第13話
013
三人は昼食を食べるため、とある場所へと移動。
沙希とみなみがいうには、この付近に一つだけ飛び抜けて高い木があるらしい。
という訳で少し歩いていると、目当ての木が見えてくる。その木は何でそうなったの?という位に大きかった。
目的の木に着くと壁か崖じゃないのかと見間違えるほど立派で直径は十メートル近くあった。
三人は魔力糸を使いサクサクと木を登っていくとみなみが目を輝かせ、
「沙希ちゃん!この辺良さそうじゃない?」
「いいじゃん!ここにしよう」
「え。何すんの?」
「ツリーハウスだよ!おいたん」
「木に秘密基地つくるんだよー!」
「まじかよ!それって最高じゃん!」
木の高さの丁度半分くらいの位置。
周辺の木の頂上が見えるか見えないかという位置にツリーハウスを作るという。
作るといっても実際に木材で家を作る訳ではなく魔法で作っていく。まずは良さそうな大きな枝の上にシールドブロックを床代わりに敷き詰めて、その上に二人が土魔法で壁と天井を作った。
床がシールドブロックなので木の負担はないらしい。それから二人は魔法で壁と天井に色を塗っていくとあっという間に十畳くらいの部屋が出来上がり、壁の一面だけは透明で森を一望できるようにしてあり、ちょっとしたリゾートに来ているような気分になる。
それから沙希は魔法鞄からソファー、テーブル、ラグマット、食器棚を取り出してセットしていく。
「みんなー見てー見て!沙耶姉のねお部屋を再現したんだー!」
「そうそう!ソファーとかも全部沙耶姉のお部屋から持って来たんだよ!」
「いつもこの辺にお酒の缶並べてるんだ」
「でねー。いつも沙耶姉はこんな体制で寝ながらタブレット見て飲んでるんだー!」
『お部屋再現は草』
『ありがとう沙希みなちゃん』
『可愛らしいお部屋w』
『再現たすかる』
ロベルトは再現された沙耶の部屋を見て、素直に可愛らしいと思った。
ふかふかのソファーにお洒落な真っ白いテーブル。もこもこしているピンクのラグマットに食器棚があって観葉植物まである。完全に女の子の部屋だ。
二人は小学生の頃、麗奈が持っていた魔法鞄にリビングの家具一式を入れて遊びに行き、麗奈にしこたま怒られた過去がある。
その経験を踏まえて、今回は沙耶の家の家具を持って来ることにしたようだ。
三人はとりあえず用意したソファーに座り、正面の森の景色を眺めてみる。旅館とかに来ている気分が味わえて満足感が高い。
それから二人は大人の気分を味わってみたかったらしく、食器棚からティーカップを取り出して紅茶を飲む。結局はやっぱりご飯とかジュースの方が好きという話になり昼食にすることにした。
今日の昼食は大輝の作った特製カレー。
一昨日大輝の店に行った時、沙希とみなみがリクエストした辛くないカレーだ。
沙希が魔法鞄から朝ロベルトが持って来た特大の保温弁当箱を取り出し、持って来た食器へと移す。
せっかくなのでお家で食べる時のように食器とスプーンで食べたいらしい。
「やきとりたん!美味しいよー」
「うんうん!やきとりたんカレーもお店に出したらいいのにー!」
「美味っ!止まんねーんだけど!」
配信画面は違和感満載だった。
ふと見ると三人がソファーに座ってカレーを食べている映像なのだが、視点をずらすと背景がダンジョンを見渡す絶景。
床部分が半透明で宙に浮いてる状況。
誰も見たことのない食事風景にコメント欄は賑わっていた。
▽▼▽
三人は昼食を終えると再び探索を進める。
精霊トンネルを出てから、ダンジョンの奥地ということもあって魔物の数が多い。
そんな中、深層域で魔法を操る魔物――コカトリスが現れた。
ロベルトは沙希とみなみに強請られて、魔法を投げ返すやつを見せることになった。
ロベルトは配信していない時はこれをよくやっているが、配信ではあまり使ってきてない。
理由は脳筋というイメージが加速するのを恐れてだという。
コカトリスは三人に気付くとすぐに魔法を放って来た。流石、深層域の魔物。反応と殺意が高い。
魔物は飛行しながら炎の魔法を放つ。
バスケットボールほどの炎の塊が高速でロベルトに向かってくる。
炎が唸るような不気味な風音を響かせ空気が揺れ動く。
迫ってくる炎の塊に対してロベルトはどっしりと体制を低く構え、まず炎の塊を左手で自身の身体に迎え入れるように触れ、次に右手でしっかりとホールド。
次の瞬間「どりゃっっせっぃい」という気合いと共に足を軸に身体を一回転させ、右手で魔物へと炎塊を投げ返す。
魔物には当たらなかったが、その反応を見れば驚いているのが一目で分かるほど何度も首を左右に揺らし動揺していた。
「すごいよおいたん!魔法掴む人初めてみたー!すげー」
