第26章 深淵の底へ

【読者の皆さまへ】

 お読みいただき、誠にありがとうございます。


 ・一部[残酷描写][暴力描写]があります。


 ・この作品は過去作「私立あかつき学園 命と絆とスパイ The Spy Who Forgot the Bonds」のリメイクです。

 ・前日譚である「私立あかつき学園  旋律の果て lost of symphony」の設定も一部統合されています。

 https://kakuyomu.jp/works/16818622177401435761 

 https://kakuyomu.jp/works/16818792437397739792


 ・あえてテンプレを外している物語です(学園+スパイ映画)


 以上よろしくお願いいたします。



【本編】

 ――ザーッ……。

 

 激しい雨音が屋根と窓を打ち、夜の学園に反響していた。


 ひなた、京子、亮の三人は、ようやくプールサイドへ辿り着いた。


 ひなたは周囲を慎重に見回す。

「着いたわ」

 亮も慎重に視線だけを動かしていた。

「みたいだな……速く水路を探さないと――」


 だが京子は足を止め、その場に膝を突く。

「……あ……っ!」

 その瞳が恐怖に揺れる。

 脳裏に、あの断末魔が蘇った。


 ――逃げて……早く……!

 

 ――あああああーっ!


「明智さん……」

 声と身が震え、顔を手で覆う。


 ――ガッ!


「京子!」

 ひなたがすぐに肩を掴み、強く揺さぶった。

「立ち止まってる場合じゃないわ!私たちが生き残るために……そして、明智さんのためにも!」


「……ひなた」

 京子の瞳に、わずかに力が戻る。

 だが亮が訝しげに口を開いた。

「けどさ……もし本当に明智さんが殺されたんだとしたら……なんでここに倒れてないんだ?」


「それは……」

 京子が震える唇で答える。

「声の後に、大きな水音がしたわ……きっと、プールに沈んで……」


 ひなたの胸で、共感力がざわめいた。

 彼女は深く息を吸い、周囲に意識を研ぎ澄ませる。

「……でも、おかしくない?」

 鋭い瞳でプールの水面を見据える。

「かなり時間が経ってる。普通なら……もう浮かんでくるはず」


 京子は目を見開いた。

「そうだわ――そう言えば……」

 彼女の脳裏には、ウィリアムの姿が浮かぶ。


 廊下で襲撃されたの時の姿だ。


 ――不気味な巨体。

 

 ――濡れた衣類と身体。


 ――負傷した右目。


 京子の目が少し見開く。

 その視線は、月明かりに照らされるプールの水面を見つめていた。

「明智さん……もしかして――」


 そこにひなたの言葉が重なる。

「わからないけど……このプールに何かある!」

 

 亮がぽんと手を打ち、無理やり明るさを作ろうとする。

「さすがだな、水泳部同士!観察眼が鋭いぜ!」


 ――ドガッ!


 ひなたの肘が、すかさず亮の脇腹に突き刺さった。

「毎日溺れてたら、練習にならないでしょ!」

「痛ってえぇぇ……!」

 亮が呻くと、ひなたと京子の口元にわずかな笑みが浮かんだ。

「まったく……緊張感ないわね!」

「けど……ありがとう。寺本さん」


 亮が片目を閉じ、二人に視線を向ける。

「けど、手がかりは掴めただろ?」


 ひなたが満面の笑顔を見せる。

「そうだね!」


 ――だが次の瞬間。


 ――ゴポゴポゴボッ!

 

 稲光がプールの水面を照らした。

 3人の視線がそこに集まる。


「嘘だろ……」

「水面が……」

「下がっていく……」


 3人は呆然とプールサイドに佇ずみ、その光景に息を呑む。

 

 そして――。


 プールからすっかり水が抜けていた。

 底には足元を濡らす程度の水だけが残っていた。


 ひなたの共感力がざわめいた。

 月明かりに照らされ、水に反射する水底に目を凝らす。

「穴が……開いてるわ。それに――」


 一同は息を呑む。

 視線の先――プールの底には、巨大な方形の穴が開いていた。

 更にその先には、激しく水が流れる水路が見えた。

 水路には、細い鉄柵に簡単な歩道も設けられている。


 亮が訝しげな表情をする。

「行くしかないのか?」

 京子も疑念の表情を浮かべる。

「もしかして、明智さんも――この先に飲み込まれたと言うこと?」


 ひなたが力強く目を見開いた。

「行くしかないわ!外に出ないと!」

 一同はうなづく。


 そして、ひなたたちはプールの底に足を踏み入れる。


 ――ピチャッ……ピチャッ……。


 一同は、水路へ続く道へ歩みを進めた。

 ひなたは目を細めながら、思いをつぶやく。

(ここから……脱出できるの?)


 【後書き】

 お読みいただきありがとうございました。

 是非感想やコメントをいただけると、今後の励みになります。

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