2:死神
広場の喧騒が重い毛布のように、商人の呼び声、馬の鼻息、群衆のざわめきをまとって、顔面に押し寄せてきた。アーロンが酒場の重苦しさをようやく振り切ったかと思うと、今度はこの生き生きとした熱気に飲み込まれる。陽光は、町にありがちな微かな塵を含んだ空気をかろうじて貫き、「アンカー」のオベリスクを中心に広がる市場を照らし出していた。人々の顔には久しぶりの活気が宿り、露店の間を縫うように歩き回り、壁の外の世界の厳しさを一時忘れている。
彼がまだ数歩も歩かないうちに、あの鬼面を被った商人が、臭いを嗅ぎつけたハイエナのように近づいてきた。大げさな身振りで彼の前に立ちふさがる。
「そこのお方! どう見ても物分かりのいい方とお見受けします!」 仮面の商人の声は面を通して聞こえ、ぼんやりとした反響を伴うが、セールスマン特有の熱意を隠しきれていない。「こちらをご覧ください! 時代を超えた傑作! 馬も要らず、飼料も食わず、自ら走る『自動馬車』でございます!」 彼は全身真っ黒で、構造が怪しいあの「馬車」の車体を指さし、腕を振る様はまるで指揮するオーケストラのようだ。「わずか三百銀貨! 損はさせません! 馬の鈍さや高い飼料代とはもうお別れです!」
アーロンはその冷たい鉄の塊を淡々と一瞥しただけで、足を止めなかった。そんなものは、彼にとっては町外れのエーテル風に荒らされた廃墟と大差ない、現実離れした代物だった。彼は仮面の男の横をまっすぐ通り過ぎた。まるで相手が空気であるかのように。
「おいおい! お客さん! 行かないでくださいよ! お値段は相談に乗りますから!」 仮面の男がなおも諦めきれずに後ろから叫んでいる。
その時、ひとりの大柄でがっしりした影がアーロンの前に立ちふさがり、同時に巧妙にしつこい商人を遮った。来た者は、やや古びてはいるが手入れの行き届いた騎士用の軽鎧を身にまとっている。しかし、その上に極めて不釣り合いな、巨大で毛深い青い巨大猫の毛皮を羽織っていた。最も目を引くのは、毛皮の頭部と耳の部分を彼がフードのように被っていることで、この厳めしい戦士の頭にはふわりと、動きに合わせて微かに震える青い猫耳が生えているように見え、威厳がありながらどこか理由のない滑稽さを感じさせた。
「よせよせ、商人よ。この兄弟、君の発明には興味がないようだ。たった一キロ走っただけで馬に引かせるしかなく、しかも曲がれもしないんなら、商売詐欺はやめにしたらどうだ」 来た者の声は大きく落ち着いており、長い戦場経験を思わせるしゃがれが混じっている。彼はアーロンに向き直り、鋭いが冷たすぎない目で彼を一通り見下ろすと、一抹の賞賛の笑みを浮かべた。「失礼。私はライオネル・グレイストーン、元王国騎士団長だ。兄弟、君の歩き方と呼吸のリズムで見抜ける。なかなかの腕前だな」
アーロンは足を止め、この「猫耳」団長を見つめた。心の中にこれといった波風は立たない。「アーロン。賞金稼ぎ」 彼は簡潔に言った。「用か?」
ライオネルは彼の冷淡さを気にも留めず、ハハッと笑った。「爽快だ! 確かに、君に頼みたいことがある」 彼は体を横に向け、ずっと黙って彼の後ろに付いていた一人の兵士を指さした。この老兵は団長より年上に見える。顔には風雪の跡が刻まれ、濃いひげを蓄え、手には手入れの行き届いてピカピカに光る長槍を握っている。眼差しは落ち着いて確かだ。「こちらは古巣からの戦友、ハロルド・アンヴィルだ。騎士団時代から俺と生死を共にしてきた」
ハロルドはアーロンに軽くうなずいて挨拶した。多くを語らないが、眼差しには信頼できる堅固さが宿っている。
「あと二人の仲間がいる。町のどこかで休んでいるはずだ」 ライオネルは説明を続けた。「一人は独学で魔法を学び、騎士道に憧れて俺たちに加わった若い魔導師、エリオット・グリーン。もう一人は弓の腕が確かな娘、リーナ・ホークだ。俺たち四人の一行は、今や王国の名の下に――この名ももう形骸化しつつあるが――あちこち駆け回り、民を慰め、商隊を護衛し、できるだけ秩序を保とうとしている」
アーロンはそれを聞き、口元にわずかに見える嘲笑を浮かべた。「民を慰め?」 彼の声は冷たい。「最も王国が必要だった時、辺境の村は一つまた一つと消えていったが、騎士の影すら半分も見かけなかった。今、状況が少し『落ち着いた』から――もしこれが落ち着きと呼べるならだが――ようやく慈愛を示しに来るのか? 遅すぎやしないか? 我々辺境の者に、王都のそんな後出しの憐れみは要らん」
ライオネル団長の顔の笑みが少し引っ込んだ。しかし怒りは見せず、むしろため息をついた。猫耳も少し垂れ下がったように見える。「君の言う通りだ。王都は……確かに辺境に負い目がある」 彼の声は低く沈んだ。「だからこそ、俺はなおさら立ち止まれない。辺境には相変わらず盗賊が横行し、今の王都内部は混乱の極みだ。宮廷魔導師や星見たちが世界の終末を予言し、人心は慌てふためき、ほとんど麻痺している。新興の『神鳥教』というものもあり、もはや王を奉ずることもなく、最終戦場でエーテル風の中で唯一生き延び、旋回したと伝えられる『巨鳥』を崇め奉っている」
終末? また王都の連中の金稼ぎの嘘か?
