第2話 勝て、倒せ、王になれ

「パパ」


「勝て、倒せ、王になれ」


 親父のブレッド・トランペットは、これまで俺たちが何度となく聞かされてきた言葉を口にした。トランペット一族には勝利しか許されない。


 それから、親父はパクドナルドに命令した。


「さっさと作れ、パクドナルド。じゃないと、店の家賃がはね上がるぞ」


 親父は、この一帯の住宅開発を取り仕切っている。言ってみればクイーンズの王様だ。


 すぐに、3つのトレーからこぼれ落ちそうなほどのビッグパックが俺たちのテーブルに運ばれてきた。せっせと俺のシャツを拭いていたママ・マカロンは、あ然とビッグパックの山を見つめる。俺は、一つ目のビッグパックに手をのばすと、包み紙を破り、タスマニアンデビルのような大口でかぶりついた。クイーンズの王が嬉しそうに笑った。


「いいぞ、ドーナツ。カルボナーラに勝って、王になれ」


 10個、20個と平らげていく。


 隣にいる兄貴のブレッド・ジュニアが、心配そうにきいてきた。


「ドーナツ。学校で何かあった?」


「音楽の先生がロックをまるで分かってないんだよ。クソつまらない歌を、俺がエルビスみたいに歌ってやったんだ。クラス中がフィーバーしてた。なのに、ちゃんと四拍子で歌えだと。だから、殴ってやろうと思ったんだ。そしたら、あの女が出てきて、イカサマとか文句をつけてきた。だから――」


「女の子を殴ったのか?」


「殴るまでもないね。何があっても俺の勝ちだ。絶対だ」


 まさか、殴ろうとしてクロスカウンターを食らい、無様に床の上に伸びていたとは口が裂けても言えなかった。


 思い出すだけでヘドが出そうだ。


 俺は、闘いに勝つために、またもビッグパックを口に押し込んだ。もしも、俺が101個のバーガーを食べ切ったら、俺は俺に勝ったってことだ。あの屈辱の瞬間もチャラになる。俺はそう決めて、この闘いに挑んでいた。

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