第7話 市役所へ行く
裁判所を訪問してから三日後、父親とA男の本籍と住所を管轄する乙市役所の分庁舎に行く。
分庁舎の方が家から近くて駐車場も広くて、施設も新しいのだ。
ここでは、
・ 父親の戸籍謄本(一生分)と、住民票の除票
・ A男の戸籍謄本と住民票
・ 実家の固定資産税評価証明書
を取得することが目的である。
これら必要書類をチェックして、自分の身分証明書、そして不要と思われたが印鑑、そして現金を確認し、分庁舎へ向かった。
市民課の窓口に行って周辺を観察する。
ここではラミネート加工された番号札を順番に取って受付をするようだ。
番号札を取って、戸籍謄本を申請するための用紙を探す。
用紙が見つかった、と思ったらすぐに番号を呼ばれた。
「済みません、戸籍謄本が欲しいのですが、まだ用紙を記載していません。」
私を呼んだ中年の女性職員に告げると、
「良いですよ、これを書いて下さい」
そう言われ、戸籍謄本の交付申請の用紙を渡される。
それを急いで記載してその職員に渡すと、兄の分の(戸籍謄本、住民票)申請用紙を見て、
「これは弟さんのモノが欲しいのですね」
と言われる。
申請用紙には、
・ ① 窓口に来た方
・ ② どなたの戸籍謄本が必要ですか
・ 上記②から見た①窓口に来た方の関係
を書くように記載されている。
私は関係について、①(窓口に来たのは)弟、と記載した。
A男から見たB男は弟だ。
必要な戸籍謄本は②であるA男だ。
どうやったら、A男が弟になるのだろうか?
「いいえ、兄の分です。私間違えて記載していましたか?」
「あっ、お兄さんの分が欲しいのですね。」
というやりとりを5回ほど繰り返す。
なぜ書類に記載された事項のやり取りで、5回も同じ話を繰り返すのか?
先行き不安になる。
そもそもどうやったら、この記載を見て弟の分が欲しいと思うのだろうか?
しかも一回言ったら分かるだろうに、なぜ何回も間違えを繰り返す?
見た目で判断するのはアレだが、そのような読解能力が足りなそうな方に見えたので、初回の質問から『私が間違えましたか?』と尋ねた。
私が間違えている可能性もある。ローカルルールだ。
どこの職場にもローカルルールが存在することは知っている。
私が市役所の書式に慣れておらず、解釈の仕方を間違えている可能性だってある。
私が間違えたのか、職員の凡ミスなのかはっきり確認したくて言っていたのだが、この女性職員の話では、どちらの間違いでもなかったようだ。
よく分からん。
このままだと、また何か間違いっぽいことが起こりそうだ。
申請用紙を提出してしばらく待つ。
周りのお客さんが入れ替わる。
番号も私よりも10番以上も進んでいる。
いつまで待つのだろうか、と思っているとようやく中年女性職員が戻ってきた。
「B男さんは、お父様やお兄様とは世帯を別にされていますよね。ご兄弟の分は、同居の世帯でない場合、委任状がないとお渡しできません。」
と断られた。
駄目なのか?
