第41話 新たな年の、新たな戦い

## 1. 新年の幕開け、上橋東照宮にて


2121年1月1日、元旦。

澄み切った冬の青空の下、俺は上橋市で最も大きな神社「上橋東照宮」の境内にいた。新年を祝う参拝客でごった返す境内は、お囃子の陽気な音色と、屋台から漂う甘く香ばしい匂いで満ちている。白い息を吐きながら行き交う人々の顔は、誰もが晴れやかだ。


「鳥居の前、って約束はちょっと大雑把すぎたか…」


俺は独りごちて、人波の向こうに仲間たちの姿を探す。背伸びをしたり、少し高い場所から見渡したりしてみるが、なかなか見つからない。スマホを取り出してメッセージを送ろうとした、その時だった。


道路の向こう側、雑踏の中に見慣れたシルエットを見つけた。レオとミオだ。俺が大きく手を振ると、ミオがすぐに気づいて、ぶんぶんと手を振り返してくる。その隣でレオも、少し気恥ずかしそうに片手を上げた。


「あけおめー!」

人混みに負けないよう声を張ると、二人も「おめでとー!」と叫び返してくれた。数日前に会ったばかりなのに、新年の挨拶はまた格別な気分にさせてくれる。


『あけましておめでとうございます、レオ、ミオ』

俺の肩の上で、プリエスが小さな、しかし凛とした声で挨拶する。今日の彼女は、この日のために用意した豆サイズの可愛らしい振袖姿。頭には、これまた小さなリボンがちょこんと乗っている。おいおい、可愛すぎるだろ。


「わっ、プリエスかわいいー!」

ミオが駆け寄ってきて、目を輝かせた。

『ありがとうございます、ミオ』

プリエスは嬉しそうにその場でくるりと一回転してみせた。小さな袖がふわりと揺れる。


レオもミオも、厚手のダウンジャケットにマフラー、手袋と完全防備だ。吐く息が白い。俺もニット帽を目深にかぶり、マフラーに顔をうずめた。


「やっぱり元旦は冷えるな」

俺が言うと、ミオがこくこくと頷いた。

「うん、でも雲一つない快晴で良かった。雪だったらもっと大変だったもん」

「確かにな」

俺たちは顔を見合わせて笑った。


そんな話をしていると、「お待たせー!」という元気な声と共に、人混みをかき分けるようにしてサクラがやってきた。今日の彼女は、いつもの動きやすい服装とは打って変わって、凛とした紫色の袴姿。きっちりと結い上げた髪には、新春らしい梅の花の髪飾りが揺れている。


