第35章 共鳴

【読者の皆さまへ】

 お読みいただき、誠にありがとうございます。


 ・一部[残酷描写][暴力描写]があります。


 ・この作品は過去作「私立あかつき学園 命と絆とスパイ The Spy Who Forgot the Bonds」のリメイクです。

 ・前日譚である「私立あかつき学園  旋律の果て lost of symphony」の設定も一部統合されています。 

 https://kakuyomu.jp/works/16818622177401435761 

 https://kakuyomu.jp/works/16818792437397739792


 ・あえてテンプレを外している物語です(学園+スパイ映画)


 以上よろしくお願いいたします。




【本編】――地下研究所。

 Dreadnought ドレッドノートsonicソニック Cannonキャノン中央制御室。


 重い機械音が空間を震わせ、モニターには赤い警告が点滅していた。

 床を伝って、振動がじわりと増していく。


 ひなた、京子、亮は身じろぎもできずに立ち尽くしていた。

 その視線の先では、渡瀬が床に倒れ、右腿を押さえて苦悶している。

 そして、ウィリアムは無言のまま、佑梨の入った巨大装置を見上げていた。


 ――ピピピピピ……。


 制御装置の合成音声が低く響く。

DreadnoughtDSonicSCanonC――起動を開始します」


 メーターがゆっくりと上昇していく。

「最高レベル5まで上昇中……レベル1、生成完了――記録しました」


「何が……起きるの?」

 ひなたの声が震えた。

「……わからない」

 京子が小さく首を振る。

「一体……何をしようとしてるんだ」

 亮が歯を食いしばる。


 ひなたたちの側には、天美と志牟螺が拳銃の銃口を彼女たちに向けながら、ほくそ笑んでいた。

 時折、壁際のモニターや巨大装置に視線を移している。


 天美が冷たい笑みを浮かべ、端末に手を伸ばす。

「早速、試してみようかしら」

 指先がタッチパネルを滑った瞬間、モニターの映像が切り替わった。

 そこに映し出されたのは――崩落した霧島橋と、濁流と化した霧島川。

 豪雨の中、複数のモーターボートが必死に旋回していた。


 ひなたが息を呑む。

「……あれって……!」


 一台のボートがクローズアップされる。

 川面に浮かぶ影。

 真緒とのぞみ――。

 救出される姿が映っていた。


「よかった……!」

 亮が叫ぶ。

 京子が涙ぐみながらうなずく。

「あの二人……生きてたのね……!」


 だが――。

 天美の指が再び端末を操作した。


 次の瞬間。

 モニター上のボートが、激しく旋回を始める。

 水柱が立ち、船体が制御を失ったように暴れ回る。


「な、なにこれ……!」

 ひなたの声が震えた。


 他のモーターボートも同じ動きを見せ、狂ったように暴走を始めた。

 そして、次々と互いに衝突する。


 ――ドゴォォォン!


 爆発。

 火の玉。

 濁流に飲み込まれていく残骸。


「そんな……!」

 ひなたの悲鳴が室内にこだました。


 一台だけ、ボートが辛うじて岸辺にたどり着く。

 映像の片隅――学園の対岸に二人の小さな影が見えた。


 志牟螺が冷静に報告する。

「一台、逃しましたな」

 天美は淡々と答える。

「まあ良い。今のレベルでは学園周囲しか効果が無い。だが――」


 ――ピピピピピ……。


 再び合成音声が低く響く。

「最高レベル5まで上昇中……レベル2到達まで、残り5分……生成中……」


 その瞬間、装置内部の佑梨が苦しげに顔を歪めた。

「もう……弾けない……休ませて……」

 佑梨の身体がうなだれ、演奏が途切れる。


「止めるな!」

 咄嗟に天美が叫び、制御卓のスイッチを叩いた。


 ――バリバリバリバリ!

 電撃が走り、装置の中に光が走る。

「えっ……?」

 佑梨が驚きの声をあげた瞬間、無数のアームが伸び出し、彼女の身体を拘束する。

 アームは無理やり演奏の姿勢を取らせた。


「続けろ!」

 天美の声が鋭く響く。


「いやぁぁぁぁ!助けてぇぇ!光明寺くーん!」

 佑梨の悲鳴が制御室に反響した。


 ――その瞬間!


「うおぉぉぉぉぉぉっ!」

 ウィリアムの咆哮が轟いた。


 次の瞬間、巨体が走り出す。


 ――ドガァァンッ!


 ウィリアムが装置に体当たりした。

 制御室全体が震え、金属音が悲鳴のように響く。


「何をする!やめろ!」

 志牟螺が怒鳴る。

「裏切り者め!」

 天美が拳銃を構え、発砲する。


 ――バン! バン! バン!


 銃弾がウィリアムの背中を撃ち抜く。

「グガガガ……オレ……」

 しかし、彼は止まらない。

 ただ、装置に拳を叩きつけ続けた。


 ――カチャ。


「弾切れ?くそっ!これでも倒れんのか!」

 天美は素早く弾倉を交換し、再び連射した。


 ――バン!バン!バン!バン!


「こっちもだ!化け物が!」

 志牟螺も拳銃を抜き、乱射を続ける。


 ――ブシュ!ブシュ!ブシュ!


 ウィリアムは天美達に背を向けて立ちはだかる。

 次々と巨大な背面に銃弾を受け、血肉が弾けた。

 だが、彼は揺るがない。

「グオオオ……」


「今よ!」

 ひなたの声が響いた。

 京子と亮が即座に反応する。


「えいっ!」

「抑えろ!」

 京子が天美へ、亮が志牟螺へ――側面から飛び掛かる。


「なっ……!」

 天美の銃口が逸れた。

 ――バン!


 ひなたの左肩に熱が走る。

「くっ……!」


「ひなたぁぁぁっ!」

 京子と亮の悲鳴が重なる。

 ひなたは膝を突きながらも、血に染まる肩を押さえ立ち上がった。


 ――ドォォォォン!


 ウィリアムの最後の一撃。

 装置の扉が吹き飛び、破片が閃光のように舞う。


「おのれぇぇぇ!」

 天美の叫び。

「このクソガキが!」

 志牟螺が亮と京子に銃を向ける。


 ――カチッ。


「弾切れ! 今よ!」

 ひなたの声が響いた。


 その声に呼応して、三人が一斉に走り出した――。


 ひなたの絶叫がこだまする。

 見開かれた目は――怒りに燃えていた。

「なめんじゃないわよ!」


【後書き】

 お読みいただきありがとうございました。

 残り6話となりました。

 ひなたたちはどうなるのか?

 是非感想やコメントをいただけると、今後の励みになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る