裁判所からは、良いとも駄目とも言われていない。
しかし、取得できないものを必要書類にはしないだろう。
と裁判所の性善説を信じて行動することにした。
私は裁判所から貰った遺産相続調停の申し立てに必要な書類欄を見せながら、遺産分割調停に必要なので取得に来たことを説明し、更に必要書類の項目を指さしながら、何度も事情と必要性を伝えるが、取り合ってもらえなかった。
固定資産税評価証明書も同じ。
固定資産税評価証明書をお願いすると、その中年女性職員は税の担当者に『良く分かんないから教えて(ハートマーク)』と頼んで用紙を貰っていたが、その担当者からは同居の家族以外だとダメと言われた様子だった。
頼むから職場でハートを飛ばすようなことは止めてくれ、と心の底から思った。
税担当者に断られた私の担当である中年女性職員は、当然固定資産税評価証明書は出せない、と言ってきた。
仕方ないので税の担当者に聞こえるよう、税担当者に向かって、大きな声で
「裁判所に提出するのに必要なんですけど、それでも駄目なんですか。」
と言うも、税担当には無視され、説明どころか目も合わせてもらえなかった。
私の質問を聞いて、税担当者とアイコンタクトをした中年女性職員が、
「駄目です。同居世帯のご家族様にしかお渡しできません。委任状を貰ってからお願いします。」
とはっきりと言った。
この固定資産税評価証明書が後々大きな意味を持ってくることになるとは思ってもみなかった。
どうしても駄目だ、と言うので仕方なく父親の書類のみ受け取る。
ダメ出しからしばらく待たされ、申請から交付まで1時間以上も掛かって、やっと貰ったのは父親の戸籍謄本5通のみ。
掛かった費用は、
・ 戸籍謄本(全部事項証明) 1通 450円
・ 除籍謄本 2通 計1500円
・ 改製原戸籍謄本 2通 計1500円
で合わせて3450円だった。
兄の戸籍は貰えなかった。
午前中で全ての書類を取得する予定だったが、もうお昼直前。
次の目的地である法務局まで辿り着けない。
それでも書類が揃わないと申請できない。
市役所で取得できない書類はどうすれば良いのかを裁判所にも尋ねなければならない。
書類を交付しないのは、市役所のミスかも知れない。
お金を支払いながら頭は今後のことを考えていた。
席を立つと同時に甲裁判所に電話を入れた。
用件を言うと、私の名前といつ相談したのか相談日を尋ねられた。
少し待たされ、当時の担当者であるチャチャさんに電話がつながる。
チャチャさんじゃなくてもいいのに、と思ったが。
チャチャさんに事情を説明すると、
・ 貰えないんですか?
・ 市役所は裁判所とは違う団体なので、貰えない理由は分かりません
・ 市役所によって対応が違うのかもしれません
と、何とも頼りない返事で、それ以上対応する気も窺えなかったことから、自分で調べて対応すると言って電話を切った。
これで分かった(つもりな)のは、裁判所側の立場からすると、普通であれば交付されるらしい、と言うことだ。
仕方ないので、お昼を乙市内で食べて時間を潰すことにした。
お昼ご飯を食べながらネットで調べると、拒否される事例が見つからない。
これはきちんと聞かなければならない、と思った。
★ 法務局
昼食後は法務局に行って、不動産登記事項証明書を申請する。
受付機械で申請するようになっていた。
何度か失敗すると、受付にいた中年女性が優しく教えてくれた。
それでも駄目だったので、申請用紙を記載して受付してもらう。
失敗理由は、父親が建物を登記していなかったからだそうだ。
受付機械で、土地から入力したのか建物から入力したのかは正直覚えていない。
しかし、建物が未登記だったのは間違いない。
うちの親は、家をほぼ自分で建てていた(私も釘を打つなど手伝った記憶がある)ので、借金はない。
そのため、銀行等からお金を借りていないので、こういう場合未登記のケースが散見されるという事だった。
数分待つと、不動産登記事項証明書が出来上がり、収入印紙の購入を促された。
代金は600円。
どうせ裁判所に提出する申立書にも貼付が必要なので、追加して購入する。
追加代金は1200円。
法務局での支払い 計1800円也。
法務局を出るとすぐ乙市役所本庁舎に電話する。
市民課に繋いでもらい、遺産分割調停に必要なので同居家族以外の相続人について戸籍謄本を取りたいのだが、委任状がないと取れないのか、と尋ねると、市民課の女性職員は『そういう事情(遺産分割調停)であれば取得できますよ』と即答する。
あれ?
