【掌編07】低軌道の対決(SF)


「『プラネテスって漫画あったの知ってる?」


通信感度が悪い。


「あ…あ。…知っ…る」


私たちの仕事がまさにそれ。

スペースデブリを取り除く仕事だ。


「このポンコツ!」


思わず、通信装置を叩いた。


ここは、地球の低軌道圏。


私たちは、人型スペースデブリ除去装置 Humanoid Orbital Debris Scavenger「ホッズ」に乗り込んで宇宙のゴミを除去している。


過去には宇宙用ドローンを使っての除去も試みたことがあった。

しかし、デブリは秒速七キロメートル。

仮に地表でドローンを操作しても0.5秒の遅れが出てしまう。


だから、人力で除去する装置ホッズが開発された。

名前はかっこいいけど、宇宙服に防護用バンバがくっついた代物。


増え続ける人類には仕事がなかった。

AIによるホワイトカラーの仕事の減少。

宇宙開発で増え続ける宇宙ゴミ。

必要最低限で作れるホッズは最高の仕事を提供してくれる。

これが求人広告ね。


──私たちは使い捨て。


ダァン。

ホッズが激しく揺れた。

素早くアームを操作して命綱をつかむ。


──ゴミが当たった。


ホッズの全身を覆うバンバが貫通を防いでくれた。

一ミリ平方メートルのサイズでも当たれば鈍器に殴られたような衝撃がくる。


これより大きければ、即死は免れない。


「だ…じょう…か」


私は右手をあげて相棒に無事のサインをした。


何かが相棒に当たった。


──え?


相棒のホッズが半分のサイズになった。

キラキラと氷が散って輝いている。


軌道の向きと反対から何かが飛んできた。


──ありえない。


相棒は地球の重力に引っ張れながら、赤く染まった。

数分で焼け尽きるだろう。


それよりも、さっきの物体が何か突き止めないと。


恐怖で身が強張る。

携帯用レーザー砲を充填した。

パネルのメーターが徐々に増える。

まずは、物体の位置を押さえろ。


何かが一瞬横切った。


──速い。


だけど、秒単位の反応じゃ負けない。


──見えた。


何かがまっすぐ向かってくる。


レーザー砲の充填が溜まった。


奴は向きを変えた。

照準がブレる。


──当てられる?


発射ボタンを押した。

衝撃で後方に押し出された。


目に見えない光が奴にあたり四散した。

──何、あれは?


飛び散った奴を見て全身が震え出した。

それは巨大なクマムシだった。

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