「あけおめ、サクラ! 似合うじゃん、その格好」

俺が声をかけると、サクラは「おめでとう、ハルト!」と快活な笑顔を返してくれた。


「わあ、サクラ、すっごく素敵!」ミオが駆け寄って感嘆の声を上げる。

「えへへ、ありがとう。でも、なんか変じゃないかな? 動きにくくって」

サクラは慣れない草履に少し戸惑いながら、照れくさそうに笑った。

「全然! めちゃくちゃ似合ってるよ!」

「ああ、すごくいいと思う」

ミオと俺が口を揃えて言うと、サクラは「そっか、なら良かった」と嬉しそうに頬を緩めた。


「まさに馬子にも衣装だな」

レオが腕を組んで、わざとらしく感心したように言う。

「ちょっと、それ褒めてないでしょ!」

サクラがすかさずレオの脇腹に肘を入れる。そんな二人のやり取りに、俺たちは初笑いを漏らした。


『サクラ、とてもお似合いです。まるで古の武人のようですね』

プリエスが冷静に、しかし的確な賛辞を贈る。

「え、そう? プリエスに言われると嬉しいな!」

サクラは満更でもない様子だ。


「さて、全員揃ったことだし、お参りに行こうか」

俺が促すと、みんな一斉に頷いた。


俺たちは鳥居をくぐり、賑やかな参道を本殿に向かってゆっくりと進み始めた。肩が触れ合うほどの人混みだが、仲間たちと一緒だとそれもまた楽しい。


## 2. 巫女組織のリーダー、東雲水琴


今日の目的は、初詣もあるが、もう一つ重要なことがあった。舞さんから「私の上司にあたる東雲水琴が会いたいと言っている」と連絡があったのだ。


水琴さんは、舞さんの直属の上司であり、関東地方の実戦部隊を統括する役職にあるらしい。俺たちは、舞さんの紹介で、今日ここで水琴さんと会う約束をしていた。


クジラ討伐の時に、プリエスのことに気がついたような言動もあったので、あまり気乗りはしなかったが、舞さんの頼みでもあるし断りきれなかった。


お参りを済ませ、舞さんに連絡を取ると、おみくじ処に来て欲しい、と言われた。俺たちはおみくじ処に向かう。


おみくじ処につくと、巫女装束の女性が数名立っていた。その中に、舞さんの姿を見つけた。

舞さんは俺たちに気づくと、にこやかに手を振ってくれた。


「ハルト君、レオ君、ミオちゃん、サクラちゃん、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね」舞さんが笑顔で挨拶する。


「おみくじ、一つ、いかがですか?」舞さんが言う。


「引きたい!」サクラが手を挙げた。


せっかくだし、みんなでおみくじを引くことにした。俺は100円玉を出して、舞さんに渡す。


「ありがとうございます」舞さんは丁寧にお辞儀をし、俺におみくじを手渡してくれた。


俺はおみくじを開くと、「中吉」と書かれていた。まあまあ良い結果だ。

「おお、中吉か」俺が言うと、ミオが「私は大吉だった!」と嬉しそうに見せてくれた。

「私は吉だった」サクラもおみくじを見せる。

「俺は小吉だった」レオもおみくじを見せる。

「みんな、良い結果だね」俺が言うと、舞さんも微笑んだ。


「では、みなさん、こちらへどうぞ」舞さんが言う。俺たちは舞さんに案内されて、境内の奥にある社務所に向かった。


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社務所の奥、静寂に包まれた一室に案内される。凛とした空気の中に、微かに白檀の香りが漂っていた。部屋の中央には、美しい黒塗りの座卓が置かれ、その上座に、一人の女性が静かに座っていた。


雪のように白い和服を身に纏った、透き通るような肌の女性。年の頃は俺たちより少し上、二十歳くらいだろうか。長く艶やかな黒髪が、彼女の白い肌を際立たせている。静かな、しかし全てを見透かすような強い意志を宿した瞳が、真っ直ぐに俺たちを見つめていた。この人こそが、東雲水琴さん。その存在感は、今まで会った誰とも違う、圧倒的なものだった。


「皆様、あけましておめでとうございます。ようこそお越しくださいました」

水琴さんは、鈴の鳴るような声で、しかし有無を言わせぬ響きをもって言った。俺たちは緊張で強張った体を折り、深々と頭を下げる。


「あ、あけましておめでとうございます!」

俺たちの声が、少し上ずって揃わずに響いた。


促されるままに座卓を挟んで座ると、すぐに別の巫女さんが、湯気の立つお茶と上品な和菓子を運んできてくれた。


水琴さん、舞さん、そして俺たち四人とプリエス。厳かな雰囲気の中、水琴さんがゆっくりと口を開いたことで、静かな対話が始まった。


「まずは、みなさんにお礼を申し上げます。クジラ討伐、本当にありがとうございました。おかげで多くの命が救われました」水琴さんが真剣な表情で言う。


「いえ、水琴さんの力でほとんど解決したようなものです」俺が答える。


「あの時、龍の制御を私は失っていました。あのままであれば、クジラは再び逃亡し、被害が広がっていたでしょう。…ハルトさんのあの力がなければ」


う、いきなり核心が来たな。俺は内心で冷や汗をかく。


「…そうですね。逃亡を阻止できたのは幸運でした」俺はなんとか平静を装い、言葉を選びながら答えた。


しばらく沈黙が続いた後、水琴さんが話を続けた。

「そういえば、サクラさん」


「は、はい!」急に話を振られて、サクラが驚いたように答えた。


「葵に大事なグローブをプレゼントしてくださったとか。彼女は少し...人付き合いが苦手なところがあるのですが、これからも仲良くしてあげてくださいね」


「え、あ、はい!」サクラは顔を赤らめながら答えた。「私も大事な剣を頂きまして、ありがとうございます」と頭を下げた。


なんか、すごい緊張してるな、サクラ。水琴さんの人の上に立つ者が醸し出すオーラに圧倒されているようだ。サクラは体育会系だから、ボスには服従するのかもしれないな、なんて俺は場違いなことを考えていた。


