第四章 二話 剣の壁
白亜の教会へと続く大通り。石畳の両脇には沈黙した家々が並び、窓の奥から感情を失った人々の視線が突き刺さってくる。その視線を背に、一行と王国騎士団は歩みを進めた。
やがて――鋼のきしむ音が、前方から整然と迫ってきた。
十数名の兵士が列を成して立ちふさがる。全員が鎧に身を包み、抜き放たれた剣は陽光を反射して白く光った。その姿は人形じみておらず、むしろ一人ひとりが磨き抜かれた剣士の気迫を放っていた。
「ただの兵じゃないな……」カイムが低く呟く。
「ミカエルの加護を受けた剣士たち。剣技を極限まで高められている」ランスの声は重い。「一人で十人分の力を持つと思え」
次の瞬間、兵士たちは合図もなく動いた。無駄のない足運びで間合いを詰め、統率された剣筋が一斉に振り下ろされる。
「来るぞ!」
王国騎士団の前列が盾を構えて受け止め、火花が散った。だが押し込まれる。剣を振るうたびに鋼が唸り、わずかな隙も命取りになるほどの鋭さだった。
その中でティナが月女神の義手をかざした。淡い光が瞬き、弓が形を成す。引き絞った瞬間、矢が自ずと生まれ、未来視に導かれて放たれた。
シュン――。
矢は兵士の動きを先読みし、わずかに剣を振り上げた瞬間の喉元を正確に貫いた。
「……すごい」カイムが息を呑む。
二の矢、三の矢。いずれも兵の軌道を読み切り、一撃で仕留めていく。
カイムはその隙を逃さず前に出た。ティナの矢に動きを乱された兵を斬り伏せ、さらに一歩踏み込む。
背後から矢が迫ったが、そこへクリスの障壁が小さく展開され、軌道を逸らした。
「ありがとう、クリス!」
「まだよ、右から来る!」
クリスの声と同時に、彼女は小さな障壁を二つ三つと連続で生み出す。刃を滑らせ、角度を狂わせ、そのわずかな隙にカイムの剣が兵を倒した。
ルーカスも両手を掲げ、無詠唱の力を解き放つ。赤黒い奔流が渦を巻き、数人の兵をまとめて吹き飛ばした。
「ったく、達人揃いかよ……でも当たらなきゃ意味ねぇだろ!」
だが兵士たちは崩れない。すぐに体勢を立て直し、鋭い剣筋で押し返してくる。騎士団も防戦に回り、膠着が続いた。
その時――低い祈りの声が響いた。
白衣の神官が二人、背後から歩み出る。手にした聖印が輝き、兵士たちの剣がさらに重く、速くなった。
「まずい、強化されてる!」ランスが叫ぶ。
「くっ……!」カイムは弾き返された衝撃で腕が痺れた。
兵たちの動きは先ほどまでとは別物だった。斬撃は風を裂き、盾を弾き飛ばし、王国騎士団の列を割ろうとする。ティナの矢も読み切れず外れ始め、クリスの障壁が何度も軋んだ。
「数も多い……!」ルーカスが息を荒げる。「このままじゃ押し潰されるぞ!」
前列の騎士が一人、膝をついた。そこへ容赦なく剣が振り下ろされる――
「下がれ!」モルドが飛び込み、その刃を弾いた。
「このままでは持たん!」ランスが声を張る。
二人は互いを見やり、迷いなく頷き合った。
「俺たちが前に出る!」
「後ろは任せた!」
モルドが大剣を肩に担ぎ、ランスが鋭く剣を構える。
二人は迷いなく一歩踏み込み、敵陣の最前に身を投じた。
白亜の教会へ続く石畳の道、その最前線に2人の騎士が立つ。
圧倒的な剣気が広がり、戦場の空気が一変した。
仲間も兵も、誰もが息を呑む中――
2人の騎士が前線を引き受け、戦場の中心へと躍り出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます