ヒーローイン俺
塩谷歩
ヒーロー誕生? セイヴァーストラトス参上
第1話
この世界にはソウルフォームというものがある。
十六歳を迎え成人すると魂武装の儀にて、
その際に得られる、己の魂を具現化した装備がソウルフォームだ。
俺の名前はセブン。本日十六歳になったばかりのヒューマン。
茶に近いオレンジの髪に深い緑の瞳、周囲からはよく残念イケメン扱いをされる。
好きなものはヒーロー。趣味はヒーロー。将来の夢はヒーロー!
そんな俺は今、めっちゃ全力ダッシュ中!!
数日後には学年が一つ上がる春先、俺が向かう先は教会。その目的は魂武装の儀を受けること。
魂武装の儀は神様側の事情で半年に一度だけ、かつ十八時がタイムリミット。
町の中央にあるタワーの電光掲示板は『17:59』の表示!
この角を曲がれば教会が……見えた!
「うおおおお間に合ええええ!!」
扉を閉じるシスターさんが俺の叫びにビクッとした、その隙にスライディング!
受付のシスターさんの判定は!?
「うーん……セーフ!」
「よっしゃ!!」
「でも急いでね」
「はい!」
元気に返事をする俺に対し、後ろから元気だなーと呆れ半分の声もする。
何せ俺はヒーローに憧れてるからな、日々のトレーニングは欠かしてないし、本物の魔物退治の経験もあるし、剣術で学校トップの成績を取ったこともある!
勉強に関しては……目を瞑ってください。
神父様の元には、魂武装の儀を受ける最終組の人が四人いる。
同年代の男と女に、おじさんが二人だ。
その輪に俺も混ざる。
「これで全員ですね。
では改めて、魂武装の儀というものについて説明を致しましょう」
冒頭にも説明したが、魂武装の儀は戦神・魔法神・鍛冶神の三柱に自分の魂を見定めてもらい、魂に最も合った戦闘服【ソウルフォーム】を得るという儀式だ。
とはいえ強制ではないし、転職目的で受けることも可能なので、成人した全員が受けているわけではない。
俺の感覚で言えば、二割くらいかな。
これは魂武装の儀が、文字通り武装する戦闘職向けの儀式だからだ。
魂武装の儀の起源は古の時代に現れた勇者だと言われている。
魂武装の儀によってソウルフォームを得た勇者は、時の魔王を見事討伐し、世界に平和と安寧をもたらした。
ただ、この話はあまりにも古すぎて資料として残ってないらしく、長命種族エルフが伝えている範囲しか知られていない。
勇者を起源とした魂武装の儀はその後、王族や高位貴族の特権になった。
そんな魂武装の儀が俺たち一般人でも受けられるようになったのは、ほんの三百年ほど前からだ。
それ以来世界の科学技術は急激な発展を遂げ、今では夜空の先にある宇宙の星々へと手を伸ばし始めている。
神父様からの説明が終わり、先着順に儀式の間へ。
帰ってきた人たちは皆自分のソウルフォームを自慢しまくる。
「見てくれよ! オレのソウルフォームはガンナーだ!」
「私薬師だった。これは家の血だね!」
「料理人からの転職で、まさか包丁を持って戦う双剣士になるとは!」
「僕はこのとおり光属性のヒーラーになりました。平社員からヒーラーシャイン……いえなんでも」
昔は冒険者で一括りにされていたけど、今は戦闘職がハンター、生産職がプランターで区別されている。
今の四人で言えば、男三人がハンターで、女性がプランター。
俺のなりたいヒーローもハンターの括りのはずだ。
「では最後にセブン、中へ」
「はい!」
気合を入れ、儀式の間へ!
儀式の間は円形で、中央を見下ろすように三人の神様の像が並んでいる。
中央の像は身の丈ほどもある巨大な剣を携えた戦神、左は杖とローブが特徴的な魔法神、右は小柄なのに鍛冶用の大きなハンマーを持つ鍛冶神。
それから壁の一部が大きな鏡になっていて、すぐにソウルフォームを確認できるようになっている。
神様の像に思わず見とれていると、何処からともなく声が響いた。
『今日はお主で最後じゃな。してお主、名は?』
「……あっ、セブンと言います」
左から聞こえたのはしゃがれたお婆さんの声。魔法神様だ。
それにしてもこんな簡単に神様と話せるとは思ってなくて、虚を突かれた。
『へぇ、君面白いね』
「えっと……」
次は右から、俺と同年代くらいの若い男性の声だ。鍛冶神様って若いんだな。
『んじゃちゃっちゃと始めるぞー!』
「えっ?」
正面からは小さな女の子の声が。子供のイタズラか?
『おいっ! 貴様めっちゃ失礼だな! 我は暦とした戦神だぞ!』
「……本当に戦神様なんですか?」
『ふぁふぁふぁ! 正しくは戦神の分体じゃな。
神とてワシら三人でこの世界の全てを受け持つのはちと荷が重いのでな、特に多忙な戦神はこのように分体を使っておる』
『分体と言っても意識は本体とめっちゃ繋がってるから、我への暴言は本体への暴言と同じだよ!』
「そういうことでしたか。失礼しました」
『うむ! 分かればよろしい!』
戦神様の分体、チョロくてかわいいな。
『むぐぐ……貴様、我に聞こえてるの分かってて言ってるだろ!』
「はい」
『貴様っ……!』
『ふぁふぁふぁ! 面白い奴よの! してその魂は……おっと、これは中々じゃな』
俺の魂は、ヒーロー一色!
