第2話 入学式
アルカナ魔法学園の講堂は荘厳な空気に満ちていた。天井まで届く巨大なステンドグラスが朝の光を受けてきらめき、色とりどりの光の粒となって降り注いでいる。その光景は、まるで魔法そのもののようだった。
「……息を呑むほど綺麗じゃのお、ソフィア、あれは何じゃ? からふるなのがきらきらしておる」
ソフィアの足元にいる小さなフーヤオが、しっぽをゆらゆらと揺らしながら見上げている。彼のきらきらとした眼差しは、純粋な好奇心に満ちていた。
「……ステンドグラスだよ。色をつけたガラスで作ってるの」
ソフィアは、ただ淡々と答える。彼女の心には、目の前の光景を美しいと感じる感情はなかった。ただ、その構造を理解しているだけだ。
「ほお、詳しいのう」
「……別に、凄いことじゃない」
フーヤオは、ソフィアのその言葉の裏にある感情の不在に気づいていた。彼はそれ以上は何も言わず、ただソフィアに寄り添うように体を寄せた。
「そうか……お、もうじき始まりそうじゃ」
ざわついていた講堂が、次第に静まり返っていく。壇上に、学園長らしき人物が姿を現した。
「ようこそ、アルカナ魔法学園へ」
学園長の言葉はその一言から始まった。静まり返った講堂に、彼の声が響き渡る。
「皆さんは、魔法の才能を持つ選ばれし者。これからここで、魔法の真髄を学び、友情を育み、やがては世界を支える存在となるでしょう」
「……友情なんか、くだらない」
ソフィアの唇から、小さく鋭い呟きがこぼれ落ちた。かつてその「友情」を含んだ裏切りに、彼女の心はひどく傷つけられた。それは、彼女が魔力を封じ、感情を失うきっかけとなった、決して忘れることのできない記憶。
足元にいるフーヤオがその言葉を聞いて、小さくソフィアを睨んだ。
「…………。」
彼は何も言わない。ただ、ソフィアの硬い表情とその瞳の奥に広がる闇を、静かに見つめるだけだった。ソフィアの過去に深入りしないという彼のルールは、彼女の言葉によって破られそうになるが、フーヤオはそれをぐっと堪える。彼の愛は、ときに言葉よりも深く、静かな眼差しに込められていた。
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