「ほんとすごかった!飛んできた魔法より早く返してた!おいたん天才だよー」
「そうか?へへへ。褒められると嬉しいもんだな」
ロベルトの行動にコメント欄が湧く。
そしてロベルトが心配していた通り、脳筋を指摘するコメントと大量の草が生える。
その後、コカトリスは上空から何度も魔法を放つがロベルトが投げ返していると、魔物は諦めたかのように逃げていった。
ロベルトはまだ狙ったところに投げ返すのは苦手なようだ。
「おいたん。やっぱりおいたんのコレ、魔法だよー!手のひらに魔力が集中してた」
「え」
「そうそう!多分だけど放出系だと思う」
「俺、魔法使ってた?まじかー!」
「そうなんよ。――こらーコメント欄!おいたんのこと脳筋いうなやー!」
「そうだそうだ!草でも食ってろー!」
近くで見ていた沙希とみなみが魔法と断言。
ロベルトの魔法を掴んで投げ返すという、一見ゴリゴリの脳筋に見えていたロベルトの行動――実は魔法だったことが判明。
そこで試しに効果範囲と魔法の詳細を検証してみようという話になり、沙希が少し離れたところへ指先くらい小さな水球の魔法を繰り出す。
ロベルトを中心に水球で囲むように、三十以上の小さな水球がランダムに宙に浮かぶ。
そして沙希から水球に『落ちろ』とイメージしながら手をかざすように指示を受け、ロベルトはぷかぷかと浮かぶ水球に対してやってみた。
するとロベルトに距離の近い水球からぽとぽとと落ち始め、最終的にはロベルトから五メートルの範囲内にある水球が全て地面へと落下。
ロベルトは自分がやったことに驚き、沙希とみなみへと振り返って質問する。
「え。どゆこと?」
「おいたんの魔法ってことだよー!沙希ちゃんの魔法に上書きしたんだと思う」
「うんうん!多分それ。おいたん無意識に魔法を放出してた。魔法が具現化してないだけでちゃんとした魔法。すごい魔法だよー!上書きなんて初めて聞いた」
「そうだよー!おかあたんの予想通りだったねー!」
「いいなー!沙希も使ってみたい」
それから三人で検証を重ねていく。
まずロベルトの魔法が効果があるのは、やはり魔法で生成した物だけだった。
自然の中にある石には効果はなく魔法で作った石には影響を及ぼす。
そして火や水だけでなく、他の属性を持つ魔法にも効果が出たので試してみたら、全ての属性に対応できることが分かった。
ちなみに沙希とみなみが作ったシールドブロックもロベルトは自由に動かすことが出来て喜ぶ。
その一方でロベルトが放出系の魔法を使えることに、古くから見ている視聴者達は盛り上がっていた。
『くそ魔法士協会の奴ら見てるか?』
『魔法士協会公式は謝罪文だせ』
『おい見てるか魔法士協会の東條』
『脳筋って言ってた奴ら謝ろうな』
『魔法士協会の魔法研究室が無能すぎて草』
『沙希みなちゃん有能すぎるw』
等々、過去にロベルトのことを色々と言って来た輩に対して視聴者の不満が爆発。
色々と肩身の狭い思いをしたのだろう。
コメント欄がそんなコメントで埋め尽くされていた。
「おいたん。みんな何で怒ってるん?」
「ん?あーコメントにあるやつか。昔、ボロクソに言われたからかもな」
「魔法士協会ってこないだの人達がいるところでしょ?昔から最低だったんだー!」
「そう。でもまぁ、その時も麗奈さんが色々対処してくれて本当に助かったよ」
魔法士協会とロベルトの因縁。
ロベルトは去年の混合チーム戦を終えた後、魔法士協会の公式会見でボロクソに批判され意図的にヘイトを向けられた過去がある。
実際は魔法士協会の魔法士達の経験不足が原因で、参加した魔法士達は連携が全く出来ず、ロベルトはそれらをカバーしていたのだが、連携が出来ない魔法士達に批判が集まることを恐れた役員が目眩しにロベルトを利用し、ロベルトにヘイトが向かうように仕向けた。
その時ロベルトに対し「今時魔法が出来ない」「編成に脳筋は不用」「魔法士を守れていない」「役不足」などと公式会見で批判。
要は失敗に終わった混合チーム戦の責任を全てロベルトに擦りつけたのである。
だがロベルトは当時全く気にしていなかった。というのも、現場に来たこともない人に言われても、と相手にすらしていなかった。
しかし探索者界隈、それとロベルトのファン達は当時の怒りが再び甦り、SNS上で炎上が再燃するほど大きく燃え広がっていく。
ロベルトが放出魔法を使っていた事実が明るみになり、過去の会見での的外れな批判が蒸し返され、時を経て魔法士協会に対して再び大きなヘイトが向かう。
この時点でかなりの数のクリップが作られ拡散。魔法士協会は既にかつてないほど炎上していた。
▽▼▽
三人でロベルトの魔法を検証していた時、麗奈は透と会議室のモニターでその検証を見ていた。
