部長の命令で、俺は今日も、女の子になります…

Çava

第一章:俺の強制女装文化祭 一日目

俺の強制女装ミニスカメイド文化祭

 ――俺の名前はあおい

 ごく普通の男子高校生……のはず、だった。


 そう、この日までは、間違いなく“男の子”だったんだ。


 だけど今、俺は。


「いらっしゃいませ、ご主人さま!」


 ぎゅっとスカートのすそをつまんで、笑顔でお辞儀じぎ

 ふわふわレースのカチューシャに、ひらひらミニスカメイド服。

 “女の子にされちゃった男子”だ。


 視線が痛い。いや、熱い。

 客として来てる生徒たちが、ぎっしりまった教室で俺をガン見してる。


「え、あれ葵じゃね?」

「うっそ、マジで!? 男だろあいつ」

「でも……なんか普通にかわいくね?」

「うわ、写真らせろ!」


 ざわざわがどんどん広がって、あっという間に笑い声と歓声に包まれる。

 いや、待て、なんでバレてんだ? いや当たり前か! 男子がメイド服を着てんだから!!


 必死に「違うから!」って顔でやり過ごそうとしたけど――


「すいませーん、メイドさん、オムライス一つ!」

「俺にも! 名前、プレートに書いて!」

「“葵ちゃん”ってな!」


 ……やめろ、呼ぶな! “葵”は本名だ!

 しかも、なんか“あおい”ってひびきが女子名みたいだからか、完全に盛り上がっちゃってるし!


「葵ちゃーん、こっち来て!」

「写真一緒に!」

「ポーズしてー!」


 ……俺の文化祭、どうなってんの!?


***


 ことの始まりは、今日の朝だ。


「やばい! メイド役の女子二人、体調不良で休み!」

 部室に飛び込んできたのは、部長の美琴みこと


「……で?」と返した瞬間、イヤな予感しかしなかった。


「で? じゃない! メイドの人数が足りないの! ……だから――」

「……だから?」


「葵くんきみがやるの! ……本当はね、ずっと思ってたの。葵くんなら、きっと似合うって♡」


「はあああああ!?!?」


 抵抗ていこうする間もなく着替えさせられ、ウィッグまでつけられて――そして今にいたる。


***


 でも、意外すぎたのは……俺がまさかの大人気だいにんきになっちまったこと。

 男子から「かわいい!」って言われまくって、写真頼まれまくって。

 その度に「違うから!」って否定したのに、ぜんっぜん信じてもらえなかった。


 女子たちも、「意外と似合うー」とか「しっかりメイクすればもっとかわいくなりそう」とか勝手なこと言いやがる。


 俺のはずかしさは、もうだいぶ前から、限界突破している。

 でも売上はばく伸び。

 ……店のためになってるなら文句言いにくいのが、余計よけいにキツい。


***


 そんな地獄の一日もようやく終わり。

 みんなが片づけを始める中、俺は一刻も早くメイド服を脱ぎ捨てたくて、着替えようとしていた。


 ……が。


 俺の前に立ちふさがったのは、美琴だった。

 腕を組んで、にこりと笑って俺を待ち受けている。


「……な、なんだよ」

「へぇ、葵くん。ずいぶんモテモテだったじゃん」


「ち、ちが……別に俺が好きでやったわけじゃ――」

「でも楽しそうに見えたよ? 男子に囲まれて、名前呼ばれて、写真撮られてさ」


「そ、そんなこと……!」


 必死に否定する俺を、美琴は壁際かべぎわにじわじわ追いつめてくる。

 距離が近い。やばい、なんかドキドキし始めている。


「……あれ? 葵くん、顔、真っ赤」

「そ、そんなことない!」


「ふぅん?」


 美琴の視線が、胸元から下へとすべっていく。

 俺は息が止まるかと思った。


「……しかも。ここ、反応してない?」

「なっ……! ち、ちがっ、これは……!」


 俺のあわてぶりに、美琴がくすっと笑った。


「ふふっ、やっぱりね」

「な、なにがだよ!」


「だってさ。たいていの男の子は、ただメイド服を着ただけで、そんな風にはならないでしょ?」

「そんな風、って……」


「どうかなぁ?」


 わざとらしく首をかしげる美琴。目は全然笑ってない。

 そのひとみに見つめられると、言い訳なんて全部通じない気がしてくる。


「じゃあ聞くけど、葵くんは――ほんとは、女の子になりたいんじゃないの?」

「ち、ちがっ……!」


 美琴は、俺のメイド服の、ミニスカートの部分を指さして言う。

「でも……身体は正直だよね? そんなに反応しちゃってさ」

「や、やめろ!」


 必死に否定しても、美琴はほほえみをくずさず、じりじりと近づいてくる。

 ドキドキはどんどん激しくなり、頭はぐちゃぐちゃ。


「ねぇ葵。私に言われたい? それとも自分から言う?」

「な、なにを……」


「決まってるじゃん。『女の子になりたいです』って」


「……っ!」

 やめろ。そんなこと、俺が言うはず――。


 でも、美琴の瞳に射抜いぬかれるように見つめられると、言葉がのどにはりついて、逃げ場がなくなる。


「言えないの? でも身体はもう答え出してるよ?」

「…………っ」


 ――そして。


 ついに、俺はしぼり出すようにつぶやいた。


「……女の子に、なりたい、です……」


 美琴の瞳がキラリと光った。

 俺は、取り返しのつかないことを言わされてしまった気がして、膝がふるえた。


「ふふっ、じゃあ、まずはこのまま外に出て、駅前のデパートまで一緒に行こっか? そこで葵ちゃんを、もっと女の子にしちゃおー!」

「いや、ちょっ、まっ、無理だから! こんなミニスカメイド姿で外とか、絶対無理だから!」


「だーいじょうぶ! 風、気持ちいいよ~?」

「やめろ! その気軽なノリぃぃ!」

 美琴の手に引かれた瞬間、俺のミニスカメイド服のスカートのすそがふわりとい上がる。



 そのまま、俺の悲鳴ひめいは、校舎の外までひびいていった――。


 ……でも、このときの俺は、まだ知らなかったんだ。

 この“女の子にされる一日”が、姿を探す“始まり”にすぎなかったなんて。

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