第2話 私、赤子時代の思考
私の心意気はわかってくれたと思う。
次に、私の前世の話と、それを糧に私が今世で歩んできた5年を少しずつ話して行こうと思う。
私の前世の世界では、おとぎ話に出てくるような魔法が普通にあったし、貴族ならば量の多少はあれど、魔法の燃料とも言える魔力があった。
その者に元々ある体内魔力のほか、大気中にある魔素を取り入れて、魔力に変換することも可能であった。
その為、貴族の子弟は幼少の頃より、魔力操作訓練を行うのが普通であった。
私はこの前世の知識が、頭を巡った時に、にやりとした。
勝った。勝利は我が手にあり!と、思ったのは言うまでもない。
おんぎゃあと泣いた赤子の時分から、魔力操作訓練をみっちりやれば、どれほど、人より先んじられるだろうか。
赤子であるゆえ、身体は自由にはならない。けれど、身体が動かなくても、魔力操作訓練はできるだろうと予測がついたからである。
やり方も、当然わかっているのである。
私はすぐに自身の中にあるであろう、魔力を探った。
先ほども触れたが、体内魔力。
これは生まれ落ちた瞬間から、生涯変わらない。
そう、こればかりは血統による恩恵が、大いに関係するのである。。
生まれた瞬間優劣が決定してしまう、なんとも世知辛いものなのである。
体内魔力は使えば消費されるが、食事や睡眠を取ることによって回復する。
また緊急時には外部に浮遊している魔素を取り込んで、魔法を使うこともできるが推奨はされない。なぜなら、外部魔素はほとんどの場合汚れたものが多く、体内を傷つけることが多いからだ。ただ、それでも使用する場合があるのは、戦場で体内魔力を消耗した場合、それと自身の体内魔力では倒せない敵と遭遇した場合、やむを得ない場合に、使用することがある。
ふんふんふんふん?ん?んん?
私は愕然とした!
なぜか?なぜかと問うてくれるか?
よろしい。教えて差し上げようではないか!
身体の隅々まで探ったにもかかわらず!
体内魔力が存在しなかったのである!
魔力がない。それは貴族であれば、致命的である。
私が貴族の生まれであったならば、殺されるか捨てられるか、あるいはよくて養子に出されるかである。
なんということか。せっかくこの世に生まれ出でたのに、即行死へと逆戻りなのか。
再度、魂が身体から剥がされる、あの激痛を、耐えなければならんのか!
私は絶望した。
私はいつ死神の手が伸びてくるのか、戦々恐々とした。
そして私は赤ん坊。
泣きわめくことと直結した。
「ぎゃああああああ!!」
私は最大限の肺を使って、泣いた!わめいた!声の限りに!
誰も私をとめられやしない!
赤子は我慢がきかないのである!
いや、きかせたくもないのである!
そんな私をあやしてくれている人間がいた、おそらく母であろうが、それで私の気が収まるか!
これが泣かずにいられようか!
神はなんという枷を、私につけたのか!
泣いて、泣いて、泣き疲れて寝てしまったのは、これも仕方がない。
私は赤子なのだ。
そうして腹が減って、また泣いた。
私は殺されるまでは、乳を所望するぞ!
空腹で死にたくはない。
その私の希望が届いたのか。すぐに乳が与えられた。
私は力の限り、乳を飲んだ。
そうしてまた眠った。
それを幾日か繰り返したのかわからぬが、どうやら私は生かされるらしいことがわかった。
私を取り巻く雰囲気は、穏やかで優しいまま。
私に魔力がないことに、両親は気づいていないのか?
どういった理由で、私は生かされているのだろうか?
理由を知らなければならない。
私はまだそれほど機能していない、耳を懸命に澄まし、母であろう柔らかな声を聞く。
そこで私は2度目の驚愕に見舞われたのである!
言葉がわからない!
前世での私は数カ国語を話せたが、どれにも当てはまらないのである!
なんということか!
私は違う大陸に生まれたのか?!
それともかなりな僻地に生まれたのであろうか?
まさか、まさか、まさか!!
前世で過ごした世界ではないのか!?ここは!?
世界は驚きに満ちているというが、まさにそれである!
更に日が経ち、目がなんとかぼんやりと見えるようになって、わかったことがある。
この世界には魔素がないのある。
私は生まれた施設から、おそらく親の自宅だろうところに連れられて、しばらくは1つの部屋で乳を飲み、寝てを繰り返していた。
その時の私は、最初の志など、頭から吹っ飛んでいた。
まずは自分を取り巻く環境の確認が先であった。
体内魔力がないのもこの際、後回しだ。
今のところ私は生かされているのだから。
後回しにしたことで、後にハンデになろうとも致し方なかろう。甘んじて受けよう。
それよりも異世界に来たのか否か、それの確認が先である!
