暗闇を包む白狐 〜もふもふ使い魔に溺愛される少女は、今日も誰かの道具になる
みたらしおだんご
第一章 始発点
第1話 始まりの手紙
古びた家の埃っぽい書斎。ソフィアは床に座り込み、分厚い古書を読んでいた。尻尾で器用に何かを掴んで持ってきたのは、毛先が赤い白狐の姿をした彼女の使い魔・フーヤオだ。
「お前宛の手紙じゃ、ソフィア」
本来の姿とは似ても似つかないほどの可愛らしい声に、ソフィアは視線を本から手紙へと移した。紋章の押された封筒には、見慣れない文字が書かれている。
「……アルカナ魔法学園の入学許可証? フーヤオ、これ詐欺」
ソフィアの言葉に、フーヤオはジトリとした目で彼女を見つめた。
「詐欺ではないぞ、紋様があろう! 余の目がおかしくなったと言いたいのか?」
「……本当だ、でも、興味ない。私が行く意味もない」
ソフィアは再び本に目を落とした。彼女にとって、魔法学校は縁のない場所だ。魔力を封じた自分が行っても、誰の役にも立てない。
「む〜? 選ばれし者にしか行けない魔法学校に通うというのは、貴重な経験じゃぞ〜?」
フーヤオは、ソフィアの膝の上に乗って丸くなる。
「……役に、立てるかな」
「それはお前の頑張り次第じゃな」
フーヤオはそれ以上は何も言わなかった。ただ、ソフィアの体温を感じながら、静かに息をしている。
ソフィアはもう一度許可証に目をやった。封筒の紋様は、どこか懐かしいような、それでいてひどく冷たい光を放っているように見えた。
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「……結局、来ちゃったな」
学園の門をくぐる直前、ソフィアが小さく呟いた。その声は、広大な敷地と荘厳な建物に吸い込まれて消えていく。彼女の隣を歩く小さな狐の姿のフーヤオが、しっぽをゆらゆらと揺らした。
「そうじゃの」
その声には、わずかな安堵が混じっていた。
「これで、少しでもお前の感情が戻れば良いのじゃが」
「……何か言った?」
「いんや、何も」
フーヤオはすぐに、いつもの明るい声に戻った。ソフィアは何も聞かず、ただ真っ直ぐ前を見つめて歩き出す。
胸の奥に封じ込めた感情の、ほんの一欠片でも取り戻せるようにと、フーヤオが願っていることを、彼女は知らない。
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