第2話 膝枕~年令当て勝負とマッサージ~

//SE 列車がレールを踏む音(ガタンゴトン)と汽笛


「さぁ、いいよ?」


//SE 膝をポンポンと叩く音


「え、別にいい? 恥ずかしいからって……ここで断られたら私が恥ずかしい、よ? もしかして嫌なの、かな?」


「なんで膝枕……って、それは、その……むぅうう」


「じゃ、勝負しよ。私が勝ったら膝枕ね」


「君が勝ったら……そうね、マッサージでどう? 私やったことあんまりないけど、お父さんには褒められたことあるし、たぶん君を天国へ送ってあげられるはずよ」


「へ? 天国じゃなくて地獄の間違い、って、いくらなんでもひど……はっ、確かに地獄へ君を送り届けるのが役目とか、そんなこと言ったかも」


「で、でもぉ……それとこれとは別で……くぅうう、分かった、マッサージも私が勝ったらでいい。でも、そうなると君が勝った場合――」


「え、それでいいの? けど……うーん、うん、分かったよ」


「君が勝ったら私が君に隠してることを全て教える、でいいんだね?」


「……絶対に勝たないと」//自分に言い聞かせるように


「勝負方法は何がいい? え、お任せ?」


「んー、じゃ、年令当て勝負でどうかな? お姉さんの年令がどのくらいか当ててみて」


「ヒント? それなら、三択でどう?」


「君の年令より結構若い、君の年令とおんなじくらい、君の年令よりかなり……かなり、お姉さん。この三択でどうかな?」


「おんなじくらいっていうのは、どうだろ……十歳か、それくらいの違いしかないこと、ってしようか」


「かなりお姉さんっていうのは、うーん……かなりお姉さんって意味だよ」


「お姉さんっていうくらいだし、ってことは、かなりお姉さんを選ぶの?」


「違うんだ? お姉さんっていうのが罠かも……と、うんうん、そうだよね」


「お姉さんに見えないし……ってどういう意味?」


「幼く見える……と。えっと、それ、どういう意味なのかな?」


「世間にすれてない感じ……世間知らず、ってこと?」//不穏な声音


「え、怒ってないよ? 全然、少しも怒ってないから気にしないで」


「ん、答え決まった? 君の年令とおんなじくらい、を選ぶの? 本当にそれでいい?」


「分かった。じゃあ、答えはね……と、その前に一応だけれど、君の年令を聞かせて」


「うん、だよね。じゃ、私の勝ちだよ。やったぁ」


「私はね、かなりお姉さんなんだ。君を罠にかけるため、お姉さんって言ったとかじゃなくてね、お姉さんっていうのはそう思ってくれたら嬉しいな、くらいのもので……別に君の呼びたいように呼んでくれればいいんだけどね」//やや早口で言い訳するように


「とにかく、そう、君は若人わこうどなの、私からすると」


「どのくらいお姉さんかって……んー、私からするとね、だいたい誰でも若いからなぁ……あのね、地獄ってさ、時間の感覚がかなり違うんだよ、現世って君たちの呼ぶ世界とはね。だからね、君の数倍は余裕で、って思えばいいんじゃない?」


