第14話 “お誘い #2/2”
冷たいお茶を飲み、気を落ち着かせる。
さあ、下着はそうですね、後にしよう。ドレスだ。ドレスからお脱がせしよう。
逆順だから、ええ、まずはパニエだ。これは簡単だ。ほら、ゴムで腰回りをぎゅっと締め付けているので、そっと、腰の後ろに左手を回して、右手は肌とパニエのゴムの間に差し入れ、ぐっと開く。腰からお尻、太もも。なるほど、ドールの身体構造上、両脚を横にそろえた状態では太ももの方が幅があるのだ。少し通りづらいので、脚を斜めにそろえていただいて、と。続いてオーバースカートも同じように脱いでいただいた。
後は上身頃の後ろのホックを外し、腕を前にそろえていただいて、するり。
鎖骨から胸にかけてが外気にさらされる。かがみこんだ姿勢になった紗雪から、非難がましい視線が送られているような感じが。ああ、見下ろすようになっているので、こう、上目遣いで”ジトッ”と睨まれ、怒られているように感じてしまう。何かまずいことをしてしまっただろうか。
ああ、現在進行形で、人形少女の柔肌を覗いている。これは確かによろしくない。急ごう。
“オーナー、えっち…”
怒られ…というよりも、恥じらいに拗ねているような声音を聞いたような…空耳だ、空耳。ただの私の妄想だ。
ついにドレスをお脱がせすることに成功したが、脱がせかけていたパンツが…微妙に引っかかってしまっている。意を決して、するりと、脚を通し。無心。無心だ。ついに生まれたままの姿で横たわる紗雪。
脱がせる最中に動かした肢体がそのままのため、少々バランスが悪く、手足が不ぞろいな方向を向いてしまっている。これがまた、どことなく背徳的な、疲れたような雰囲気を醸し出しており、大変いたたまれない。うっすらと開いた唇から、吐息が漏れているように感じられる。
ひとまず自然体にポージングを直し、バスタオルで包み込むように体を隠す。
さあ、いよいよお寝間着だ。これは、着せるのはきっと簡単だろう。
まずはパンツを。
「お、おや?」
先ほどのドレスでは簡単に着せ替えできたパンツが、引っかかる、通らない。脚を通す穴がぎりぎりなのだ。あまり力ずくにしては痛いだろうし、布地を傷めるかもしれない。しかしホックなども無いようだ。ゆっくり、そっと、太ももの表面を滑らせるように通していく。バスタオルの上に横たわる紗雪が徐々に押され、上へ、上へと逃げていってしまう。
「やむを得ませんね」
そっと彼女を膝の上に抱き上げ、背中をこちらに向けていただく。足を前に伸ばし、膝の上で腰かけるように。こうすれば、背中が私の下腹部に支えられ、しっかりと保持されるだろう。
やった、ついにパンツをはかせることに成功したぞ!
ぐいぐいと、お尻が押し付けられ、なんだか変な気持ちになったが、とにかく成功だ。
さあ、このままブラジャーをお付けしよう。
繊細な肩ひもを腕に通し、肩の球体関節から内側へ。
背中のホックが、1つ、2つ。2つ留めるのか。縦に並んだ鉤ホックを一つずつ留めていく。
ホックの受け口が横に3列あるが、これは胸のサイズを変えても対応できるようにだろう。さすがに、そこまで鈍感でもなければ、無知でもない。
可愛らしい薄桃色の下着姿の、ツインテールの美少女が膝の上に腰かけている。
これは、そう、これは決してやましい気持ちではないのだ。ただ、髪のさらさらとした感触が。緩い縦ロールになったツインテールが吸い込まれるような魅力を生み出していたのだ。
撫でてしまった。
紗雪に気持ち悪がられるのではとずっと遠慮していたが、ついに、髪を乱さぬようそっと、頭をゆっくりと撫でている。すべすべ、さらさら。なんと至福の指触りなのだろう。
後ろから抱きすくめるがごとき体制で、顔は見えないが、ええ。控えめに言って最高だ。
「気持ちいいですか?」
つい、問いかけてしまう。なんと癒されるのだろう。柔らかな髪に沿って、頭から首元までゆっくりと撫でる。ただ、それだけで時間が過ぎていく。
夜の静寂に腕時計の秒針の音が、「チッチッチッ」と響く。
ソファに背を預け、私の運命の人形少女を膝の上に抱き、ただ頭を撫でる。
それだけの時間が値千金にも思える。
名残惜しく感じつつも、ずっと下着姿では風邪をひかせてしまう。ネグリジェを着せて差し上げよう。
膝の上、こちらへと向き直っていただく。
目、目が合った! 今目が”逢い”ました! なでなでを嫌がられてはいなかったようだ。そっと上目遣いでこちらを見上げてくれている彼女の頬が、心なしか赤らんで見える。恥ずかしかったのだろうか。
かわいい、可愛いぞ!
いや、もしかして、下着姿を見られて恥ずかしかったのだろうか!?
こ、これは飛んだ無礼を。急ごう。今、お寝間着を着せますので。
腕を後ろに差し出していただき、そっと両袖を通す。
が、髪の毛を巻き込んでしまう。長髪など自信でしたことがなかったので盲点だった。
そっと後ろ髪を左手でかき上げ、そっと背に薄布を添わせる。
はらりと背に零れ落ちた髪が、指先に確かな存在の重みを感じさせる。
ああ、このまま胸にかき抱きたい気持ちを抑える苦痛たるや。
しかし、いけない。同じ過ちを繰り返すわけにはいかないのだ。
最後に、胸元でリボンを、蝶々結びに。
……。
何度もやり直すが、なぜだろう、可愛く横向きに収まった蝶々結びを期待しているのに、縦に輪っかが並んだ蝶々結びしかできない。
いつも何気なく購入する菓子折りや贈答品のリボン結びが、こんなにも難しいものであったとは。
またもネットの海のお世話になり、ようやく多少見られた形に落ち着く頃には、何十回結び直したかわからなくなっていた。
「添い寝、したいですね」
その言葉は、口をついて、つい出てしまっていた。
このままお休みできるよ、と、語りかけてくるような紗雪の姿が目の前に、バスタオルの上で横たわっているのだ。
誰が我慢できるというのだろうか。
いや、しかし、同じ布団の中で眠っては、寝返りや、何かの拍子に傷つけてしまわない保証がない。
なんともどかしいことなのだろう。
しかし、寝室のベッドから見えるとはいえ、距離を隔てたPC机の上はあまりに遠い、味気ない。
ベッドサイドテーブルから見守ってもらおうか。いや、それでは一緒に眠ったとは言えない。
押し入れの奥を覗いてみると、
「予備の枕がありましたね」
良いことを思いついた。おもむろに、自分の枕を部屋の床側に寄せ、セミダブルサイズのベッド壁側に枕を置いてみる。
真ん中をぎゅっぎゅと、少し押してつぶして。
「紗雪、ここに寝てみてもらえますか?」
お姫様抱っこのような姿で、両手を膝、背の後ろに回し、恭しくお連れする。
美しい髪を敷き込まないように注意して、枕中央のくぼみにそっと横たえると。
「おお!」
完璧だ、素晴らしい! ちょうど横になると、目線からほんの少し高い位置から見つめ返してくれているではないか!
綺麗なハンカチをそっとかぶせてあげ、添い寝用簡易ドールベッドの完成だ!
「これは、素晴らしい夢が見られますよ?」
かくて私はついに、紗雪との添い寝を実現したのであった。
“おやすみなさい、オーナー。良い夢を見てくださいね”
私には確かに彼女の声が聞こえていた。
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