第3話
英雄が死んでから、五年の歳月が流れた。
いま、ヘイタンは二十歳を迎えていた。
かつて農民の少年だった彼は、鍛えられ、規律を身につけた若者へと成長していた。
この年月、彼はひたすらに己を磨き続けた。剣術、体力、そしてわずかながら基礎的な魔法も。
――決して突出した才能を示したわけではなかったが。
ヴァージニア。
かつて小さく忘れられていたその町は、今や変貌を遂げていた。
英雄の名声が町を地図に刻み、王国中から観光客が彼の墓を訪れるようになった。
そして新たな住民も移り住み、かつて静寂に包まれていたその場所は、活気に満ちる町となった。
その特別な日。
かつて英雄と共に旅をした仲間たちが、再び集まっていた。
すでに冒険を退きはしたが、その名声はいまなお健在。
彼らはヘイタンの家に集まり、若者を迎えた。
「随分と大きくなったわね……」
かつて彼を世話してくれた魔導士が言った。
彼女の瞳は懐かしさに輝き、青年を見つめる。
「筋肉までついて……」
ヘイタンは少し照れたように後頭部をかいた。
「それで……あんたは? 旅のあと、どこへ?」
彼女はかすかに微笑んだ。
「故郷に戻ったの。いまは穏やかな暮らしをしてるわ。週に何度か学校へ行って、子どもたちに魔法を教えているの。……昔の生活とは、ずいぶん違うけれどね。」
二人は長く語り合った。
記憶を、物語を。
やがて、太陽が地平に沈み始める頃――期待と緊張が空気を満たしていった。
その時が、来たのだ。
部屋の中央に置かれた台座の上。
魔法の紋章に照らされて、ルミノス・ソードが眠っていた。
継承の儀――ヘイタンが兄の剣を受け継ぐにふさわしいかを試す試練。
深く息を吸い、青年は一歩踏み出し、手を伸ばした。
最初の試み――
何も起きなかった。剣は動かず、光さえ放たなかった。
「落ち着いて。焦らないで。」
魔導士がやさしく声をかける。
「もう一度、試してみなさい。」
喉を鳴らし、息を整え、再び手を伸ばす。
かすかな光が剣に宿り――だが、すぐに消え去った。
「くそっ……」
ヘイタンは拳を固く握りしめた。
沈黙の中、皆の視線が集まる。
重圧が彼の肩にのしかかる。
「もう一度だ。」
青年の声は揺るがなかった。
「俺は、やり遂げる。」
瞳を閉じ、心を集中させる。
思い出す――農場の日々、墓前での祈り、兄に誓った約束。
そして、三度目の手を伸ばす。
その瞬間、剣はまばゆく輝いた。
永遠にも思える数秒の間、光は強く燃え上がった。
ヘイタンの心臓は激しく打ち――
だが、光は揺らぎ、そして消えた。
……静寂。
重苦しい失望が場を覆う。
ヘイタンは一歩退き、荒い息を吐いた。
「……俺は、失敗した。」
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