## 3. 神社の術と情報魔法


しばらく間をおいて、水琴さんが話を切り出した。

「私たち神社組織は、千年近い歴史があります。私たちはその伝統と責任を背負っています。とはいえ、何も変わらないわけではありません。時代とともに変わるべきものもあります」


俺は頷いて聞いていた。


「特にこの50年ほどで急速に発達した情報魔法技術と私たちの術(わざ)は、切っても切れない関係であると思っています」


ミオが大きく頷いている。


「情報魔法は、情報結晶や自身の共鳴力を消費して、世界に干渉する技術だと理解しています。では、その遥か昔から存在する私たちの術は何を消費しているか、ご存知でしょうか?」


ん、考えたこともなかったな。あの術は何か不思議な力を使っている、としか思っていなかった。

情報結晶が作成できるようになったのは情報魔法が発達してからだ。つまりここ50年程度の話。

ということは、それ以前から存在する術は、それに依存していないことになる。

情報結晶も使っていないとすると、、、神の力?


などと考えていると、ミオが口を開いた。

「…自分たちの神への信仰心、でしょうか?」


「その通りです。私たちの術は、神への信仰心をエネルギー源としているのです」水琴さんが優秀な生徒を褒めるように微笑んだ。


「術を使う巫女は年を経る毎にその力を失っていきます。それは、霊力を失ったから、もしくは、若いうちしか術は使えないもの、と思われてきました。しかし、おそらくその原因は、神への共鳴力の喪失、であると私は考えています」


俺はやっと言いたいことが見えてきた、という顔をして頷いた。


「力のある巫女でいられる期間は短い。それ故に私たちは幼少の頃から厳しい修行を積み、常に組織の若返りを命題としてきました。しかし、そこには大きな歪みや限界があることも事実です」


「しかし、情報魔法技術の発達により、私たちは新たな可能性を見出しました。情報結晶やその他の技術を用いることで、神への共鳴力を補完し、巫女の力を長く保つことができる。引いては、私たちの組織の健全な存続にもつながると考えています」