彼は一呼吸置き、顔に否定的な表情を浮かべて言った。「奴らは、あの巨鳥がエーテル風を引き起こしも鎮めもするとか、間接的に魔王軍を止めたとか言う。だが俺に言わせれば、恐怖を撒き散らして金を毟り、騒乱を起こす輩に過ぎん。俺の推測では、奴らが言う『巨鳥』は、おそらく草原の果て、あの山々で時折噂される『竜』だろう」 彼は北の方、薄い大気の中にぼんやりと、輪郭さえも微かに歪んで見える連山を指さした。
「ここが我々の旅の最終地点だ」 ライオネルの目は再び確固たるものになった。「今日の午後、ここから出発し、山に入ってあの『竜』を討伐する。もしそれが本当にエーテル風の源、あるいはそれに関わるものなら、それを解決することで、各地の災厄を鎮められるかもしれん」
アーロンはそれを聞き、ただ首を振った。「辺境を見殺しにした王都には興味がない。もし『竜』と呼ばれるものが本当に問題なら、なぜ今まで放置していた? 俺はこの土地で長年狩りをしてきたが、その影すらほとんど見たことがない」 彼の口調には明らかな不信感がにじむ。「そして盗賊がなぜ現れるか、それは自分たちで考えた方がいい」
ライオネルはそれを聞き、逆にまた笑った。猫耳がぴくんと動く。「君がそう考えるのも無理はない、アーロンの兄弟よ。無理に助けを求めるつもりはない。人にはそれぞれの志がある。だがもし気が変わったらな」 彼は腰の小袋をポンと叩いた。「報酬は倍でもいい。本気で君の実力を認めている。機会があればぜひ手合わせしたいものだ」
その時、ずっと蚊帳の外に置かれていた仮面の男がまた近づいてきた。会話の隙間を狙ったようだ。「おやおや、お二人様、お話はお済みですか?」 彼は手をこすり合わせ、声に媚びを含ませて言った。「実は、物を買っていただかなくても結構です! 実はわたくし、魔王国から参りました商人でして、こちらには代々伝わる占い札がございますが……」 彼は手品のように一組の絵柄の奇特なカードを取り出した(アーロンはその札の様式が、自分が知る大陸のどのカードとも違うことに気づいた)。「こちらの猟師様、町を出て狩りにお出かけですか? 車をお買い上げでないなら、いかがでしょう? 一占いなされば、吉凶を知り、利益に近づき害を避けられますよ!」
最近何か起こるわけでもない。吉凶を占う必要など、そもそもない。そんな金、無駄にはできん。
アーロンが断ろうとしたその時、傍らのライオネル団長が興味津々に口を開いた。「占い? 面白い! 俺がおごろう。俺とこのアーロンの若いの、両方とも占ってくれ。縁起を担いで、我々の旅の成功を祈願するということでな!」 彼はさっぱりと金を払った。
仮面の男はもったいぶって札を切り、ライオネルとアーロンにそれぞれ一枚引かせた。団長が引いたのは、二頭のスフィンクスに引かれた戦車が描かれた札。「戦車」と名付けられていた。一方、アーロンが引いたのは、白馬に乗り、旗を持つ黒い骸骨の姿。札面にははっきりと――「死神」と書かれている。
空気が一瞬、凍りついた。
仮面の男は二枚の札を手に、右を見て左を見て、突然薄ら笑いを浮かべた。「これは……はは……実はですね、この札の意味はとても深遠で、わたくし未熟なもので、具体的に吉と出るか凶と出るか、よくわからなくて……ですが、札面があんなにきれいなんだから、きっと縁起がいいはずですよ……そうだ! この二枚の札、お二人様への記念に差し上げましょう!」 そう言うと、彼は「戦車」をライオネルに、「死神」をアーロンに押し付け、さっさと露店の品をまとめ始めた。どうやら逃げ出したいらしい。
この占い師、あまりにいい加減だ。
ライオネル団長はハハハと大笑いして「戦車」を受け取り、非常に楽観的だった。「戦車! よし! ひたすら前進、我が意にぴったりだ! ありがとう、商人よ! アーロンの兄弟、君の方は……ええと……古いものを除き新しいものを布く、って意味かもしれんな!」 彼は空気を和らげようとした。
アーロンは「死神」の札を無造作にポケットにねじ込み、何の感想も示さなかった。団長に向かって軽くうなずき、それを見送りの合図とすると、町の外へ向かって歩き出した。
騒がしい広場の端を抜ける時、彼はライオネルが言及したもう二人の仲間を見かけた。ややだぶついた魔導師のローブを着て、髪がぼさぼさの少年が、短弓を背負った動作の軽やかな少女と、一冊の本を囲んで激しく何かを議論していた。少年は手足をばたつかせ、声を張り上げて、自慢しているようだ。
