l-lll 眩暈、邂逅
一瞬、自身の身体が平衡感覚を失ったのかと思ったが、そうではなかった。
最初に聴いたものとはまた違う、何かが崩れる轟音。同時に、私自身が、地面ごと大きく揺れる。パラパラと頭上から何かが降ってきた。よく見ると、小石だ。天井を構成している岩の一部が、落ちてきている。
「地震かっ」
「いや、違う。全員、地上へ向かいなさい!ゼーラエ、騎士達は」
「地下にいる騎士は、ここにいる者で全てです!残りは伝令に向かっているか、地上の見回りに出ています!」
「よろしい、先導して地上へ向かってください!」
さすが、仕事が早い。まず部下を先に地上へ向かわせる。巨大な施設のくせに、地上と地下を結ぶ階段は一つしかない。幅自体は広いが、どうしても、移動は時間がかかる。その間にも、小石の降る量は増えていく。初めは私しか気づいていなかったようだが、だんだんと周りの騎士たちも気づき始めている。
最後尾につき、騎士たちの移動を待っていると、ふと視界の端に人影がよぎった。
「見間違いか……いや、違う。あれは……」
「師団長、いかがしましたか」
疑問を伴う騎士の呼びかけをよそに、人影の見えた方向へ目を凝らす。暗いが、確かに、微かにだが白く小さい影が動いている。
「申し訳ありません。貴方たちは、先に地上へ」
「師団長……?どこに向かわれるのですか、ウィザム師団長!」
呼び止める声を無視して影を追いかける。明らかに移動速度は私の方が早いはずだが、角を曲がった途端に見失う。通路の先に視線をやると、また人影が見えた。
(これは、まさか……)
また追いかけてみれば、同じように見失い、同じように人影を見つける。
(やはり……誘導されているのか。どうする)
このまま追いかけるべきか、戻り地上へ向かうべきか迷う。しかし、今から向かって間に合うだろうか。天井の崩壊は確実に進んでいる。そもそも、私はなぜあれを追いかけているのだろう。いや、それは危険な魔物が放たれたと分かっているのに、崩落で行方が分からなくなったらマズイからで……だが、そんなことを考えていたら手遅れに……仕方ない。追いかけるしかない。
思考の迷路に陥りそうになる頭を振って、足を進める。しばらく見失っては見つけ、追いかけては見失い、見つけては追いかけを繰り返していると、島と島を結ぶ橋の上に出た。
追いかけていた人影は、逃げるのをやめ、橋の真ん中に突っ立っている。
白い髪に金と紫の目、左目は長い前髪で隠れかかっていて、手足は枝のように細く、肌は死人のようだ。6、7歳くらいだろうか。痩せ細っているのも相待って、随分と小さく見える。
警戒し、剣を抜いて相対する。こちらが武器を構えたというのに、子どもは全く動かない。寝ている、なんてことはないであろうが、動じないというのは不気味でもある。
ゆっくりと近づいていくと、不意に子どもが口を開いた。
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