「…なるほど」俺は感心したように頷いた。


水琴がハタと気づき、少し笑った。

「...すみません、話が長くなってしまいましたね」


「なので...双方異なる文化を持っているとは思いますが、今後とも私たち神社組織と、遺跡探索者などの皆様との協力関係を築いていければと思っています」


「はい、もちろんです。こちらこそよろしくお願いします」俺は答えた。


「残念ながら、一部の企業の方々は、私たちのことをあまり良く思っていないようですが...」水琴さんが少し苦笑した。


フェンリルの指揮官の顔が思い浮かび、俺は苦笑した。

「まあ、どの業界にも色々な人がいますからね」俺が答えた。


「はい。そして私たちの組織も一枚岩ではなく、この件については内部でも割れているのが現状です」水琴さんが言う。


「なるほど、そうなんですね」俺は頷いた。


「ですが、私たちはそのように思っているということを、まずはお伝えしたかったのです」水琴さんが強い意思を込めて言った。


「はい、これまでも仲良くさせてもらっていますし、これからもぜひよろしくお願いします」俺は深く頷いた。

「俺達にもできることがあれば、ぜひ協力させてください」レオも力強く言った。サクラとミオも頷いている。


「ありがとうございます」水琴さんが微笑んだ。


## 4. 筑波掃討計画と『鍵』の存在


それから、水琴さんはお茶を一口すすると、外の賑やかな境内の音に耳を澄ませているようだった。


そして、再び口を開いた。

「もう一つ、お伝えしておきたいことがあります」


舞さんがチラッと水琴さんを見た。


水琴は続ける。

「私たちの使命は、関東の...日本の霊的な調和を保つことです。今、一見平和に見えますが、いつこの前のような大規模な魔物災害が起こるか分かりません」


頷いた俺を見て、水琴さんは真剣な表情で言った。

「そこで私たちは、筑波の汚染遺跡を掃討することを計画しています」


「筑波の汚染遺跡の掃討?」俺は驚いた。


「はい。あの遺跡は、かつて大規模な魔物災害を引き起こした場所です。現在も多くの魔物が生息しており、周辺地域に危険を及ぼしています。私たちは、その遺跡を完全に掃討し、再び同じような災害が起こらないようにすることを目指しています」


「舞の紹介で桜井博士の話も聞きました。前回のクジラも、あの筑波遺跡に棲む魔物が関与している可能性が高いと私は考えています」


「なるほど」俺は頷いた。確かに、あそこまで成長するには、相当なエネルギーが必要だろう。循環阻害魔法の影響があったことは間違いない。


「各実戦チームの成長と、情報結晶の調達と運用訓練も一定の成果をあげています。10年前と比べれば、私たちの戦力は格段に向上しています」


確かに、舞さんたち斎チームの他にも、関東には複数の実戦チームがあると聞いている。さらにあの水琴さんの力は圧倒的だ。

魔物に対して相当な戦力であることは間違いない。とはいえ、相手の力は未知数だ。俺は少し不安な気持ちになった。


「ですが、何かまだ足りないのではないか、そんな思いが私にはあります」水琴さんが言う。


「自分ひとりの命なら構いません。しかし、多くの人の命を預かる立場としては、失敗は許されません。だからこそ、慎重に、そして確実に準備を進めていきたいのです」


「…なるほど」俺は頷いた。


「そこで、もし可能であれば、ハルトさん、何かアドバイスを頂けないでしょうか?」水琴さんが真剣な表情で言った。


水琴さんの真摯な問いかけに、俺は思考の渦に沈んだ。

アドバイス…? 俺に一体何が言える? 桜井博士から情報を得ているのなら、俺が付け加えられることなど何もない。戦闘の専門家でもない俺が、彼女たちのようなプロに何を助言できるというんだ。


脳裏に浮かぶのは、たった一つの可能性。

――プリエス。

『情報魔法を使うAI』。大崩壊以前の、失われたはずのロストテクノロジー。

この存在を明かせば、状況は一変するかもしれない。プリエスの超絶的な解析能力なら、鉄壁とされる筑波AIの防御システムに脆弱性を見つけ出せるかもしれない。クジラを操ったあの時のように、筑波のシステムそのものに干渉できる可能性だって、ゼロではないはずだ。


しかし、それはあまりにも危険な賭けだった。

親方の『存在しないことになっている技術』という警告が、脳内で警鐘のように鳴り響く。政府の秘密機関『管理室』の影。目の前の水琴さんが、その組織と無関係である保証はどこにもない。むしろ、これほどの力を持つ神社組織が、政府と無関係だと考える方が不自然だ。

プリエスのことを話せば、俺たちは、そしてプリエス自身が、二度と自由を手にできなくなるかもしれない。最悪の場合、プリエスは研究対象として分解され、俺たちは口封じに…。


だが、このまま沈黙を保つことが正しいのか?

もし、俺が情報を出し惜しみした結果、彼女たちの作戦が失敗し、多くの命が失われたとしたら…? その責任の一端は、間違いなく俺にある。


思考の袋小路で、俺は無意識に隣に座る仲間たちの顔を盗み見た。

レオは、腕を組んで静かに俺の言葉を待っている。その目は「お前を信じる」と語っていた。

サクラは、緊張した面持ちで固唾を飲んでいる。だが、その瞳の奥には不安よりも信頼が強く灯っていた。

ミオは、ただ真っ直ぐな瞳で俺を見据えている。その静かな眼差しは、どんな言葉よりも雄弁に「あなたの判断を信じます」と告げていた。


『ハルト…』

肩の上で、プリエスが俺の名前を小さく呟いた。彼女もまた、俺の葛藤を感じ取っている。でも、決して口出しはしない。ただ、その存在そのものが「あなたが決めてください」と、全幅の信頼を寄せてくれているようだった。