午前中に窓口に行ったら交付してもらえなかったんですけど、と念を押すと、少々お待ちください、と言われ10分ほど待たされた。
結果は『できます』とのこと。
やっぱり。
「それでは今伺いますのでお願いします。そしてこの電話の件を伝えればいいですか? 誰を訪ねて行けばいいですか?」
と尋ねる。
「普通に窓口へお越しください。それで大丈夫です。番号札を取って普通に並んで下さい。」
と嬉しい回答。
やはり本庁舎は違うな。
エリートの集まりだよ。(勝手な主観)
そう思って本庁舎の窓口で書類を記載し、番号札を取って、待つこと数分。
呼ばれる。
「弟さんの書類が必要なんですか?」
あれ?
どこかで聞いたような言葉が聞こえる。
「いえ、②から①を見ると私は弟ですので、そのように書きました。必要なのは②である兄の書類です。私間違って書いていましたか?」
と伝える。
「いえ、大丈夫です。」
何が大丈夫なのだろうか?
心配になってきたよ。
本庁舎でも分庁舎でも同じことを言われているよ。
そして申請用紙を確認した職員は、再度駄目出し。
「同一世帯の方でないと委任状が必要です。委任状を貰って来て下さい。」
書類を返される。
おいおい。
数分前、電話で確認したばかりだぞ。
「あのう先ほど電話して、このような場合は委任状が無くても大丈夫と言われたんですが駄目なんですか?」
「少々お待ちください。」
奥に行く職員。
数分待つ。
「それでは、ここの備考欄に『相続のため裁判所に提出』と記載していますが、それだけではお出しできませんので、ここに遺産分割調停のため、と記載しなおして、更に『話し合いに応じず委任状を貰えないため』と一筆記載して下さい。」
とのこと。
受付で書類を貰った時に備考欄は確認しないのだろうか?
そこに記載する文言が問題なのだろうか?
いずれにしても私が悪いとの言い方だった。
そのように最初から記載していない私が悪いのだ。
口頭で説明して備考欄を書いても後から返されるのか。
最初から正確に書かないと、いくら説明していても乙市役所では交付してくれないそうだ。
腹を立てても仕方ないので言われるがまま記載し交付を受ける。
兄の分の戸籍謄本、そして住民票抄本をゲットする。
費用は戸籍謄本450円、住民票300円。
ここでの支払いが、750円。
その後はすぐに税務課へ行く。
実家の固定資産税評価証明書を取得するためだ。
受付で若そうな女性が担当する。
書類を記載し提出するが、ここでもまた同居の世帯じゃないと駄目だと断られる。
もう良く分からない。
根拠を尋ねても、同一世帯じゃないと『代理人選任届』を貰ってこないと駄目と言われるばかり。
根拠の説明がない。
疲れた。
ここで押し問答しても答えが正しいか間違っているかきっと分からない。
乙市役所はそういうものだ。
素直に帰宅することにした。
正直丙市役所にも行く予定だったが、心底疲れた。
単なるドライブに毛が生えたものだと思って付き合ってくれた妻もぐったり。
文句が多くなる。
だから、『ついて来なくてもいい』と言っていたんだが。
喧嘩になるので、その余計な一言は言わない。
戸籍謄本などは調停で使うと言えば貰えるものらしいが、固定資産税評価証明書は良く分からない。
ネットで検索すると、普通なら交付して貰えるらしいが、我が家の場合、C男が既に生前贈与を受けている。
亡くなった父親の名義なら貰えると思うが、名義が変わっているケースはネットでは検索できなかった。
なので、そのことも詳細に知りたい。
しかし、市役所の一般職員にただ聞いても、上司に相談することなくすぐに駄目を言う癖がついている乙市役所(偏見)。
帰宅してもブーブー言う妻をなだめながら、乙市役所に聞いてみることにする。
固定資産税評価証明書について細かく調べてもらおう。
※ 平日2日目
※ 費用 乙市役所分庁舎 3450円
法務局 1800円
乙市役所本庁舎 750円
計6000円
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