第14話
014
魔法の検証を終えた三人は探索を進めていくと、沙希が精霊の案内係を見つけたという。
今度はちょっとした岩山のところらしい。
三人でその岩山の前に行くと前回と同様に沙希とみなみが精霊に挨拶をし、ロベルトも続いて挨拶をした。
そしてロベルトがまた精霊に気に入られ、ロベルトの頭の上に精霊が停まっている状態で、しばし沙希と精霊が言葉を交わす。
一瞬、沙希の視線がチラッとロベルトに向けられ、沙希は再び視線を戻して精霊と会話を続ける。
鈍いロベルトでも流石に理解した。
自分に関する質問をされている、と。
沙希は精霊から何を質問されたのか?
そのことをロベルト本人に言わなかったのはきっと沙希の優しさなのだろう。
だがロベルトは沙希の返答する内容で、精霊から何を聞かれたのか分かってしまった。
また森の住人と間違えられているようだ。
ロベルトはそんなのが森にいるなら、一度会ってみたいと思いながら沙希と精霊の会話が終わるのをしばらく待つ。
沙希はおおよそのことは聞き終えたようで、精霊に案内され岩山の奥に歩みを進める。
三人が岩山の前に立つと前回同様、炎のアーチが現れ、洞窟の入り口のような穴が現れた。
そのまま中に入ると、ここもさっきと同じく虹色の空間になっていた。トンネル内で精霊の姿が明らかになり、今回は小さな熊の容姿をしてとても愛らしい姿。
精霊達は皆、容姿に沿った特性や趣向があるらしく、案内してくれている精霊も熊に似てハチミツが好物で、二人の話を聞くと普段は森でハチミツを探しているようだ。
その精霊トンネルを抜けると、想像してなかった光景がロベルトを迎える。
トンネルを抜けるとそこは何故か水の上。
出口を出た三人は水の上に立っていた。
精霊の話では出口付近だけは水の上に立つことが出来るらしい。
それから沙希とみなみが精霊と少しだけ会話し精霊とお別れをした。
周りを見渡すと、ずっと奥の方ではあるが陸地が見えているので、ここは規模が大きい湖だということが分かった。
「沙希ちゃん。せっかくだからぽよんぽよんで移動する?」
「賛成賛成!おいたんもぽよんぽよんで遊ぼう!」
「え?ぽよんぽよん?」
「おいたん見てー!ほらこうやるんだよー」
「うおー!すげー!何それ何それー?」
みなみのいう『ぽよんぽよん』とはシールドブロックに反射の魔法を付与し、それを使ったジャンプのこと。
ちなみにシールドブロックはいつもの半透明のものではなく、少しだけ水色が混じった色をしている。
魔力と衝撃に反応し、魔力を足に集中させてその上に乗るとトランポリンのように跳ね返す。
勿論、足だけではなく手や身体に魔力を纏わせて触れれば、その魔力に応じて反射。
魔力を纏わない状態でも、衝撃に応じて跳ね返す性質があるのでマリオのジャンプ台のようにも使える。
ロベルトはみなみが何度もマリオジャンプしているのを見て、感情が高ぶりすぎて意図せず声が裏返ってしまう。
見たまんまマリオジャンプだ。
まさに――ぽよんぽよん。
今にもジャンプ音が聞こえてきそうだ。
沙希も同じようにジャンプ用のシールドブロック――ジャンプブロックを作り、二人でその上を何度も跳ね上がる。
この時点でやってみたくてウズウズしていたロベルトは早速、沙希とみなみにやり方を教えてもらいやってみることに。
「ぐぬぉぉぉおおおおー!力加減間違えたぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」
「あははは。おいたんが水に落ちたー!」
「顔面からいったよー!おいたん大丈夫?」
「ガハハハハ!これマリオじゃんマリオ!子どもの頃やってみたかったんだよなー」
「じゃあじゃあ。沙希たちがジャンプブロック作るからマリオごっこしよう!」
「おう!こう見えても俺、マリオ得意だから負けねーぞ!」
「ふっ。雑魚が何か言ってらー!」
「言ってらー!おいたんには負けねーから」
沙希とみなみがランダムにジャンプブロックを作っていき、それに乗ってジャンプ。
くるくると空中で身体を回転させたり、トランポリンのように座った状態でジャンプしてみたりと三人は勝負するはずが楽しく遊んでいた。
ロベルトも陸地に着く頃には上達しており、ジャンプだけではなく弾丸のように水面に平行して飛んだりも出来るようになっていた。
それをやる度に湖に落ちるのだが、そこは気にしていないようだ。
▽▼▽
三人は森の中へ入って探索を再開。
しばらく森の中を走っていると、沙希が突然足を止め、無言で何かを見つめている。
ロベルトが沙希の視線を辿ると、視線の先には立派な盾を持ち仁王立ちをしている、三頭身ほどの毛むくじゃらの生物――モンゴリ。
そう。
沙希とみなみがロベルトに初めて会った時に間違えた生物。
沙希とみなみは実際に見るのは初めてだ。
このモンゴリという生物は世界的にも一部の人間にしか知られてはいない。
とても希少な生命体。
何故二人が知っているかというと、沙希の父親が事あるごとに最強の一族と写真を見せて自慢するからだった。
目の前にいるモンゴリは二人が見せられた写真のモンゴリ達より身体は小さい。
だが改めて見てもやはりロベルトにそっくりだった。
ムキムキの筋肉に渋い顔面。
愛くるしい頭身と仕草。
そして驚愕なのが彼の顔がロベルトにそっくりだということだ。
そして突然のロベルトに似た生物の登場にコメント欄が湧く。
『小さいロベルトやんかww』
『ロベ兄にそっくりで草』
『イケメンなのにかわいい』
『草草草』
『お互いびっくりし過ぎて固まったw』
『もう兄弟やん』
珍しく沙希とみなみが驚愕し言葉を失う。
そしてロベルトもまた、全身に鳥肌が立つほど衝撃を受けていた。
向こうもロベルトに気付いており、自分と同じ顔を持つロベルトに驚いているようだ。
ロベルトとその毛むくじゃらの生物は無言でしばらくの間、見つめ合う。
同じ顔が種族を超え、森の中で出会った。
まさに奇跡的な出会い。
それから二人は惹かれ合うようにお互い歩み寄っていく。
ロベルトが腰を落とし手を差し出すと、向こうも手を差し出し――握手を交わす。
どうやら知的な生物らしい。
握手を終えると毛むくじゃらの彼はロベルトの背負う盾に興味があるようで、盾を見て興奮しながら何やら分からない言葉を発していた。
そんな彼にロベルトは盾を外して渡す。
ロベルトもまた彼の持つ盾に興味を持ち、目を輝かせていると彼はロベルトに盾を渡してくれた。
ロベルトは盾を手に取り、じっくりと観察。
初めて見る素材。
触れてみると膨大な魔力を内包しているのが分かった。地球上では見たことのない盾であり、裏には精巧な模様が刻まれている。
刻まれた模様を魔力が循環しており、まるで盾自身が生き物のようにも見えた。
それに部分が無く、どう使うのかロベルトが首を傾げていると、彼が使って見せた。
「うおー!すげぇー!」
思わず声を上げるロベルト。
盾が空中に浮かび自由自在に移動。
毛むくじゃらの彼の意思で操作しているようで、喜ぶロベルトを見て毛むくじゃらの彼は満足気に笑う。
その様子を沙希とみなみは少し離れた場所で見守っていた。
「ねー沙希ちゃん。あの子って――」
「うん。父上が言ってた守護者だ!すげぇ本当にいたんだ」
守護者――
