラットフォームブーツをはいて、頭にリボンとヴェールをつけ、タップリの赤リップを唇に塗った。


「さぁ、できあがりだよ。あんたさぁ、こんな小娘で貧乳の私が渋沢五枚で良かったの?」

「ぼくには女神に見える……」

「あんたさぁ、ロリコンの変態じゃね?」

「なんとでも言ってくれ。撮るぞ。キミを撮る」


 最近のデジタル一眼だとASA感度が高いからフラッシュは使わないのだそうだ。でも、シャッター音はしっかりしている。


 無音のホテルの室内で、彼が撮影するとバシャ、バシャというしっかりしたシャッター音が響く。「シャッター音をサイレントにできるけど、モデルさんは、このメカシャッター音が聞こえるのが良いみたいなんだ。ああ、私、撮されてるって感じるそうだよ」


バシャ、バシャ


「確かにさぁ、シャッター音がこうも響くと、私もああ、撮られてるって感じするよね」


バシャ、バシャ、バシャ、バシャ


 私も撮られていることに気持ちが良くなってきた。抑制がはずれだす。


 だんだんとポーズも自然と大胆にエロくなってくる。


 椅子に座っているのも疲れたから、「ベッドで横になるポーズも撮ってよ」と彼に言う。言葉を発せずコクコク頷く彼。


「さぁって、どういうポーズがお好み?」

「わかんないよ」

「じゃあさ、渋沢五枚のサービス!私がいつも自分の部屋でやっているポーズをするね?」


 私は、枕を自分の股に両脚で挟んで締め付けた。いつもやってること。自分で慰める時は枕を使う。枕を上下に動かしながら、あそこに擦り付ける。


「どう?どう、私?」


「……」バシャ、バシャ


「撮られてるの、気持ちいい……見て、私を見て……」バシャ、バシャ、バシャ


 枕を下にしてうつ伏せになった。彼の方にお尻を突き出す。


「これはどう?」バシャ、バシャ


……濡れてきたの自分でもわかった。薄い黒のGストリングの生地だから、生地ごしに湿ってきたのがカメラにも映っているはず。


「何か言ってよ」バシャ、バシャ、

「ねぇ、何か言ってよ」バシャ、バシャ、バシャ


 あんまり興奮して、我を忘れて、私はGストリングの股間の生地をずらして、自分であそこを触ろうとした。


 彼が撮影の手を止めた。


「ダメだ!ぼくにキミのアソコを見せるな!キミは女神様なんだぞ!」と怒鳴られた。


 なに、こいつ!私のオマン◯、みたくないの!と私はその時思った。

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