黄昏は笑う

時雨尚

一頁

 世界は真暗闇のはずだった。


 なのに今は暗闇の中にぼんやりと見える拉げた車内に鮮明に赤が映る。

 頭が徐々に覚醒して痛む体や頭が、この光景が現実であると告げる。


「か、さ……。とう、さ……」


 掠れる声。視線を目の前から右へとゆっくりと動かす。


 見てはいけない。


 それでも体が自分の意思に反して動いてしまい、瞬きすら出来ず、歯がカチカチと鳴る。

 潰された運転席と後部座席。

 その間から血塗れの小さく、細い腕は俺の方へと伸ばされていた。


 頭を振って震える手を伸ばして名前を呼ぼうとしても絞り出すような声で叫ぶしか出来なかった。


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