俺の女の子化計画ー初めてのメイド服外出

【前回までのあらすじ】

 俺はあおい。男子高校生なんだけど、文化祭の一日目で突然、部長の美琴みことに、ミニスカメイド服を着せられ、「女の子になりたい」と言わされた。

 それで、そのまま外に連れ出される。

 “メイド服姿のまま街を歩かされる”だなんて、聞いてないって……!


――――――


 ミニスカメイド服姿のまま、外に出されると、夕方の風が少しすずしい。

 いつもの男の服の時とは全然違う。

 足元にまとわりつくのではなく、ふわり、ひらりと軽くゆれるスカートの感触。


 歩くたびに、風に乗ってすそがひらひらと舞う。

 視界の端に自分の足元が映るたび、胸の奥がぞくぞくする。

 ……なんでこんなにドキドキするんだ……?


 これまで男の服で外に出るときは、安心感と気楽さしかなかったはずなのに。

 でも今は、視線を意識せずにはいられない。

 歩くたびに揺れるスカート、軽くすれる太もも――


 胸の奥がぎゅっとしめつけられる。

 顔は熱くなり、呼吸は浅くなる。

 ……やばい、こんな気持ちは……まさか……自分でも認めたくないけど……。


 ふわりとしたスカートのすそ翻弄ほんろうされる自分の身体。

 足の動きとスカートの揺れが、なんだか女の子みたいで――


 思わず小さく息をもらしてしまう。

 ――この感覚、どうしてだろう?

 ……でも、否定しようにも、体は正直で、胸も太ももも勝手に反応してしまう。


 周りの人の視線はまだそんなにないのに、すでに恥ずかしさでいっぱいだ。

 男の服では決して味わわなかった、甘くて切ない高揚こうよう感。

 ……ああ、俺、もしかして――


 心の奥の声が、無意識にそう告げる。

 まさか、こんな気持ちを自分で認めることになるなんて……。



 そんな俺の心をよそに、美琴は楽しそうに周囲を見渡しながら、俺の手をにぎったまま歩く。

 人通りの多い駅前の通りを進むたびに、視線が刺さる。

 ……やっぱり、目立つ。目立ちすぎる。


「ふふ、葵ちゃん、顔が赤いよ? さっきよりさらに」

「そ、そんなことない!」

 必死にごまかすけど、美琴の目はまったくごまかせない。

 手をにぎられているせいもあって、心臓はバクバクだし、足はぎこちなくなる。


「……でも、かわいいなぁ。スカートも似合ってるし、リボンも似合ってるし」

「や、やめろ! ……照れるから!」

 ぶんぶん首を振る俺を、美琴はくすくす笑いながら引っ張る。


 駅前のデパートが見えてきた。

 ガラス張りの入口の向こうに、買い物客がちらほら。

 その光景を見ただけで、もう心臓が口から飛び出しそうになる。


「さぁ、入ろうか」

 美琴はそう言うと、俺の手をぎゅっとにぎり直す。

 息が詰まりそうになる。

 頭の中は、あの部室での騒ぎと、今のはずかしさがぐちゃぐちゃに混ざって、整理がつかない。


 でも……なんだか、ゾクゾクする。

 まさか、こんなにドキドキするとは――俺は、心のどこかで美琴に引きずられるのをこばめていない自分に気づいた。


 ガラスの自動ドアが開き、俺たちはデパートの中に足を踏み入れる。


 美琴はにこりと笑いながら、俺の肩を軽くたたいた。

「さぁ、最初はここから。準備はいい?」

「……準備って、なにが……」


「ふふふ、楽しみにしてて。葵ちゃん女の子化計画、第二章! まずは、エステ体験だよー」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の顔はさらに熱くなる。

 だって、エステなんて、行ったことさえない! だから、そこで何が待っているのか、まったく想像がつかない。


「ほら、葵ちゃん。こっからが本番だよ?」



 ――ただ、もう引き返せないことだけは、確かだった。

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