第15話 処女喪失


 和真の瞳から、最後の理性が消え失せた。そこにあるのは、もう、私の知っている彼の姿ではない。罪悪感に揺れる、優しい幼馴染は、どこにもいない。ただ、剥き出しの欲望をその目に宿し、目の前の獲物を喰らうことしか考えていない、一匹の飢えた雄がいるだけだった。その変貌は、恐ろしかった。しかし、それ以上に、私の心を、歓喜で満たした。私が、彼を、こうさせたのだ。


 彼は、私を、ベッドの上に、ゆっくりと、しかし抗いがたい力で押し倒した。私の体の上に、彼の熱い身体が、覆いかぶさってくる。彼の体重の、その重みが、私の覚悟の重さのように感じられた。彼は、一度ベッドから降りると、部屋の隅に置いた自分の学生鞄をごそごそと漁り始めた。そして、小さな銀色の包みを取り出す。コンドーム。その無機質な物体が、これから起ころうとしていることの、あまりにも生々しい現実を、私に突きつけた。


 彼は、震える手で、その包みを、必死に破ろうとしている。その指先は、不器用で、ぎこちなかった。欲望に身を任せながらも、彼の身体のどこかには、まだ、初めての行為に対する、少年のような戸惑いが残っている。その姿が、なぜか、ひどく愛おしく思えた。


 私は、ベッドの上で、その光景を、ただ、黙って見つめていた。これから、私は、処女を失う。十七年間、大切に守ってきた、私だけのものを、彼に捧げるのだ。それは、復讐の儀式であると同時に、私の長年の恋が、ようやく、実を結ぶ瞬間でもあった。期待と、不安と、そして、未知なるものへの恐怖が、私の心の中で、ぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。


 準備を終えた和真が、再び、ベッドへと戻ってくる。彼は、私の両足の間に、ゆっくりと、自分の身体を滑り込ませた。そして、私の両膝を、その大きな手で掴むと、ゆっくりと、左右に開いていく。私の、最も柔らかな場所が、彼の前に、完全に、無防備に、晒された。羞恥に、私の頬が、カッと熱くなる。私は、思わず、目を固く閉じた。


 次の瞬間、私の秘部の入り口に、経験したことのない、熱くて、硬い何かが、ぐり、と、押し当てられた。

「ひっ……!」

 声にならない悲鳴が、喉から漏れる。彼の分身。それが、今、私の身体に、触れている。その圧倒的な存在感に、私の全身が、恐怖と興奮で、こわばった。


 和真が、ゆっくりと、腰を沈め始めた。

 私の狭い入り口が、彼の熱によって、無理やり、こじ開けられていく。


「いっ……た……ぁあああああ!」


 絶叫。

 肉が、裂ける。焼けるような、鋭い痛みが、私の下半身を、容赦なく貫いた。涙が、瞳から、一気に溢れ出す。痛い。痛い痛い痛い。駄目だ。こんなはずじゃなかった。私の頭の中は、後悔と、激痛で、真っ白になった。


 私の悲鳴を聞いて、和真の動きが、一瞬、止まる。彼の、苦しげな息遣いが、すぐ上で聞こえる。しかし、もう、引き返すことは、誰にもできなかった。彼は、意を決したように、最後の一線まで、その身を、私の奥深くへと、沈めてきた。


 その瞬間、激しい痛みの向こう側で、何かが、ぷつり、と、切れる音がした。

 それを合図にしたかのように、あれほど私を苛んでいた痛みが、すうっと、潮が引くように、遠のいていく。代わりに、私の身体を満たし始めたのは、異物を受け入れたことによる、確かな充実感と、そして、今まで知らなかった、鈍く、重い快感だった。


 ぐちゅ、ぐちゅ、と、私たちの結合部から、生々しい水音が響き始める。

 彼は、ゆっくりと、私の内部で、動き始めた。そのたびに、私の奥深くが、彼の熱で、かき混ぜられる。

 ああ、もう、駄目だ。

 この瞬間、私の、純粋だった幼馴染としての時間は、完全に、終わりを告げた。

 私は、ただの、和真の欲望に、その熱い楔を打ち込まれ、快感に染め上げられていく、一人の女に、変わってしまったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る