第6話 また逃げる。
結城が朝目が覚めると、そこは旅館ではなく自分の部屋だった。
少しだけ肩が重かったり、体がだるく感じてしまうのは旅行に行った疲れがあまり取れていないからだろう。
とは言っても、いつもと同じような時間に起きられているので、嫌々ながら部屋から出て洗面所で顔を洗う。
冷たい水が顔へと当り、結城の意識が徐々に眠気から覚めてクリアになっていく。
「に、兄さん。おはよう」
結城は振り返るまでもなく、鏡に映った妹の怜の顔を見てうんざりした様子で、さっさとタオルで水を拭いて洗面所から出た。
前まではリビングへと行っていたが、それも嫌になって自室へ行き、学校へと行く準備をして、玄関へと急ぐ。愛花がリビングから出てきて、何かを言おうとしていたがそれも無視して外へと出た。
途中、コンビニで朝ご飯と昼ご飯を買ってからそのまま学校へ。
結城には趣味が殆どない。
あるとしても、母親である愛花が罪償いで結城へと買い与えたゲーム機を触って遊ぶくらいで、自分の為に何か買うなんてことをしたこともない。
お金を使い道といえば、綾香とデートする時くらいである。
そのため、貯金は一般的な高校生よりもかなり多いと言える。
とはいえ、母親である愛花を頼らずにこのまま生活を続けていくのは厳しい。
どうしようかなんて考えながら学校へと歩く。
「あ、結城。おはよう」
結城の前に同じ制服を着た女生徒が手を振っていた。
結城の顔はものすごく歪んで、気持ち悪いものを見る目で彼女の事を見た。
その様子にその女子生徒が、不安そうな顔をした。
「日向アリサ。僕に近づかないでくれ」
何を言われたかわからず、その場に固まってしまうアリサ。
少し前までアリサに対して、普通に優しく接してくれていた結城のこの対応に困惑して、こう聞いてしまった。
「なんで、私何かやっちゃった?」
その言葉に結城は溜息を吐いて、こう口を開いた。
「何かやった?お前が小学校の時、僕にしたことを忘れたのか?」
「そ、れは」
結城の言葉で次の言葉が出なくなってしまったアリサは、口をパクパクと魚のようにするしかない。
「分からないのなら、一から全部言ってやろうか?」
「....」
無言のアリサに結城はさらに追い打ちを掛けるように口を開く。
「お前が虐められていたのを僕が庇ったのに、そのお前が僕を見捨てたことを詳しく話してやろうか?」
「や、やめて」
小学校時代の過去を更に詳しく話そうとして、そこでアリサは大きな声で結城の声を遮った。
「はぁ。じゃあ、もう僕に関わらないでくれないか。話したくもないし、顔も見たくないんだ」
そう言い切って、アリサの前を通ってそのまま学校へと歩いていく結城に何も言えず、学校が始まる時間になっても、行く気にもなれずふらふらと彷徨うように、自分の家へと足を向けていた。
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