10話 魔導反応
三重魔法陣を完成させたセイラスにとって、次なる課題は「どこまで重ねられるか」だった。
どの起動式を組み合わせると、どのような変化が生まれるのか――それを突き止めるのが、魔導具に魅せられた者の
複数の起動式を同じ放出口から放出した際に現れる魔方陣の特別な反応。
うん、これを魔導反応とよぼう。
新たな魔導具の道を切り開く彼には、発見した現象の命名権がある。
いつか“魔導反応”という概念が、魔導基礎の教本に記される日が来るかもしれない。
そう考えながら、今日も僕は手を止めることなく魔法陣を描き続ける。
ノートにはびっしりと実験結果が書き込まれ、失敗の跡もまた輝く記録となっていた。
そろそろノートの替えどきかもしれない。
そして今日の挑戦は、四重魔法陣の作成だ。
何が起こるか予測できないが、これまでの経験から、魔道具の能力は確実に向上するはず。
まずは、比較的安全な
四重魔法陣の実験は、三重魔法陣で得たすべての経験をフル活用して行った。
層の順序、放出口、魔力の量――慎重に設定し、慎重に魔力を流し込む。
紙の上のインクの線が淡く光を帯び、微かに震え始める。完璧……かと思った瞬間。
ゴォォ――ッ。
普段より大きな振動と共に、紙の端から小さな炎が跳ねる。
セイラスは反射的に魔力を引き戻したが、光は不安定に揺れ、魔法陣全体が紙の上でうねるように暴れる。
くっ……やっぱりダメか
冷静に分析すると、三重までは各層が互いに干渉せず、安定して融合できた。
しかし、四重になると、魔力の流れが複雑になりすぎて制御不能――どうやら現状の技術では四重以上は作れないらしい。
でも僕は諦めない。
だって僕の探究心は止まらないのだから。
むしろ四重が不可能と分かったことで、三重魔法陣の応用に目を向けられる。
よし、三重で何ができるか、考えてみよう。
思い立った僕は、三重魔法陣の安定性を応用して、実用的な魔道具を作ることを決意する。
まずは平面で食物を育てる装置だ。
三重魔法陣の“
紙の上に描かれた魔法陣に魔力を流し込むと、微かに光る水が線を伝って動き、光が温かく照らす。
土の層には微細な振動を加えることで養分の循環を模倣する。
数分後、小さな芽が紙の上で光を帯びて現れた。
セイラスは息を止めて観察する。光は安定して、芽はゆっくりと成長していく。
三重魔法陣を利用すれば、平面でも植物を育てられる――しかも魔力の量や光の強さを調整すれば、育成速度や大きさも変えられる。
すごい……これなら、魔道具として持ち運びも可能だ。流石僕。天才だ。
興奮で震える手を抑えつつ、落ち着いて次の実験に移る。
次は持ち運び可能な多機能コンロだ。
火を加熱源、光を照明、風を空気循環に利用することで、小さな紙上コンロが動き出す。
魔力を流すと、紙の上に描かれた線が淡く光り、熱を帯びる。
炎は暴れず、一定の範囲を温めるだけ。
水の層と光の層も同時に作用し、熱を均等に分散させる。
セイラスは小さな金属片をコンロの上に置くと、しっかりと温まるのを確認できた。
……これは実用レベルだ。
冒険者とか騎士とか、貴族も欲しがる優れものだ。
それほどまでに人は食に弱い。
とりあえずミレーユに一枚渡して問題がないか聞いてみよう。
そう冷静に考えつつも喜びを抑えきれない。
小さくガッツポーズをしたが、すぐに次の課題を思い浮かべる。
最後は持ち運び可能な簡易テントだ。
風の層で空間を作り、光で形状を固定、光と風の微妙な干渉で立体感を出す。
紙の上で魔力を流し込むと、光と空気の流れが形を成し、小さなテント状の空間が現れた。手で触れるとふわりとした感触で、風を微かに感じる。
魔法陣を調整すれば、折りたたみ可能で、必要な時には簡単に展開できる。
なるほど……三重魔法陣だけでも、こんなに応用できるのか。
僕は机に向って座り込み、作り出した魔道具を順番に確認する。
芽は安定して育ち、コンロは安全に熱を保ち、テントも小さな空間を維持している。三重魔法陣の応用範囲の広さに、改めて驚く。
四重は無理でも、三重で十分すぎるほど可能性があるな。
ノートを開き、今日も実験結果をびっしりと記録する。
魔力の流し方、インクの種類、層の順序――細かくメモすることで、再現性を確保する。
何事も繰り返しが大切だからね。
失敗から学んだことが、今や新しい魔道具の設計図になっていく。
これなら、魔法使いも夢じゃない……かもしれない。
小さく興奮する自分を抑え、セイラスは静かに息を吐く。
今日の実験は、単なる成功以上の意味があった。
失敗と工夫の連続から、自分だけの魔法陣と魔道具を形にした瞬間――。
誰も到達していない地点に、自分が立っているという事実。
小さな成功体験がセイラスの胸を熱くする。誰も到達していない地点に自分が立っているという実感。
失敗と工夫を繰り返し、ついに自分だけの魔法陣と魔道具を形にした喜び。
この先の挑戦……もっと楽しく、もっと刺激的になるに違いない
セイラスは微笑みながら、今日の実験を静かに締めくくった。
三重魔法陣を極めれば、未来の魔道具はきっと、誰も想像しなかった形で現れるだろう。
僕は皆に敬われちゃったりして。
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