給料日といちごのスイーツ

 きょうは騎士団の、待ちに待った給料日である。

 みななんとなく浮かれている。わたしも実は浮かれているが必死で「いつも真面目な姫騎士ジェイド」のふりをしている。たぶんダグラスも「いつも真面目な騎士ダグラス」のふりをしている。かわいいやつめ。

 しかし騎士の生活というのは騎士団の寮で暮らし、まかないがついているのでお金の使い所は着るものが中心になる。博打に使うのは騎士道精神に反しているのでやってはいけない。

 着るものかあ。もうかわいいブラウスは何着も持っている。やはりここは最近王都に開業した豪華なホテルでスイーツを食べるべきではないのか。

 訓練終わりにそれをダグラスに話す。


「団長、なんで俺に相談するんですか」


「だって1人で行くの、ちょっと恥ずかしいし」


「俺は高級ホテルのスイーツなんて恥ずかしいもの食べませんよ」


「恥ずかしいことはないだろう」


「いいですか団長。俺たちは騎士団員です。質実剛健、質素倹約、清廉潔白を旨とする騎士団員です。それが高級ホテルのスイーツを食べに行くなんて、恥ずかしいことなんです」


「ならいい。わたし1人でいく」


「それはいけません。団長はガニ股ですがレディーですので俺がエスコートいたします」


 どうしたいんだ、ダグラスよ。あとガニ股は余計だ。


 ◇◇◇◇


 王都に最近開業した大きなホテルに来た。

 きょうは私服である。かわいいブラウスに紺のスカート、かわいい赤い靴。

 ダグラスのほうはシンプルに、ワイシャツにベストにスラックスだ。


「よおし。なにを食べようかな」


「団長、あんまりはしゃがないでくださいよ」


「わ、わかっている! しかしスイーツと聞くとワクワクしてしまうんだ。そうだな……プリンアラモードといちごゼリーといちごのタルト、あと紅茶と……」


「それは多すぎやしませんか」


 そんなことを言いつつ、ガラスの回転扉をくぐる。制服を着たボーイさんが現れて、スイーツを食べに来たのだが、と声をかけると、喫茶室に案内してくれた。


 喫茶室は静かで落ち着いた部屋だ。

 さっそくプリンアラモードといちごゼリーといちごのタルト、紅茶を発注する。ダグラスは痩せ我慢をしてコーヒーだけのようだ。食べればいいのに。


 まずプリンアラモードと紅茶が出てきた。かっちりと硬めに仕上げられたプリンの上にクリームが絞られ、さまざまな果物が飾りつけられキラキラと輝いている。まさに食べたかったやつ。


「ではいただきます」


 はむっ。クリームとプリンをいちどに口に含むと、プリンの甘さとカラメルのほろ苦さ、クリームのなめらかさが口の中で響きあう。まさに至高!!

 続いて果物を口に入れる。メロンはかぐわしく、オレンジは爽やかな酸味、いちごのだれが食べてもおいしい味……!

 プリンとクリームと果物をいちどにいく。さまざまな食材の混じり合った、最高の美味が口の中をぐわんぐわんと揺さぶる!!

 揺さぶられたのち紅茶を飲めば、ほのかな渋みで口の中がさっぱりとする!!


「はぁ……おいひぃ……」


「団長。緩みすぎです」


 ダグラスに注意されてしまった。そこまで緩んでいるだろうか。

 続いていちごゼリーが出てきた。スライスしたいちごを、いちごと生クリームのゼリーに並べて固めたものだ。いただきます。ムッ、美味!!

 いちごの爽やかな酸味が心地よく、生クリームの上等さとまろやかさがよくわかる。

 ちょっとこれは反則なんじゃないの。いちごゼリーは夢のようにぷるぷるで、こんなにおいしいものを食べられるなんて……と軽く感激するまである。


 いちごゼリーで緩んでいると、ホテルの菓子職人が現れた。


「姫騎士様。この度は当館へのお越し、ありがとう存じます」


「あなたがこれらのお菓子を作ったのですか?」


「はい。いまいちごタルトをお持ちしましたところです」


 デンッ!!!!


 円形を6等分に切り分けた大きないちごタルトだ!

 いちごには薄いゼリーをかけてツヤを出しており、いちごと生地のあいだにはカスタードクリームを敷いてあるという贅沢極まりないお菓子である!!!!


「どうぞお召し上がりください、姫騎士さま。そちらの殿方は……恋人ですか?」


 あやうく噴きそうになった。

 ダグラスをちらと見るとなにやら落ち着きなく目を彷徨わせている。


「いいえ。後輩ですわ。弟みたいなものです」


「そうでしたか。失礼いたしました」


「構わなくってよ。ちゃんと女として認識されているのだなあと思うとちょっと恥ずかしいけれど……」


「こちら、当館からのサービスです。形は不揃いですが味は最高ですので、ぜひ」


 いちごの練乳がけが出てきた。


 菓子職人にお礼を言う。菓子職人は嬉しそうに喫茶室を出ていった。目の前ではマスターが紅茶を淹れている。


「ダグラス、これ食べるか?」


「いっ、いいいいいりませんよ! だだっ団長が食べてください!」


「そう言うな。このいちごの熟れかたをみろ、まさに今が食べごろ! 食べないと後悔するぞ」


「おっおっ男は甘いものなんて食べないんです! だからコーヒーで我慢してるんじゃないですか!」


「ほーう。コーヒーで我慢していたのか。つまりなにかしら食したい、ということだな?」


「……そりゃ、団長があれだけ幸せそうに物を食べているのを見れば……」


「だったらこのいちごの練乳がけを食べるといい。わたしはいちごタルトを食べねばならない」


「なんですかその変な使命感は。騎士としての任務に使命感をもってくださいよ」


 ダグラスはわたしをジト目で睨んだあと、いちごの練乳がけを一つ食べて顔を緩めた。

 だれでもおいしいものを食べればこうなるのだ。もちろんわたしは遠慮なくいちごタルトをもぐもぐした。う、うまいっ!!!!

 いちごの酸味とカスタードクリームの甘さが、サクサクの生地にまとめられて芸術の域だ!!


「姫騎士様もぜひ練乳がけを召し上がってください。不揃いながら極上のいちごです」


 マスターが紅茶を注ぎながらそういうので、一ついちごを口に運ぶ。

 お、おいしい。こんなおいしいもの久しぶりに食べた。確かに形は大きくていびつだが極上のいちごというのは頷ける。

 これはヤバいよ……。

 つい素の、ふつうの町娘みたいなセリフが出かかって、ぐっと堪えて姫の口調に持っていく。


「これは本当に美味ですわね……」


「喜んでいただけてなによりです」


 ◇◇◇◇


 というわけで給料日を満喫した。けっこうな額だったがこれだけおいしければ納得の額だ。

 ダグラスと騎士団の寮に帰る。ダグラスはぼそっと、「団長もあんな女の子みたいな話し方するんですね」と呟いた。

 恥ずかしかったので、次の日の訓練ではダグラスをボッコボコにしてやろうと決めたのだった。

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