26日目 未払いの救済 〜制度の揺らぎ、鳥の施し〜
在庫/二十六日目・朝
・水:0L(祠消滅)
・食:海藻 微量(束×0.2)/貝片なし
・塩:結晶 微量(舐める程度)
・火:炭片尽きる/使用不能
・記録具:ペン 使用可/炭 予備
・体調:渇き極大/視界の滲み/手指痙攣/思考断続
・所感:在庫は限界。制度も限界
朝。
帳を開く力も残らず紙に影だけを落とした。
喉は砂を詰められたように塞がり呼吸すら痛みに変わっていた。
祠はすでに干上がり裂け目はただ黒い口を開くだけ。
泡も濁りもない…沈黙。
「終わったのか」
声は掠れ音にもならない。
観測/午前
・祠:水脈消滅。裂け目は乾き続行
・鳥:一羽、輪の上を旋回。嘴に何かを保持
・潮の人:沖に立つ。記号描かず沈黙
・影:杭の影、異常伸長続行。祠を越え外輪を覆う
・星図:昨夜比でさらに逸脱
砂に落ちたのは小さな果実だった。
硬い殻を割ると中から水滴がこぼれた。
わずか数滴…だが光のように見えた。
私は震える手でそれを舌に落とした。
冷たさが喉を走り胸の奥で一瞬だけ炎が灯る。
目の前の景色が澄み世界が戻る。
「……生きられる」
その瞬間、足元が崩れた。
輪の外に鳥が立ち止まり首を傾げてこちらを見ている。
嘴は空。だが目は待っていた。
…対価を。
条項補注(二十六日目・午前)
・鳥が供物を与えた。だが交換なし
・対価を払えないまま受け取った
・制度の原則「取引」が崩壊
・救済と破綻が同時に記録された
在庫/二十六日目・昼
・水:0L(実からの水滴摂取/残存なし)
・食:海藻 微量(束×0.1)
・塩:微量
・記録具:ペン 使用可
・所感:救いの錯覚。制度は未払いを抱えて沈黙
午後、鳥は再び旋回した。
嘴に何も持たず、ただ輪の外に立つ。
私は藻も塩も差し出せなかった。
何も…払えなかった。
胸の内で怒りと羞恥がせめぎ合う。
救われたはずなのに救いが制度を壊す。
「未払い」という二文字が脳裏に焼き付いた。
夜。
帳に震える手で書き足した。
「制度の外に、救いがあった。
だが救いは記録に値しない。未払いだから。
…私は制度の外で生かされた」
星は散り光の帯はまだ続いていた。
私はそれを見上げ、ただひとつ残った余白にかろうじて線を引いた。
「救いは、恐怖より深い負債だ」
在庫/二十六日目・夜
・水:0L(残量なし)
・食:海藻 微量(摂取困難)
・塩:微量
・記録具:ペン 使用可
・所感:鳥の供物により一時延命。だが制度崩壊の兆し
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