精霊でもあり実体を持つ生物。
彼らは強靭な肉体と膨大な魔力を持つ生物で、昔沙希の父親が助けられ友誼を結び、モンゴリ一族に弟子入りしたと二人は何度も何度も聞かされた。
守護者と呼ばれる彼らは精霊を魔物等から守る種族であり、精霊が住む場所には必ずいるという。
沙希の父親曰く、彼らは最強の戦士。
沙希の父親が現役だった頃、弟子入りし、修行をつけてもらったと話をしているくらい彼らは強い。
ロベルトはそんな最強の戦士と身振り手振りを交えながら交流していた。
その様子を見る限り、お互いに戦士として認め合っているようにも見える。
そんなやり取りが落ち着くと、彼が身につけていた首飾りをロベルトに手渡す。
受け取ったロベルトは頭を下げ御礼。
そしてロベルトも着けていた首飾り――ではなく肩こりように磁気ネックレスをしていたのでそれを外し、お返しにと彼へと手渡した。
毛むくじゃらの彼はぴょんぴょんと跳ね回り身体全体で喜びを表し、最後にロベルトとハグをして森の中へと帰っていく。
見えなくなるまで何度も後ろを振り返り、手を振る姿はとても愛らしかった。
「おいたん。すごいもの貰ったねー!」
「え。首飾りじゃないの?これ」
「違うよー!配信じゃ言えないから後で教えるねー!」
「あ。なるほどね!了解」
配信にて公表する情報、公表してはいけない情報は全て沙希が把握している。
その辺は事前に麗奈から教えられていた。
ロベルトは空気を察し貰った首飾りをすぐに着衣の中へとしまう。
▽▼▽
一方その頃。
沙耶の家では泣き止んだ雫と沙耶の二人でロベルトの配信を見ていた。もちろんリビングには家具ひとつ何も無い。
時折、雫が首を傾げ不思議そうな眼差しで、食い入るように画面を見ている。
その場面はちょっとした岩山で沙希と精霊が話をしている場面だ。
「ん。沙耶、私おかしくなったかも」
「雫ちゃんは前からおかしいのです」
「違う違う。あのね、沙希ちゃんが誰かと話をしている声が聞こえるんよ」
「わぁ〜すごいじゃないですか!じゃあじゃあ今、何の話をしているかわかるのです?」
「うん。何かロベ兄を『森で見た時ある、モンゴリ一族の人なの?』って言ってる」
「すごいのです!すごいのですよ雫ちゃん。ちゃんと合ってます。合ってます」
「え」
「どうしたの?」
「沙耶も分かるの?」
「あ、あ。あーやっちゃいましたか。うん、これやっちゃったってやつなのです!失敬失敬。あっ!でもでも。沙希ちゃんがお話をしているところを配信で流しているという事はれい姉の許可が出てるという事ですね。セーフセーフ。やっぱりこのダンジョンは精霊さんの案内なしでは難しいですもんね。それに――」
「――沙耶、沙耶。止まって?」
早口で捲し立てるように独り言を呟く沙耶を雫は身体を揺らし何とか制止。
雫が改めて聞き直す。
沙耶も精霊の声が聞こえているのかと。
沙耶は頷きで応え、それから沙耶は言葉を選びながら話した。
まず精霊の件。
沙耶は正直どこまで話をしていいか分からない、と雫に謝罪をした。
配信してある情報は多分事前に麗奈が許可を出しているから問題ないだろう。
そして沙耶は今回精霊の情報を配信したのは麗奈の考えがあって公にしたと思っている、と伝えると。
「ん。私もそう思う。麗奈さんは麗奈さんの考えがあって動いてる。あの人はそういう人。だから精霊のことは詳しく聞かなくていい」
「でもでも」
沙耶は雫のプラスになる情報ならちゃんと伝えたい。
しかし沙耶にはその判断が出来ない。
二人でタブレットを見つめながら――しばらくの間沈黙が続く。
その間、どうすれば良いのか沙耶は考えを重ねた。結果、麗奈に相談することにした。