「生きてる時間の流れが違うって感じかな。そもそも、生きてるっていう部分から違うんだけど……それはまた別の話になっちゃうね」


「だからね、君の感覚からすると、おばあちゃん、とかって呼んでもまだ近すぎるくらいかもで、とにかくね、呼びたいように呼んでくれればいいんだよ」


「え、名前? あー、教えてなかったっけ」


「私はヤマノラトリ。ラトリって呼ばれてるよ」


「ヤマノお姉さん……その呼び方はやめて。呼ぶなら、ラトリのほうで、呼び捨てのほうが嬉しいかな」


「うん、もう一回呼んで」


「ふっ、う~~~~……うん、ごめん、気にしないで」//前半は言葉にできない喜び


「ところで、私がかなり……かなりお姉さんっていうのは伝わったと思うんだけど、あんまり驚いてなさそうなの、なんで?」


「え、三択を出した時からたぶんって? えっと、じゃ、なぜ三択で――」


「そっか、うん、私が隠してること、今はちょっと……だけど、いずれちゃんと話すね。君の言ってくれる通り、私の話したくなった時に、で……待たせて、ごめんね」


「え、膝枕? してほしくなった、って急に?」


「あっと、うん、どうぞ」


//SE ラトリが膝をポンポンと叩く音

//SE 鈴の音


「どう、かな?」


「そう、だよね。どうって言われても、私も困っちゃうかも」


「……頭、撫でていい? うん」


//SE 頭を撫でる音


「不思議な感じ? うん、だね」


//SE 列車がレールを踏む音(ガタンゴトン)


「そういえば、なんだけど、鈴か何か持ってる?」


「うん、見せてくれないかな?」


// SE 鈴の音(チャリンチャリン)、鍵の音(ジャラジャラ)


「ありがと。鍵につけてるんだね。これはどういう鍵?」


「家の鍵にロッカーの鍵……どれも普段から使ってる鍵なんだね?」


「この鈴はどういうものなの?」


// SE 鈴の音(チャリンチャリン)


「魔よけの鈴? そっか、子どもの頃に貰ったんだ? 誰からどういう経緯で、とかは…………覚えてない、と」


「それで普段使ってる鍵にずっと付けてきたのかな?」


// SE 鈴の音(チャリン)


「うん、返すよ。見せてくれて、ありがとね」


// SE 鈴の音(チャリン)、鍵の音(ジャラジャラ)


「膝枕したままで、マッサージもしようかなって思うんだけど……どう、かな?」


//SE ラトリが頭を撫でる音


「気づいたんだけど、これ、頭撫でてるだけだね。マッサージするって、どういうことするんだっけ?」


「そっか、膝枕したままじゃ……あ、手のマッサージなら、できるかも」


「手をちょうだい」


「ん、んーー? んー」//どうすればいいのか迷ってる吐息


「うーん、これ、マッサージになってる?」


「そっか……んーー、脳っていうか魂を直接マッサージしてあげることならできるけど、どうする?」


「うん、やっぱり怖いよね……って、え、怖いけどやってほしいの?」


「その……天国、ううん、地獄へいっちゃうような思いするかもだけれど、ほんとにいい?」


「じゃ、じゃあ、ちょこっとだけ撫でるように触ってみるね」


「その、ダメそうだったら早めに言ってね。気持ちよくなって欲しいだけで、おかしくなるのはダメだから」


「じゃ、始めるね」


//SE ラトリが頭を撫でる音、次第にヒーリングミュージックのような音へ変わる


「ど、どう? 続けて良さそう?」


//SE ヒーリングミュージックのような音、次第に無音へと溶けていく感じ


「うん、分かった。続けるね」


「ふんふんふん、ふふふふ、ふん(中略)」//童謡「七つの子」を鼻歌で歌いながらのマッサージ。途中で聴こえてくる声が遠くなってゆっくりになったり、変調したりして聞こえてくる


//SE 列車がレールを踏む音(ガタンゴトン)


「ねぇ、起きて。起きてよぉ」


「大丈夫、だよね? どこもおかしくなってない?」


「君、眠っちゃって、なかなか起きてくれないから、心配になってきたの。おかしなとこ触っちゃったかなって」


「うん、良かった」


// SE 鈴の音(チャリン)


「膝枕、もういいの? ……そっかぁ」


「へ? なんでって? あぁっと、つまり、私の君への接し方が不可解、なの?」


「ん-、それはね、気づいてないだけだよ」


「君が私にしてくれたことにね」//愛おしそうに


「それはねぇ……君が言ったんだよ、私の話したくなった時でいいって」


「だから、まだ今は言わないの」//悪戯っぽく


「ところでさ、何か食べない? この列車ってね、駅弁が頼めるんだよ」

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