19日目半 深夜 裂け目のざわめき 〜水なき夜、光の揺らぎ〜
在庫/十九日目・深夜
・水:0.15L(残存/飲用不可)
・食:干し藻 少量
・塩:微量
・記録具:ペン 使用可
・体調:渇き強/頭痛悪化/睡眠不可
・所感:眠れぬ。裂け目の音が夜を満たす
深夜。砂に横たわっても、目を閉じても、眠りは訪れなかった。
裂け目の奥から絶え間なく泡が弾ける。
それは水音ではなく…地そのものが呼吸しているような低いざわめき。
耳ではなく骨に染み込み、心臓の鼓動と勝手に同調してくる。
私は寝返りを打つたび、胸の奥で余震のようにその音を繰り返し聞いた。
祠を覗く。
闇の中でも白濁はかすかに光り、底の影はひとつも見えない。
喉は裂けるように渇いている。だが一滴でも飲めば終わる。
「水があるのに、飲めない」
その矛盾は刃のように胸を締め上げた。
帳を開く。
震える手で線を引く。
【水:残存/飲用不可】
同じ文字を二度、三度、強くなぞった。
紙がへこみ、インクがにじみ、制度そのものが自分を押し潰すように見えた。
顔を上げる。
夜空の星は昨夜よりもさらに散乱し、配置は記録と齟齬を深めている。
だが、彼女が指した方角だけは白光が揺るがず残っていた。
それは瞬きではなく痙攣のように脈打ち、まるで「ここしかない」と告げている。
私は声を潜めて書き記した。
《制度は崩れつつある。だが星は残る。》
裂け目のざわめきは途切れず続く。
音は夜を満たし、眠気を削ぎ、私の記録を急かす。
夜明けが来るのが恐ろしい。
だが同時に、待ち遠しい。
私は光を睨み続けた。
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