…そうだ。俺は一人じゃない。でも、決めるのは俺だ。俺が、このチームのリーダーなんだから。


俺はゆっくりと顔を上げ、水琴さんの射抜くような視線を真っ直ぐに受け止めた。


「アドバイス、と言えるような大層なものはありません。ご存知の通り、俺たちはただのしがない遺跡探索者ですから」


まずは謙遜から入る。水琴さんの表情は変わらない。静かな圧力が、なおも俺に答えを促している。俺は一つ息を吸い、覚悟を決めた。


「ですが…一つだけ、先のクジラとの戦いで俺たちが学んだことがあります」


「と、申しますと?」水琴さんの声に、わずかに興味の色が滲んだ。


「俺たちがクジラを討伐できたのは、フェンリルのように強大な『力』で正面からねじ伏せたからではありません。むしろ、その逆です。俺たちは、水琴さんの『力』の象徴であったあの龍…その龍を動かす根本的な『理(ことわり)』、つまり制御システムそのものに干渉することで、結果的にクジラを討つことができました」


俺の言葉に、水琴さんの目が鋭く光った。彼女ほどの人物が、俺の言葉の真意――それがただの精神干渉魔法の話ではないこと――に気づかないはずがない。


「これは、相手を力で破壊するのではなく、相手を成り立たせているルールそのものを解析し、利用するアプローチです。だからこそ、筑波という、我々の常識が一切通用しないかもしれない相手には、まずその存在がどのような『理』で動いているのかを『知る』ことから始めなければ、クジラの二の舞になるのではないでしょうか」


プリエスの存在を直接明かすことなく、俺たちの持つ力の特異性を、慎重に、しかし明確に伝える。これは賭けだ。この曖昧な言葉の真意を、彼女がどう受け取るか。


水琴さんは、しばらくの間、俺の目をじっと見つめていた。その深い瞳が、俺の言葉の裏にあるものを探っているのが分かる。やがて、彼女はふっと息を吐き、初めてその唇に、かすかな笑みを浮かべた。


「…『理を知る』、ですか。面白いことを仰る。では、ハルトさん。あなた方なら、どうやって筑波の『理』を知ると?」


さらに踏み込んできた。試されている。ここで引くわけにはいかない。


「そのための『鍵』を、俺たちは持っているかもしれません」

俺は、腹を括って答えた。

「ですが、それはまだ、俺たち自身にも完全には使いこなせない、諸刃の剣です。下手に使えば、扉を開ける前に、俺たち自身がその鍵に喰われてしまうかもしれない、危険な代物です」


俺の答えに、水琴さんは満足そうに頷いた。探るような視線が、確信へと変わっていくのが分かった。

「結構です。今日のところは、それで十分」


## 5. 対等なパートナーシップ


彼女は立ち上がると、俺たちの前に進み出て、深々と頭を下げた。


「ハルトさん。そして、チームの皆さん。改めて、正式に依頼します。来るべき筑波掃討作戦において、あなた方には、我々の『目』となり、我々が進むべき道を照らしてほしいのです。あなた方が持つその『鍵』の力、我々のために使ってはいただけませんか?」


それは、単なるアドバイスを求める言葉ではなかった。対等なパートナーとして、共に戦ってほしいという、正式な協力要請だった。


「…はい。俺たちにできることなら」


俺がそう答えると、水琴さんは顔を上げ、力強い笑みを見せた。

「ありがとうございます。心強い仲間ができました。作戦の具体的な日程が決まり次第、改めてご連絡します。…未来の、ために」


その言葉は、俺たちの胸に、新たな決意の火を灯した。

初詣の喧騒が、どこか遠くに聞こえる。俺たちの新しい年が、そして、本当の戦いが、今、始まろうとしていた。

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