「ふふ。ロベルト君は本当に面白いわ。魔法を投げ返すなんて」
「彼が望んで創り出した魔法かもね。大したものだよ」
「兄さん。望んで、というのは?」
「気付かないか麗?魔法の効果範囲だよ」
「あーなるほどね。パーティーの陣形が丁度収まる範囲内ということね」
「そう。魔法攻撃からパーティーを守りたいという強い意志が上書きなんて規格外の魔法を産んだのだろう」
「ふふ。盾士なら普通はシールド系の魔法を使うはずなのにロベルト君は先に身体が動いちゃうタイプだから掴む方向で魔法が育ったのかしら」
「だろうね。本当にロベルト君は研究対象として興味深い人物だよ。久しぶりに楽しくなりそうだ」
二人はロベルトの魔法について楽しそうに議論を重ねていく。
ロベルトが認知してない状態で効果範囲が五メートル。認知した状態から魔法の育て方次第ではまだまだ範囲を広げることが出来るはず。
二人はそんな風にロベルトの育成計画を議論しながら本人のいないところで計画を進めていく。
それから魔道具によるサポートで遠距離にロベルトの魔法を飛ばす方法を二人で模索。
しばらくの間はロベルト専用の魔道具開発に力を入れていく方針で研究をする予定だ。
麗奈と透が議論を交わしていると、SNSを表示しているモニター画面が赤色表示になり、それに麗奈が気付く。
「あら魔法士協会がまた炎上してるみたいよ。でもこれが最後の炎上になるのかしら」
「こないだの件もあるからね。弦翁様も動いているし組織の対応次第では存続もあるだろうけど、まぁ次の人選は決まっているし流石に無理だろうね」
「本当に愚かだわ」
透の意味深な発言に対して麗奈が呆れた様子で呟く。
今回炎上している件。
実は過去、ロベルトが魔法士協会から批判された時、探索者協会は同日に魔法士協会の会見での批判は的外れであると声明を出し、ロベルトの行動について多数の解説動画をアップ。
ぐうの音も出ない正論と共に魔法士協会に対してロベルトに対する発言の撤回と謝罪を求めていた。
この時に解説をしていたのが麗奈である。
この声明後、ロベルトに対する批判は無くなり逆に魔法士協会に対する批判が多く集まっていた。
しかしここで魔法士協会が反論。
当時魔法士協会にいた天下り役員が国会議員達を使って国会で探索者協会を批判。
これが悪手となり麗奈の怒りを買った。
しばらくすると何故かその国会議員と魔法士協会の役員達との癒着、数々の賄賂の証拠が明るみになり、その役員達は逮捕されている。
その後魔法士協会は役員の逮捕もあってか、ロベルトの件についての撤回と謝罪もなく、探索者協会への謝罪もない状態で一年近くも有耶無耶にしたまま現在に至っている。
そんなこともあって探索者協会と魔法士協会の間には少なからず因縁があった。
それから二人は配信を見ながら会話を続けていると透が思い出したように麗奈に提案。
「そういえはロベルト君を修行という名目でうちの村に遊びに来て貰うのはどうかな?」
「いいの?私もみなみと沙希ちゃんが寂しがるかと思うから賛成だけど、ほらうちの村色々と決まり事があるじゃない?」
「うん、まぁね。それは弦翁様に相談してみるよ。でも彼なら大丈夫だと思う」
麗奈の住む地域はかなり特殊な地域で、外部に情報が漏れないようにと色々な決まり事がある。
外部の人間を地域に招き入れること自体が珍しく、また地域に行こうとしても、まず行くことは出来ないだろう。
S級特別地域。
そう呼ばれている国内で幾つかある情報秘匿地域。総理大臣さえも魔法誓約をもって漸く詳細を知らされる地域でもある。
一般の人も名称だけは知ってるがその場所も、そこに何があるかも知られていない。
「兄さんがそういう話をする時は大体精霊のことが多いけど、精霊とロベルト君に関係することよね?」
「それもあるけど――ほら見てごらん。こんな楽しそうな二人を見たの久しぶりだよ!」
「本当妬けちゃうわよねー!昨日は久しぶりに私と遊ぶ予定だったのに二人ともロベルト君と一日中遊びに出かけてたのよー!」
「ははは。親離れかな?」
「まだ早いわよ!」
昨日の休みの日。
沙希とみなみ、そしてロベルトの三人は身体休めの為の休日にも関わらず一日中遊んでいた。
といってもダンジョンに潜ったり、身体を動かしたりはしていない。
三人が行ったのは遊園地だった。
沙希とみなみはこれが初めての遊園地。
アニメでしか見たことない乗り物に大興奮し、声が枯れてしまうほど笑い、そして遊んだ。
ロベルトも探索以外では初めてという位に楽しんでおり、とにかく笑い疲れた一日だった。
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