情報の入手が、急務である!
私の情報の入手先は、今のところ、両親しかない。
乳母はどうやらつけられていないようである。
乳母をつけない家庭、そして体内魔力がない。
それを考え合わせると、私は平民に生まれた可能性がある。
いや、まだ結論づけるのは早かろう。
情報、情報を、得なければならない!
私に乳をくれ、世話をしてくれる女性はおそらく母だろう。
顔はまだわからないが、私への献身的な愛を感じる。
ありがたいことである。
私にできるのは、せいぜい愛想よくし、なるべく世話をかけないことだけである。
母が私の世話をしてくれている時、私に度々話しかけてくれる。
やはり聞いたことがない言語である。それでも懸命にヒアリングをする。
私が赤子の時には、ほとんど1つの部屋で過ごしていたが、たまに部屋から外へと連れ出されることがあった。
それは散歩であったり、病院であったりした。
病院たる場所は、検査なるものをされて、不快になることが多く、泣かされることが多々あるので、好きではないのである。
それはおいておくとして、外に連れ出された際に、大気を探査してみたところ、魔素がまったく感じられなかったのである。
これはに体内魔力がないから、魔素を感じないのか。それとも魔素自体、この世界には存在しないのか。
私の勘では、後者の可能性が高い気がする。
私の両親が魔法を使ったところを見たことがないのも、その考えの一因にもなっている。
両親が平民であるなら、魔法が使えないのも当然であるので、まだ断言はできない。
しかし、決定的に私が生まれた世界が、異世界だろうと決定つけたのは、遠方に行く際に使う、移動手段である。
車なる鉄の塊。生き物を使わずに移動できる。これは前世にはなかったものである。
魔素がない。言葉が違う。未知の移動手段たる車。
これがここは異世界であると、私が決定理由である。
異世界に転生。
なんという甘美な響きであろうか。
前世とまったく違う世界であるならば、私が体内魔力がなくても問題ない。
魔素や魔力、そして魔法が存在しない世界ならば、貴族であれ、平民であれ、私が生き延びる可能性が、上昇したことを意味するのである!
私は更に観察し、両親の言葉をリスニングしつつ、考察を進めた。
私の世話をしてくれる女性と男性、おそらく母と父だろう2人の人間は、先にも言ったが、まったく魔法を使わない。
というか、魔法を必要としない世界であった。
部屋に明かりをつけるのも、スイッチ1つで驚くほどに明るくなる。病院に行く際の移動手段として、私は車なるものにのせられ、信じられないスピードで長距離を移動した。さらにはテレビなるもの、これはスイッチ1つで、金属の平面に人が映り、動き回っている。どういう仕組みなのか?その燃料はなんなのか?
私は徐々に明らかになる高度の文明に遭遇して、茫然自失となった。
この世界、かなり文明が進んでいる。もはや疑う余地はない!
やはり異世界である!異世界転生である!!
なんということだ!なんということか!
学ぶ事が!知りたい事が!たくさんだ!
早く言葉を覚えたい!早く本を読みたい!早く早く!
私の好奇心は大いに刺激された!
それとともに、私は愕然とした!
私の前世の知識は、役立たずではないのか?!
まったく違う世界、前世よりも進んでいる文明において、私の前世の知識はあまりにも無力であった。
私のアドバンテージは消え失せたのである。
人生、うまくはいかないものである。
神様は私にどうしても、試練を与えたいようである。
はっ!私が知ってる神さえも、この世界には存在しないのではなかろうか?!
前世の神は次元の彼方、そしてこの世界の神を私は知らぬ。
誰も私を守ってくれないのか!?のだな?!
その日、私が、ふて寝をしたのは言うまでもない。
とはいえ、いつまでもすねている訳にもいかない。
最後に残された、私のアドバンテージ。
それは大人として生きてきた記憶だ。意識の確立。
それだけが、私のアドバンテージだ。
しょぼいアドバンテージである。
しかし、生まれてすぐ、殺される可能性は限りなく低くなった。
ならば、立ち上がろうではないか。
多少混乱し、出遅れてしまったが、大人としての意識が私を立たせてくれる。
魔力がないなら、頭を鍛えるしかないだろう。
私は再度頭を切り替えた。
以上が、私の赤子時代の思考である。
諸君、満足してくれたであろうか。
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