29日目 均衡の歪み 〜〇=に呑まれる視線〜

在庫/二十九日目・朝


・水:0L(補充なし)

・食:海藻 微量(束×0.05)

・塩:微量

・火:炭片なし

・記録具:ペン 使用可

・体調:頭痛、軽度の震え継続

・所感:線が語る。制度は黙る


朝。

在庫表を開いた瞬間、胸の奥で脈が乱れた。

昨日の「0L0L0L」がまだ紙に残っている。

修正したはずの跡が浮かび上がり

「帳そのものが私を嘲笑っている」と錯覚する。


観測/午前


・祠:変化なし。乾いた石のみ

・潮の人:〇と=を重ね続ける。だが均衡ではなく歪曲

・鳥:飛来せず

・影:形を失い輪郭が滲む


〇=。

昨日までは「請求」に見えた。

今日は「飲み込む口」にしか映らない。

潮の人の指先が描くたびに、海面そのものが裂け私の視界を呑み込む。


午後。

目を閉じても残像が消えない。

瞼の裏に〇=が焼きつき

視線を逸らすたび制度が無効化される。


「帳は、まだ私を守っているのか?」


科目も数字も意味を失い、

ただ円と線が増殖していく。


夜。

筆記の手が止まった。

気づけば所感欄に知らぬうちに〇=を描き続けていた。

数十の〇と=が重なり紙を黒く覆う。


制度は完全に黙った。

残ったのは線だけだ。


在庫/二十九日目・夜


・水:0L

・食:海藻 微量(束×0.02)

・塩:微量

・記録具:ペン 使用可

・所感:〇=が帳を侵食。数字は零に収束。

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