『放浪騎士ポール』か、あるいはその二次創作か何かだろう。
アーロンは足を一瞬止めた。彼は『放浪騎士ポール』を知っていた。退屈しのぎに最初の何巻かはめくったこともある。話は熱血だが、中の戦闘描写は素人が書いたかのようだ。彼は首を振り、町の門へと歩みを進めた。
このご時世、子供でさえ戦場に立たねばならないというのに、王都の連中は実に甘い。
町の木製の柵を出ると、果てしなく広がる草原が目の前に広がった。風が膝丈の草の波を渡り、さらさらと音を立て、土と青草の清々しい香りを運んでくる。遠くの連山は、薄い陽の光の中で、町の中から見た時よりもさらに輪郭が歪んで見える。エーテル風のせいか、ゆっくりと動いているようにさえ思える。
彼は手慣れた様子で邪魔になったゼリー状のスライムを数匹片付け、その核となる粘液を集めた。もとは近場で動くつもりだったが、ポケットの中の冷たい「死神」の札を握りしめ、彼は突然考えを変えた。占いまでしてもらったのなら、少し遠くまで行ってみよう。草原の奥深く、あるいは山麓にもっと近い場所で、より大きく、より珍しい魔物に遭遇しないかどうか。もしかしたら、心の空洞を埋める何かが見つかるかもしれない。
彼は北の方、連山の影へと歩き始めた。初めはただぶらぶらと歩いていたが、次第に足取りは速くなっていく。風が彼の髪と衣の裾をなびかせる。
草原は広い。どこへ向かえばいいのか。殺戮のために生まれたこの自分は、今、何のために生きているのか。
わからない。あのぜいたくな理想とやらを成し遂げた後、使命も人生の意味も終わってしまった。彼はただ、なかなか成仏できない怨霊に過ぎない。
考えることは無意味だ。彼は走り出した。無駄な思考を避けられるから。
力いっぱい、全てを顧みずに走る。まるですべての抑圧、迷い、過去を振り切り、後ろに置き去りにするかのように。草の葉が彼のズボンの裾をかすめ、風の音が耳元で唸る。彼は丘を越え、小川を飛び越え、周囲の景色が速いスピードで後退していく。
草原は風の刃の下でうねり、まるで大地が皮膚を剥がれた後、むき出しになった青い腱のようだ。草の波は柔らかな絹ではなく、無数の青銅の長剣が空に向かって倒れ伏しているようで、その一挙一動ごとに光の残滓を切り裂いている。遠くの山々は、太古の巨獣の脊椎の化石のようで、地平線から鉛色の天穹へと突き刺さり、岩層の褶曲の間に、雷嵐と氷河が争った傷痕が凝固している。
筋肉痛が、少年の記憶と共に、自分を取り囲む風の中に消え去っていく。より遠い場所へと。
風の咆哮が、自分の荒い息と共に、時間に漬け込まれた岩壁に叩きつけられ、砕け散って草の海へと落ち、養分となる。
ずっと走り続け、肺がヒリヒリと痛むほどになって、ようやく彼はゆっくりと足を止め、手を膝について息を整えた。
その時、彼は突然、何かがおかしいと気づいた。
静かすぎる。
今までずっとあった風の音、虫の声、遠くでかすかに聞こえていた魔物の唸り声までもが、すべて消えている。世界が死寂とした真空のような状態に陥っている。すぐその後、不自然な、高周波の雑音が四方八方から響き始めた。無数のガラス片が擦れ合う音のようであり、虚空の深奥から来る哀号のようでもある。
しかし、この距離で、これほどのエーテル風が起こるはずがない。
彼が顔を上げると、周囲の景色が不気味に変化し始めるのが見えた。足元の草地が生き返ったように歪み、草の葉と土が無秩序に地面から離れ、空中に浮かび上がる。遠くの岩同士がぶつかり合い、あるものは一瞬で粉々になり、あるものは不気味に融合していく。空間そのものが波打ち始める。無形の手でくしゃくしゃにされた絵巻物のように。
エーテル風。
彼は体勢を安定させようとしたが、足元の大地はすでにずれ始め、消失している。彼は今しがた走り抜けた一片の草地が、瞬間的に百米も離れた空中に転移し、そして壊れた夢のように消散していくのをただ呆然と見つめる。強力で、抗うことのできない力が彼の体を引き裂く。周囲の色彩が鮮やかに怪しく変わり、またすぐに青ざめた白へと褪せていく。
そして、すべてが闇と虚無へと帰した。
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