第23話黒外套の襲撃
夜明け前の闇は濃く、村全体が息を潜めていた。
見張り台の上で弓を構えたダリオが、森の奥を睨みつける。
冷たい風が吹き、獣の匂いに混ざって異様な気配が漂ってきた。
「来るぞ……!」
彼の声と同時に、森から矢が一斉に放たれた。
木を叩く音、地面を穿つ音。村人たちの悲鳴が上がる。
俺はすぐに槍を構え、ナギサを庇いながら前へ出た。
黒い外套をまとった男たちが影のように走り出し、柵へ飛びかかる。
「守れ! 柵を死守しろ!」
オルドの声が広場に響く。
矢を避けつつ、俺は最前線に飛び出す。
一人の
「ぐっ……!」
相手の体勢が崩れたところを突き、倒す。血の匂いが広がり、村人たちの恐怖が一層強まった。
ナギサが背後から短剣を抜き、柵を乗り越えようとする敵の腕を斬った。
獣のような鋭い動きに敵が怯む。
「レインに……近づくな!」
叫びと共に彼女は尾を振り、必死に俺にしがみつく。
その間にも、別の黒外套が柵を破ろうとしていた。
「支えろ! 支柱を押さえろ!」
ダリオの叫びに、村人たちが駆け寄る。
だが力は足りず、今にも崩れそうになる。
そこへ海斗が木槌を手に走ってきた。
「待て! ここは斜めに補強するんだ! 支柱をこう組めば力が分散する!」
村人たちは半信半疑で従い、慌ただしく木材を組む。
次の瞬間、倒れかけた柵が踏みとどまり、敵の突撃を受け止めた。
「おお……!」
「本当に持ちこたえたぞ!」
村人たちの目に驚きと安堵が浮かぶ。
海斗は肩で息をしながらも、必死に叫んだ。
「俺だって……俺だって、この世界で生きられるんだ!」
その背中を見つめながら、俺は息を整えた。
彼の存在がまだ脅威か希望か分からない。
だが少なくとも、足を引っ張るだけの存在ではなくなりつつある。
矢の雨は収まり、黒外套たちは一旦退いた。
だが森の奥にはまだ多くの影が潜んでいる。
「今のは、試しだ。……次が本命だろう」
俺は槍を握り直し、夜明けを待った。
敵が一度退いたことで、広場にはわずかな静寂が訪れた。だがその空気は決して安堵ではない。むしろ、嵐の前の一瞬の静けさにすぎなかった。
柵の外では、森の影がざわめき、低い唸り声が響いていた。黒外套がまだ多数潜んでいることは明らかだ。
ダリオは矢を番えながら低く言う。
「油断するな。奴らは数を測っただけだ。次は全力で来る」
その言葉に、村人たちの背筋が固くなる。
ナギサは俺の腰に抱きついたまま、鋭い耳を動かし続けていた。
「いっぱい……いる。ぜったい、もっと来る」
その声には恐怖が滲んでいたが、同時に強い執着もあった。
「レインを……取らせない。レインはナギサの」
彼女の言葉は独占の意思に満ちていて、村人たちが思わず目をそらすほどだった。
その中で海斗は、先ほどの補強の成功でようやく少しの自信を得たのか、震える声で言った。
「俺……もっとできることを探す。俺だって、ただ怖がってるだけじゃない……」
誰もすぐには答えなかったが、村人たちの視線には昨日までにはなかった色が宿っていた。完全な信用ではないが、少なくとも「足手まとい」ではないと認識され始めていた。
やがて村長オルドが杖を突き、広場の中央で言い放つ。
「次の波が来れば、正念場だ。逃げれば終わる。皆の命は皆で守る」
老いた声が炎に揺れ、村人たちはそれぞれ武器を強く握りしめた。
俺は槍を構え、深く息を吸い込む。
背後でナギサの小さな手が袖を掴み、離さない。
森の向こうで、黒外套たちの動きが再び大きく揺れ始めていた。
――これは、ただの前触れにすぎない。
本当の襲撃は、これからだ。
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後書き
第23話では、黒外套がついに村を襲撃する場面を描きました。ナギサの必死さと、海斗の知恵が初めて役に立つ展開です。
次回は戦いの第二波。村人たちが本格的に試される局面に突入します。
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