沙耶は携帯を手に取って麗奈へと電話を掛ける。
麗奈に話をするとすぐに返答を貰えた。
恐らく事前に想定されていたのだろう。
まず麗奈から秘匿情報、伝えてもいい情報を明確に説明され、次に雫が不安にならないように精霊の情報をこんな風に伝えなさいとレクチャーを受ける。
最後に村以外の人で精霊の存在を認識した人物は初めてなので暇な時に研究室に来て欲しいと頼まれた。
麗奈との電話を終えようとすると、雫が麗奈にライトセーバーの件で御礼がしたいというので沙耶は雫に電話を渡す。
電話を代わった雫は再び感情が溢れだし、号泣しながら麗奈に御礼をするというカオスな状況となってしまう。
正直、最後の方は沙耶には雫が何を言っているか分からなかった程、酷かった。
電話を切る時に麗奈が笑っていたから、沙耶はとりあえず安心した。
「あー。せっかく泣き止んだのに、雫ちゃんまた泣いてるのです!そんなに泣いたら目が腫れちゃうのですよ!」
「だってだって、嬉しかったんだもん!」
「うんうん。そうだよね、嬉しいよね。じゃあもっと雫ちゃんが喜ぶお話をしよう?」
「ん。精霊のこと?」
「正解なのです!」
それから沙耶は精霊について説明をした。
まずは麗奈に言われた通り、雫の不安を取り除くべく精霊の存在を認識できる者――つまり存在を感じる、声が聞こえる、視認できる者にとって精霊は安全な生命体であることを伝えた。
沙耶は麗奈の言葉通り伝えたが、これは裏を返せば、認識出来ない者にとっては危険ともいえる。
それに加えて認識出来るようになれば、体内のマナが変質し魔法の質が著しく向上すること伝えた。
「え。そうなの?」
「うん。沙希みなちゃんたちも小さい頃に精霊が見えるようになってから魔法が上手くなってたよ!他の人もそうだったし。何でそうなるのか忘れちゃったけど」
「ん、そこが一番大事なとこ!」
「へへへ」
「笑ってごまかすな」
沙耶は小さい頃、その類の話を聞かされているのをしっかりと忘れていた。
村に伝わる話では精霊のマナや声、姿に対象者の体内マナが反応・覚醒し、変質。
体内マナが精霊に近いものとなって、今まで認識出来なかった精霊の存在を認識出来るようになるという。
沙耶の説明は続き、精霊と会った時のことについて話をしていく。
この部分は沙耶の実体験を元に話をした。
精霊は基本的に警戒心が強く、特に人間に対しては過去のこともあり基本、接触は困難。
そんな中でも近寄って来る精霊というのは居て、それはマナの相性が良かったり、好奇心の強い精霊で、もし会ったら初対面の人間と接するようにすれば大抵は話をしてくれる。
また精霊は感情の濁りがマナは通して見えるので、悪意を持って接触するとそれ以降は精霊を認識出来なくなる可能性がある、と伝えると雫が目を輝かせる。
「すごーい!超能力みたい。あっ、でも」
「大丈夫なのです!雫ちゃんのマナはとっても綺麗なのですよ!」
「え。沙耶も見えるん?」
「あ、あー。また……い、い、今のは無しなのです!」
「ん。了解」
察しのいい親友。
沙耶のポンコツはその後もちょくちょく露呈し、麗奈からまだ話をしては駄目と言われていることをつい話をしてしまう。
その度に雫は聞かなかったことにした。
しかし中々の早さで積み重なっていく沙耶のやらかしに罪悪感に耐えられず、最終的には雫が沙耶の話を止めて、二人で麗奈に謝りに行こうという話に落ち着く。
こうして二人は微妙な空気の中、ロベルトの配信を見続けた。
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