と思っていたら突然儀式の間の空気がピンと張りつめ、呼吸ひとつにも神経を使うほどの緊張感に包まれた。
ただ立っているだけなのに、緊張で冷や汗が出てくる。
『ではこれより我々が貴様に質問をしていく。せいぜい、正直に答えたまえよ。
まずは我からひとつ貴様に問う。貴様の思う、己の理想像は何だ?』
「ヒーロー!」
『……聞いた我が馬鹿だった。
質問を変える。ヒーローを目指すとして、どのような姿を理想とする?』
俺の理想のヒーロー像か。
ヒーローと一口に言っても人助けを第一とするのもあるし、宿敵を倒すためにその道すがらで活躍するタイプもいるし、ダークヒーローだってヒーローだし……。
ちょっと捻ったところだとヒーローが職業として成立していたり、趣味でヒーローをやっていたり、ヒーロー星からやってきた宇宙人だったり、ヒーロースーツをレンタルして戦う人もいた。
それから変身ヒーローだけがヒーローとも限らない。
喋る車を相棒とする元警官や、YOUはショックしちゃうような世界で拳ひとつで戦うヒーロー、東方の国では実在の王様や裁判官、元大臣のおじいさんをヒーローとして描くドラマもある。
そして忘れてはならないのが、魔法少女をはじめとする戦うヒロインたち。
俺はヒーローという言葉に性別の概念はないと考えているので、彼女たちももちろん俺の目指すヒーロー像の中にある。
「つまり……人のために動ける強い志を持ち、優しい心で誰からも好かれ、声援を力に変えることのできる人物。
それが俺の理想とするヒーローです」
『欲張りな奴だ』
「人を助けるには欲張りじゃないと務まらないと思います。だってみんな自分だけで精いっぱいじゃないですか」
『……神としては中々に耳の痛い言葉じゃな。のお、戦神』
『我に振るな……』
特に戦神様は戦争の神様だから、その副産物も多く生み出している。
多くの死に、孤児や疫病、そして大量殺りく兵器も。
そういった点で戦神様は一番耳が痛いだろう。
『次にワシじゃが……お主、魔法を行使した経験は?』
「いえ、ありません。
子供の頃に鑑定士に見てもらったら、俺には魔法の才能がないとかで、それ以来親から絶対に魔法は使うなと強く言われていましたので」
『その鑑定士は正しい。お主に魔法の才能はない。だからこその問題がある。
ま、これはお主が気にしても仕方のない話じゃな』
魔法が使えないからこその問題?
『大丈夫だよ。それを気にするのが俺の仕事だからね。
俺からの質問はいつも変わらない。
ソウルフォームを作るのは俺なんだけど、何か希望があれば聞くよ?』
「だったら……格好いいのを!」
『それは分かってる。
俺が言ってるのは遠距離武器がいいとか、防御力重視とかだよ』
「武器は当然剣!」
『うむ! 戦いは剣に始まり剣に終わる!』
即座に同意する戦神(分体)様。やっぱりチョロかわいい。
『ぐぬぬ、貴様一度ならず二度までも……』
『だからたまには本体で顔を出せと言っとるんじゃ』
『戦神様はいつも分体ですからね』
『貴様たちまで……』
石像なのに何故か分かってしまう、戦神様の苦々しい表情。
神様にも色々あるみたいだ。
『よし、これでピースは揃った。早速作り始めよう』
「格好いいいヒーローでお願いします!」
『本当に君は、呆れるほどブレないね』
鍛冶神様の心底呆れた声が響くと、次に何処からともなく光の粒子が集まり、ヒーロースーツを形成していく。
これは……メタルヒーロー系か?
モチーフはおそらく人工衛星で、防具の一部にソーラーパネルのような意匠も。あとボディスーツ系ヒーロー必須の股間もっこりも装備。
動きやすさと格好良さの両立した、とても俺好みのデザインだ。
『ちょっと興が乗ったから、システム面で大盤振る舞いしてあげよう。
まずは周囲の声援を力に変える【頑張れバフシステム】、略してGBS!
次に知名度や名声が強さに繋がる【知ってるパワーシステム】略してSPS!
そして最後に、君の強い気持ちがソウルフォームに進化を促し、新たな力を与える【魂エボリューションシステム】略してTES!』
「ヒーローに必須の要素てんこ盛り! けどその名前はどうなんですか……?」
『鍛冶神殿はいつもこの調子なんじゃ。大目に見てやってくれ』
デザインはいいのに名付けは壊滅的。
武器を作り出す神様としては、ある意味すごく似合ってると思う。
『最後に実際にソウルフォームを着て完成だよ。
装備するには、君のことだから変身だと思えばいい』
「はい、分かりました!」
ついに来た! 俺が本当のヒーローになる瞬間が!
腕をグッと胸の上に持ってきて「変身!」と叫ぶ!
『……ククッ、今だ! 我を二度も愚弄した罰を与えてやる!』
『『あっ!』』
「えっ?」
戦神様なにやってんのー!?
と叫ぶ間もなく光に包まれる俺。
光が収まると、俺の視点が何故かいつもより低くなってる。
神様たちは喧々諤々の大喧嘩を開始し、完全に俺を置いてけぼりにする。
「一体何が……って女の子の声?」
不思議に思い備え付けの鏡を覗き込む俺。
そこに映し出された俺のソウルフォームは、まさかの可愛い女の子だった。
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